4-6 煙と加速
今回は区切りの関係でちょっと短めです。
優馬が虎型の喰魔を倒した頃。深奥部へと繋がる通路の入り口から少し離れた所で、二人のCランク隊員が戦っていた。
「ディープスモーク」
Cランク隊員の一人、東雲修から三体のCランク喰魔を覆うように煙が放たれる。その煙は濃く、煙の先の景色が見えなくなってしまった。
喰魔の内の一体、この間春達が相対したトカゲ人間のような喰魔が周りを警戒する。煙のせいで魔力感知もうまく働かず、目と聞こえてくる音で周囲を警戒していた。
そのとき、煙の奥に見える人影に喰魔は気づく。その影に向かって走り出すと腕を大きく振り上げ、鋭い爪を振り下ろした。
「シャアァァァ!」
振り下ろされた腕によって煙が少し晴れる。そして、爪を振り下ろした先に居たのは東雲であり、体が切り裂かれたようにバラバラになっていた。
東雲の姿に喰魔はニヤリと笑う。しかし、切り裂かれた東雲はそんな喰魔を馬鹿にするように笑う。すると、東雲は煙となって消えてしまった。
「キシャ?」
切り裂いたはずの東雲が消えたことに喰魔は首を傾げる。その背後に、東雲は静かに煙の奥から現れた。
「残念、外れだ」
「シャ!?」
背後から聞こえてきた声に驚き、慌てて振り返ろうとする。しかし時すでに遅く、東雲の魔法が喰魔に放たれた。
「スモークナックル!」
煙で作られた拳が喰魔の背中を殴り、空へと打ち上げた。
「シャッ………」
空気を吐き出し、苦悶の声を漏らす喰魔。しかし、東雲の攻撃はまだ終わっていなかった。
「―――ラッシュ」
ぼそりと東雲が技名を呟く。すると、打ち上げられた喰魔を更に上から現れた煙の拳が襲う。
地面に向かって叩き落とすように喰魔は殴られる。それは一度だけでなく、煙の拳が無数に現れると雨のごとく喰魔に殴打を浴びせた。
「キシャアァァァァァ!」
喰魔は拳の雨を浴びながら悲鳴を上げ、地面へと叩きつけられる。そして、ピクリとも動かなくなると静かに消滅していった。
喰魔の消滅を東雲は確認すると、くるりと後ろへと振り返る。
「よし、他の奴らもちゃっちゃと片づけるか」
東雲はそう呟くと、煙の中に居る残りの喰魔を片付けるために歩き出した。
そして、もう一人のCランク隊員、円寺速人は二体のCランク喰魔の周りを高速で走り続けていた。
「ほらほら! どうしたどうした!」
熊型と虎型の喰魔の周りを高速で動き続ける円寺。
喰魔達は円寺を捉えようと必死に目で追うも、あまりの速さにその影を捉えることすら叶わなかった。
円寺の速さに翻弄され、喰魔達はその場で忙しなく首を動かすことしか出来ない。そんな中、円寺は熊型の喰魔へと接近すると、その勢いのまま喰魔の顔に跳び蹴りを叩き込んだ。
「オラァ!」
「グゥッ!」
熊型の喰魔が後ろへバタンッと大きな音を立てて倒れる。そして、円寺は倒れた喰魔の頭上線上に着地すると、勢いよく背後の喰魔達へ振り返った。
「そんなんじゃ俺には付いて来れないぞ!」
五十代の男性には似合わない生意気そうな笑顔を浮かべる円寺。虎型の喰魔と起き上がった熊型の喰魔は円寺の笑顔に怒りを覚え、目を鋭くさせて唸り声を上げる。
円寺は猛烈な殺意を見せる二体の喰魔に怖気づくことなく、笑顔のまま再び走り出した。
※
「っらぁ!」
闇を纏わせた拳で喰魔の体を打ち砕く春。未だ激しい戦闘が続く中、春はCランク隊員である優馬の姿を視界に捉える。
優馬は三叉槍に水を纏わせ、熊型の喰魔達が放つ風の斬撃を薙ぎ払っていた。
「………………」
次に、春は東雲と円寺の方に目を向ける。東雲の方は煙で覆われていて良く見えないが、円寺は高速で動き続けることで喰魔達を翻弄する姿が遠巻きに見えた。
(俺達が二人以上でようやく倒せたCランク喰魔。それを一人で複数体も………)
春の脳裏に思い起こされるCランク喰魔との戦闘。最初は耀と一体、次に十六夜と篝と共に二体倒した。どちらとも自分一人では確実に勝てなかった相手だった上に、四人で戦ったときは満身創痍となる結果だった。
そんな相手を一人で複数体相手にし、且つ優勢に戦っているCランク隊員の三人。その姿に春は悔しさにも似た憧憬の念を抱いた。
「凄いな………」
ぼそりと、感想がこぼれ出るように春の口から呟かれる。その直後、洞窟内で一際大きな爆発と衝撃音が響き渡った。
その音に春は目を見開き、慌ててその爆発の方へと振り返る。
「な、なんだ!?」
慌てて振り返った先に居たのは、二体のBランク喰魔を相手に魔法を放つ愛笑の勇ましい姿だった。
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