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7-6 理解することのできない怪物(後編)


 祝! 50話突破!

 それでも一章が終わらない………。


『………お、のれ………』


 喰魔を操るAランク喰魔(イーター)こと、傀頼の居る洞窟の深奥部。

 傀頼は翼や脚はもげて無くなっており、体は凍り付いて鎖と樹で地面に倒れ伏すように拘束されていた。そして、無くなった翼や脚の付け根の部分からボロボロと体が崩れ始めていた。


「ようやくか………!」


「コイツ逃げるばっっっかりで全然攻撃してこなかったから、本当にめんどかった」


 恵介は決着がついたことに一息入れ、美樹は苛立たし気に愚痴を零す。

 傀頼は基本攻撃はせず、ただただ攻撃を回避することに全力を注いでいた。時折、Aランク隊員の内の誰かがこの場を離れようとするときのみ、その妨害として攻撃はしていた。

 しかし、そんな戦いをすれば傷ついていくのは傀頼だけであり、三人には一切の怪我やダメージが無かった。


『ふ、っふふ………』


「「?」」


 先程まで悔しそうな声を上げていた傀頼。しかし、細々とした声ではあるが突如として笑い始めたことに恵介と美樹は訝し気な目で傀頼を見下ろした。


『私はここで………死ぬが、貴様らの仲間もぉっ!?』


 傀頼は何か負け惜しみのようなことを言い始める。しかし、その途中で頭部を鎖に貫かれ、言い切ることは出来なかった。

 鎖の出現に二人は後ろへと振り返る。するとそこには緊迫した表情を浮かべる幸夫の姿があった。


「二人共! 通路の瓦礫を退かし、B班の皆を助けに行くぞ!」


「「はい!」」


 幸夫が走り出し、その後に続いて二人も走り出す。その背後で傀頼は静かに消滅していった。







「傀頼の奴はやられたらしい」


「「!」」


 傀頼というのがAランク喰魔を指すものだと春と耀は分かっている。ゆえにSランク喰魔の言葉をしっかりと理解し、Aランク喰魔が倒されたという事実に二人は目を見開いて驚いた。


「俺がここに居る意味は無くなったわけだ。つまり、俺を足止めしたお前達の勝ち(・・)だ」


「「っ!」」


 勝ち、そう言われた二人は驚愕の表情から一転し、Sランク喰魔のことを睨む。自分達を圧倒した相手からそんなことを言われても皮肉にしかならず、二人の怒りを買うには十分過ぎる言葉であった。

 喰魔は二人の睨みに対し、喰魔はどこ吹く風と飄々とした態度を保っていた。


「そう睨むなよ。皮肉じゃなくて素直に褒めてるんだぞ」


 Sランク喰魔が宥めるようにそう言うが火に油であり、二人が喰魔を睨む目がより鋭くなる。より鋭くなった二人の目に喰魔は逆効果だったことを悟り、小さくため息を吐いた。


「はぁ、まあいいや。俺はもう行く。ここに居る理由はもう無いからな」


 Sランク喰魔の言葉に二人は目を見開き、呆気に取られた表情で喰魔を見つめる。その二人の表情が軽くツボに入ったのか、喰魔は小さく笑った。


「ハハ。それじゃあな、次に会う時はもっと強くなってろよ」


 背を向け、外に向かって歩き出そうとするSランク喰魔。この場を立ち去ろうとする喰魔の姿を見て耀は内心ホッと一息吐く。


(悔しいけど、今の私達じゃどう足掻いても勝てない。望み薄だった撃退が叶っただけマシだと思わないと………)


 Sランク喰魔に敵わなかった現実を受け入れ、その温情で生き残る屈辱も受け止める。

 その隣で、春は去っていく喰魔の背を見つめる。そして、ゆっくりと口を開いた。


「………待て」


 それが、Sランク喰魔に対して掛けられた言葉なのは明白であった。喰魔は足を止め、耀は隣の春を驚きの表情で見つめる。


「春………!?」


「………………」


 自身の名前を呼ぶその声に含まれているものを春は分かっていた。それでも春は表情を変えず、真っ直ぐにSランク喰魔を見据える。

 そして、呼び止められた喰魔はゆっくりと後ろへと振り返り、春と視線を交えた。


「なんだ?」


 薄っすらと笑みを浮かべ、顎を若干上げて春のことを見下すように見つめる。しかし、春は怒りを見せるようなことは無く、真っ直ぐに喰魔を見つめたまま口を開いた。


「お前は―――お前達喰魔(イーター)は何を考えて、何を思って人を殺すんだ?」


「………!」


 唐突なその質問に耀は目を丸くさせる。なぜその質問をしたのか、その意図を理解できなかったからだ。

 しかし、それは当然である。春自身、深い考えがあって問いかけたわけではない。

 ただ、ふと気になってしまった。目の前に居るこの男は、かつて自分の両親を殺したあの喰魔は、一体何を考え、何を思ってあんなことをしたのかと。


「………………」


 Sランク喰魔は笑みを消し、顎を引いて春のことを見つめる。自身の行動理念を問われ、喰魔は改めて戦う理由を見つめ直していた。


「………そうだなぁ。大した理由はないな」


「………………」


「俺達喰魔には魔力を求め、進化しようとする本能がある。それに対して深く理由を考えたことは無い。けどな―――」


 その時、ミシッと何かが軋む音が天井から聞こえた。

 春、耀、Sランク喰魔、愛笑の四人が顔を上げて天井を見つめる。それと同時に天井に亀裂が走り、ボロボロと剥がれ落ちるように天井の一部が魔力照明と共に崩れた。


「「「―――っ!?」」」


 これまでの戦闘でダメージが蓄積し、今になって耐えきれなくなり崩れたのだろう。落ちてくる天井の瓦礫にSランク喰魔を除いた春、耀、愛笑の三人が目を見開いて驚く。そして、春と耀は焦るように歯を食いしばると周囲に視線を向ける。

 倒れたまま動かない十六夜と篝、そして意識はあれど壁に背を預けたまま動けない愛笑を次々に視界に入れた。


(マズイ………!)


(このままじゃ………!)


 このままでは瓦礫に潰されるか、良くても生き埋めか下敷きになってしまう。それは春と耀も同じであり、危機的状況にある。

 しかし、自分よりも仲間達に意識を割き、守るために体を動かそうとしていた。


 だが、体は満足に動かない。立ち上がろうと片膝を着くがそれ以上は体が持ち上げられない。

 (はや)る意識とは裏腹に、瓦礫は無慈悲にも落下し続ける。

 そんなとき、Sランク喰魔が魔力を込めた右拳を構える。そして、落ちてくる瓦礫に向かって血が滴る右拳を思いっきり突き出した。


衝撃(インパクト)!」


 Sランク喰魔の右拳から衝撃の魔法が放たれる。その衝撃は横に広がり、広範囲に渡って瓦礫を粉々に砕いた。


「を………!」


「「ん………!」」


 衝撃によって起こった風に驚く春と目を細める耀と愛笑。砕かれた瓦礫がパラパラと地面へと落ちていき、照明が減ったことで全体的に洞窟内が暗くなっていた。


 砕かれた瓦礫の雨が止むと、春と耀の二人は拳を天井へと突き上げたまま立つSランク喰魔を呆然と見つめる。

 喰魔は拳を下ろし、自身を見つめる春と視線を再び交える。薄暗い洞窟内にて、喰魔の金色の瞳はより不気味に輝いていた。


「―――けどな、他の奴のことは分からないが俺は戦うことが大好きだ。特に、強いやつとの真っ向勝負はな」


「………」


 唐突に語り始めたSランク喰魔だったが、それが先ほどの言いかけた答えだと察するには十分だった。春は何も言わず、黙ってその答えを聞き続ける。


「戦うことこそが俺の生きがいだ! その果てに相手が死のうがどうでもいい! 俺が死ぬことになったとしても、最高の戦いの中で死ぬなら本望だ!」


 尖った犬歯が目立つほどの豪快な笑顔を見せ、肉食獣のようなギラついた目を見せるSランク喰魔。その姿には一切の迷いが感じられず、言葉に偽りが無いことが見て分かった。


「なるほど、よく分かったよ」


 Sランク喰魔の回答に春は冷え切った声で応え、それに負けないくらい冷たい目を向ける。


 質問した意味はあった。喰魔からの回答によって、より深く理解した。


「お前達がどうしようもない、理解することのできない怪物だってことがな………!」


 強者や自分を楽しませてくれる存在に対しては向き合うが、それ以外の存在は一切気に掛けない。それ以前に、命というものに対しての尊重や思いやりすらない。

 そんな悍ましい存在に、春は明らかな拒絶と嫌悪感を示した。


 耀もまた、Sランク喰魔の回答に春と同じ目を喰魔へと向けていた。


「………ハハ」


 二人の目にSランク喰魔は笑う。冷たさの奥にある確かな怒りと熱意を感じ取っていた。

 喰魔はこの場を去るために再び背を向けようとするがそこでふと、喰魔はあることに気が付いた。


「そういえば、名乗ってなかったな」


「「聞きたくない」」


「そう言うなよ」


 名前を聞くことさえも拒絶する二人。しかし、喰魔はおちゃらけた様子でそれを流すとゆっくりと自身の名を告げた。


「俺の名前は―――(けん)()だ。お前達は?」


「「言いたくない」」


「そう言うなよ」


 名乗ることも当然ながら拒絶する二人。Sランク喰魔こと、拳磨は再びおちゃらけ様子でそれを流した。


「まあいいや。お前らの名前は覚えたし。春と………耀だったか?」


「違う。俺の名前はナナシだ」


「私はゴンベエ」


「よし、春と耀だな。覚えたぞ」


「「チッ!」」


「………お前ら、割と余裕あるな」


 今にも自分達を殺せる相手にこれだけの態度を取るその肝の据わり具合に、拳磨でさえ呆れてしまう。もう二人の中ではコイツ相手には適当でいい、という存在になっていた。


 拳磨は呆れ顔から一転し、笑みを浮かべると二人に背を向けて外へと歩き出した。


「それじゃあな春、耀。さっきも言ったが、次に会う時にはもっと強くなってろよ。倒れてる金髪と桃色のやつにもよろしくな」


 右手をひらひらと振りながらそう言い残し、外へと繋がる通路の闇へと拳磨はその姿を消した。


「「………………」」


 春と耀はじっと拳磨が消えた通路を見つめる。

 何も言わず、何もせず。ただ呆然と見ていた。

 やがて、その目から力強さが消えていく。光が消え、瞼がゆっくりと落ちていく。


「「………――――――」」


 そして、糸が切れた人形のように地面へと倒れてしまった。





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