9-3 余計に分からなくなった………!
「そろそろ始めるとしよう」
先程までの耀と士のやり取りを終え、デスクに座る幸夫の前に横並びに整列する春達。ただ一人、士だけが幸夫と春達の間の側面に立ち、双方の話を聞くような立ち位置に居た。
「今回皆を呼んだ理由は五日前にあったAランク喰魔討伐作戦中、突如として現れたSランク喰魔について話を聞くためだ」
幸夫が五人を呼んだ理由を淡々と説明していく。そして、自分達が呼ばれた理由に対して誰一人驚きはしない。むしろ、だろうなという納得の姿勢が見えた。
「ちなみに言う必要ないかもしれないけど、俺がここに来たのもそれが理由」
「あ、それはなんとなく気づいてました」
「「「うんうん」」」
「あはは。だよな」
士が自分が居る理由を補足として話すも、春は気づいていたと言って他の三人も同調するように頷く。
Sランク喰魔が出てすぐにSランクの隊員来れば、大体の人間が察せるだろう。
「いきなり話の腰を折るな士」
「いやー、すみません喜多さん」
「………まったく、Sランクになっても変わらんな」
話が途切れたことに幸夫が注意すると士は頭を掻きながら謝罪の言葉を口にする。しかし、まったく悪いとは思っていないことが明るい声音とあっけらかんとした笑顔から感じ取れる。
その態度に幸夫は呆れ、溜め息を吐くように言葉を零す。しかし、どこか嬉しそうに小さく笑みを浮かべていた。
「ん゛んっ、とにかく。Sランク喰魔が現れたときのことを今一度説明してほしい。皆ですり合わせて思い出して行けば、より深く当時のことを思い出せるはずだ」
「「「「「はい」」」」」
そこから五人は拳磨が現れたときのことを話していく。最初に説明を始めたのは愛笑であり、拳磨と一対一で対峙していたときのことを話す。拳磨と対峙した春達四人も知らない話のため黙って聞き入っていた。
そして、四人が駆けつけてからのことは十六夜が中心になって話していく。
拳磨が口にした闇魔法と光魔法について、士と幸夫は大きく目を見開いて驚きを露わにする。だが、さすがと言うべきかすぐには聞き返さず、落ち着いて話を聞くことに徹していた。
説明を続けていく中で十六夜と篝が意識を失ったところまで話が進むと、今度は耀が中心となって話を進めていく。
十六夜と篝も話を聞く側に回り、耀達の説明を聞いていく。拳磨についてはあまり驚かないものの、闇魔法と光魔法の合体魔法にはそれを知らない十六夜、篝、が士の三人が大きく目を見開いて驚いた。
篝が驚いた勢いのままに二人に詳細を問おうとするが、十六夜がそれを制したことで話は続いて行った。
そして、拳磨が去ったところで説明は終わる。重苦しい空気が室内に漂う中、険しい表情をした幸夫が息を吐いた。
「ふぅ………。Sランク喰魔である拳磨の突然の襲来。闇魔法と光魔法について喰魔である拳磨が把握しており、その使い手の所在を探していた。そして、その使い手である二人が死ぬと困る何かがあり、Aランク喰魔である傀頼と繋がりがあった。なにより、その背後にいる“シカク”という謎の存在………」
「改めて整理すると情報が多すぎますね………」
簡略化しただけでもこれだけあり、その一つ一つが極秘にしなければならないレベルの問題である。流石の幸夫もデスクに肘を置いた右手で額を抑え、士は困ったように天井を見上げてそれに同調していた。
そんな二人をよそに、篝は興奮冷めやらぬといった様子で春と耀に話しかけていた。
「貴方達合体魔法をやったの!? というより出来たの!?」
「なんか出来た、としか言えないよね。さっきも言ったけど光魔法を使ってた私の剣に闇を流し込んで来たの春だし」
「だ、そうだが。どうなんだ春?」
合体魔法を使う起因となった春へと三人の視線が集まる。そして、その話を聞いていた他の三人もまた、合体魔法を使うという答えに至った春の当時の状況を知りたいと耳を傾けていた。
その問いに対し、春は当時のことを思い出しながらゆっくりと語り始めた。
「んー、合体魔法を使おうと思ったわけではないんだよな………」
「じゃあ何で白銀の剣に闇魔法を流し込んだんだ?」
「それはなんというか………。耀と初めて会った時みたいに剣に引き込まれるような感覚がして、そしたら自然と剣を握って闇を流し込んでた。なんとなく、そうするべきだと思ったから………? その結果が合体魔法になっちゃった?」
「なんで疑問形だよ。しかも『なっちゃった』ってオマエな………」
「だって狙ったわけじゃないし………」
「あの極限の状況でそんな危ないことを………いや、そんな状況だからか………?」
闇魔法の力を考えれば、追い込まれた末の自殺行為とも取れる行動を春は考えも無しに行っていた。さらに帰って来た返答は曖昧であり、十六夜は若干呆れてしまう。
しかし、春と耀の関係は現状、理屈では説明できないモノなのも確か。追い込まれたことで何かが目覚めたようにも思えた。
十六夜が春の行動について思考を埋め尽くされると、まだ聞きたいことがある篝が耀へと質問をした。
「耀はなんで春の闇魔法を受け入れたの? 普通なら振り払ってもおかしくないと思うのだけれど」
「えーと、私もちゃんとは説明できないんだけど、最初は何してるのって思ったよ。でも、すぐに私も剣に引き込まれるような感覚がして、これでいいって思っちゃったんだよね」
「つまり、春君と同じってこと?」
「うん」
篝の問いに、耀は春とほとんど変わらない返答をする。それに対する篝の反応は十六夜と同じ呆れ―――ではなく、険しい表情を浮かべていた。そして、それは篝だけでなく春と耀を除いた全員が同様であった。
二人の不可思議な行動の理由に思考が追いつかない中、愛笑は直近でも二人に起こった不思議な出来事を思い出した。
「そういえば耀って初めて春と会ったとき、春と会う前に存在に気づいてこの部屋から飛び出したんだよね。魔力感知とは別に」
「はい。そうです」
「ん? そうなのか?」
愛笑が春と耀が初めて会ったときのことを尋ねると、そのときのことを知らない士が首を傾げる。そして、それを見た十六夜が未だ上がっていない話題があることを思い出した。
「なあ? 支部長達って“夢”についてなんか聞いたか?」
「夢………というとあれか。春君がよく見る銀髪の女性が出るという」
「あれがどうかしたの?」
「あー、なるほど」
十六夜の言う夢というのは、春と耀が同じ夢を見ていて出てくる相手が互いに酷似しているということ。しかし、幸夫と愛笑の反応からはそのことについて何も聞かされていないことが分かる。流れから士も知らないのは明白だろう。
それを把握すると十六夜は視線を春と耀の二人へ向け、篝も同じように目を向ける。十六夜としては自分から話してもいいがどうせなら当人が言えという鋭い目であり、篝は私の口から言うのは違うわよねーという配慮の籠った困惑の目であった。
二人の目を見た春は耀へと目を向ける。それは話していいのかという確認を取る目であり、耀はそれを察して許可を出すように優しい笑顔で首を縦に振る。
春も小さく笑みを浮かべて首を縦に振ると事情を知らない士達に話し始めた。
「実は、その夢に出てくる女性と耀が………凄く似てるんです。本人かってくらい」
「え、それ本当?」
「うん。本当だよ姉ちゃん」
「それで、実は私も小さい頃から春と同じ夢を見ていて春とそっくりな男性が出てくるんです。初めて会った日に春と会う前に部屋を飛び出したのもその男性と同じ気配を感じたからで………」
そこまで聞くと三人は唖然と驚愕の表情のまま固まる。あまりにも信じがたい話ではあるが、これまでのことを考えると疑うことも難しい。
突然のことに思考がまとまらない中、幸夫がゆっくりと二人へ話しかけた。
「あー、えっと。あまりこういうことを聞くのは良くないかもしれないが、もしかして二人が交際を始めたのは夢に出てくる相手とそっくりだったからかね?」
「「いいえ違います。一目惚れです」」
「あ、なるほど。違うのか………」
((違うんだ………))
内容から二人が交際を始めた理由なのではと思ったが、二人からはキッパリと否定される。普通はそう思っても仕方がないだろうし、士と愛笑もそう思っていたため違うことに内心驚いていた。
「さらに言うと私って小さいころからずっと『私には運命の相手が居る』と思ってて、春と会った瞬間にその相手が春だと確信しました」
「「「余計に分からなくなった………!」」」
耀の追加情報に三人は余計に混乱し、頭を抱え始める。一緒の夢に一目惚れ、終いには運命の相手とかなんだよと愚痴を零して思考を放棄しそうになる。
十六夜や篝はすんなりと受け止めていたが通常はこういう風に混乱する話だというのを、春達四人は目の前の三人から再認識していた。
閲覧ありがとうございました!
面白いと思っていただけたなら『ブックマーク』『作品の評価』『いいね』をお願いします!
作品の評価は【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると嬉しいです!




