8-4 暗躍する者達
―――春が目覚める二日前のこと。
分厚い雲に覆われた薄暗い空。ほとんど岩や砂しかない荒れた大地。そんな異界の大地を拳磨が歩いていた。
「全く、殺風景な景色だな………」
いくら歩いても似たような景色ばかり。そのことに拳磨は退屈そうに愚痴を零す。トボトボと重そうな足取りで歩いていると、拳磨は突如として足を止める。
そして、目の前に現れた人物にニヤリと笑みを浮かべて声を掛けた。
「よお、糸霞空」
生気を感じられない真っ白な肌と白菫色の少しウェーブ掛かった長い髪。黒い女性の着物を纏い、それを鎖骨や豊かに育った胸の谷間が見えるほど着崩していた。身長は一七〇センチで、綺麗な顔立ちと切れ長な目が相まって美しい女性の印象を強く受ける。
そして、この女性も人間では白目と呼ばれる結膜が黒く染まっており、“金色の瞳”が輝いていた。
その金色の瞳と異界に平然と居ることから、この女性もまた“Sランク喰魔”だと察するには十分であった。
「随分とボロボロですね。Aランクの魔法防衛隊員にでも出くわしましたか?」
凛とした声で無表情のまま尋ねる糸霞空。その問いに拳磨は上機嫌そうにニヤリと笑った。
「いや、それよりももっと面白い奴らだ」
「そうですか。それで、傀頼の様子は?」
「傀頼ならやられたぞ」
「………は?」
ここまで無表情を貫いてきた糸霞空の表情が僅かに呆気に取られたものへと変わる。僅かに開いた口は何とも言えないほど間抜けで可愛らしいものである。
しかし、すぐに口を閉じて鋭い目で拳磨のことを見つめた。
「どういうことですか?」
「詳しいことは知らないが、魔法防衛隊員が傀頼のところに押し寄せてた」
「………それで、あなたは何を?」
「足止め食らって傀頼を助けられなかった。スマン」
糸霞空からの問いに拳磨は淡々と答えていく。その中で、糸霞空は足止めを食らったと聞いた瞬間に眉を顰める。
拳磨の実力は十分に知っており、拳磨が足止めをされたというのがにわかには信じられなかった。
「………あなたが? Aランク隊員を三人同時に相手にでもしたのですか?」
「いいや、相手にしたのはBランクくらいの女とDランク四人だ」
相手を聞いた瞬間、糸霞空の目が冷え切ったものへと変わる。そして、子供を叱るような声音で拳磨へと問いかけた。
「………あなた、もしや遊びましたね?」
「だから言ったろ。スマンって」
明らかに怒っている糸霞空だが、拳磨はあまりに気にした様子は見せず軽く謝罪を済ませる。その言い方と態度からは全く反省と謝意の色が見えなかった。
糸霞空も拳磨のその態度に呆れ、大きな溜め息を吐いた。
「ハア………。まったく、あれだけの操作能力は滅多にないというのに………」
「まあ、そう怒るな。何も悪い知らせばかりじゃない」
「と、おっしゃいますと?」
「“楽園”を開くための鍵。―――光魔法と闇魔法の使い手を見つけた」
「っ!」
そこまで聞くと、糸霞空は突如として目の色を変える。先程までの呆れと落胆の表情から一転し、嬉しそうに蠱惑的な笑みを浮かべた。
「………詳しくお聞かせください」
閲覧ありがとうございました!
次回から新章スタートです!
ですが、新章の話を固めたいため更新はしばらく先になります! 詳しいことは活動報告に書いてあります!
楽しみにお待ち下さい!




