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4-4 三人のAランク隊員


 洞窟を突き進んで行くB班。やがて通路を抜け、作戦通り大きく開けた空間に出る。そこは天井も高く、喰魔(イーター)達を迎え撃つには申し分ない場所であった。

 その空間の中心部分にまで辿り着くと愛笑はB班の隊員に号令を掛けた。


「止まって!」


 号令に全員足を止める。愛笑はそれを確認すると近くに居る五十代前半ほどの顎に短く髭を生やした隊員に声を掛ける。


東雲(しののめ)さん、喰魔(イーター)達は来てる?」


「俺達が入って来た入り口、そしてAランク喰魔が居る深奥部に繋がる通路からも来てるな」


「数は?」


「入り口側からは約五十体。内Cランクが三体、残りがDランク。深奥部からは約六十体。内Bランクが二体、Cランクが五体、残りがDランクって感じだな」


 顎に短く髭を生やした隊員改め、東雲は淡々と喰魔のおおよその数とランクでの個体数を答えていく。その個体数に四人は表情を険しくさせ、ぼそりと小さな声で話し始めた。


「Bランク二体に、Cランクが八体。残りのDランクの喰魔が百体か………」


「これで四分の一なんて、笑えないわね」


「いや、四分の一じゃ()え。Aランクの喰魔はもしものためにかなりの数の喰魔を残してるはずだ」


「実際はもっと多いし、進化することもあるから数はもっと増えるよね」


 春と篝の二人が言ったことに十六夜と耀が言葉を付け加え、同じように表情を険しくさせる。そして、今回の任務の危険性とこれを放置すれば起こる悲劇を再認識し、内に秘める緊張を強めていく。

 一方、緊張を強める四人とは違い、愛笑は現状を冷静に受け止めていた。


「大体百十体か。おおむね予想通りね」


 昨日の時点で推定五百体。今日になればその数が増えていることは分かっていた。

 自身の手元に百体くらい残すだろうと考え、一班に対して百から百三十体ほど迎撃に向かわせるだろうということも魔法防衛隊は考えていた。そして、その予測は見事に的中したと言っていいだろう。


「作戦通りここで迎え撃ちます! 照明の用意を!」


 愛笑がそう言うと隊員達は筒状の何かを手に持ち始める。そして、筒をそれぞれ天井の各所に向けると筒についているスイッチを押した。

 すると、筒の先端から卓球の球サイズの球体が飛び出す。その球体は天井に向かって飛んで行き、天井に張り付くと強い光を放って洞窟内を照らし始めた。


 それを見ていた春は目を輝かせて天井の球体と手に持った筒を見ていた。


「おおー! 凄いなこのどこでも照明!」


「正確には携帯魔力照明射出機な。それ技術課の人に言ったらブチギレられるかもしれないから気を付けろ」


 春が言った筒の名称を十六夜が珍しくツッコみを入れるように訂正する。春が怒られるかもしれないところを面白がらない辺り、十六夜も技術課の人が怒る事態は避けたいらしい。


 携帯魔力照明射出機。星導市支部の技術課が開発したものであり、筒から射出した球体を最初に自分でチャージした魔力で発光させ、即席の照明にする道具である。


「本当に便利だね。本部にも魔力照明はあったけど、こんな片手サイズの携帯型は無かったな」


 耀もまた、手に持った照明射出機を珍しそうに見つめる。本部が持っていた魔力照明はかなり大きく、運ぶのに両手が塞がってしまうほどである。

 さらに、この射出機のように天井に張り付けたりなども出来ない。この片手で操作できる便利さは中々のものであった。


「まだ星導市支部での試作段階らしいしな」


「うちの技術課は色々作るからねー。………よく失敗して事故も起こすけど」


 春が本部に無い理由を告げ、篝もそれに補足として言葉を付け足す。しかし、最後の失敗のくだりで篝が遠い目をしたのを耀は見逃さなかった。


(何があったんだろう………)


 耀は一体どんな失敗があったのか気になると同時に、星導市支部の技術課について不安を抱くのだった。

 隊員達は洞窟内が明るくなったことでヘッドライトを外していく。そのとき、東雲が何かに気づいた様子で愛笑へと声を掛ける。


「喜多」


「分かりました」


 ただ苗字を呼んだだけ。しかし、それが何を意味するのか愛笑は十分理解していた。

 愛笑は表情を険しくさせると大きな声で指示を飛ばした。


「もうすぐ喰魔が来ます! Bランク喰魔は私が! 入り口から来るCランク喰魔は優馬君! 深奥部から来るCランクは東雲さんと円寺さんにお願いします! 何かあれば都度指示は出しますので、それ以外は作戦通りにお願いします!」


『了解!』


 愛笑の指示に返事をすると皆、戦闘に向けて準備を始める。

 耀は腰の剣を抜き、篝は魔法で銃を作り出して深奥部に繋がる通路を見据えて構える。春と十六夜は武器が無いため、腰を少し落としてジッと深奥部へ繋がる通路を見据えて構えた。


 他の隊員も同じように自分の武器を取り出し、戦うために構える。それは自分達が入って来た入り口への通路と、深奥部に繋がる通路の二つに分かれていた。

 そして、徐々にだが通路から地響きのような音が聞こえ始める。その音が喰魔達の足音だと気づくのに時間は要らなかった。


 段々と大きくなっていく足音に隊員達は緊張感を強める。そして、通路から喰魔達が姿を見せたその瞬間、その緊張は一気に闘志へと変わった。

 その闘志を胸に、防衛隊員達は喰魔達に向かって駆けだした。


『うおおおおおお!』


『ウ゛オオオオオオ!』


 B班と喰魔達の開戦の火蓋が切って落とされた。







 (とき)を同じくして、蝙蝠型のAランク喰魔が潜む洞窟の深奥部。Aランク喰魔は自身が操る喰魔を通して各戦場を見ていた。


『始まったか』


 戦いが始まったことを確認したAランク喰魔。まだ始まったばかりで大きな変化は見られず、これからの行動について考える。


『状況に合わせて駒を進化させ―――なっ!?』


 突如としてAランク喰魔は驚いたような声を上げる。一つの通路から支配下に置いていた喰魔達が次々とやられていくのを感じ取っていた。


『一体何が………!?』


 すぐに視界を共有させ、支配下の喰魔が見ている光景を確認しようとする。しかし、視界を繋げた途端に喰魔がやられるために状況が確認できなかった。


『クソッ! 何がどうなっているのだ!?』


 Aランク喰魔は声を荒げ、苛立ちを露わにする。そして、次々と喰魔達がやられていく通路を睨むとその通路に向かって支配下の喰魔を放った。


『行け! 敵を殺せ!』


『『『『『ギャアーーーー!』』』』』


 その命令に喰魔達は雄叫びを上げて通路へと向かう。通路の入り口が喰魔の大群で塞がった瞬間、その大群が通路から伸びてきた複数の鎖によって次々にその体を貫かれていった。

 鎖の先は槍のように鋭利になっており、その鎖は喰魔達の次にAランク喰魔に向かって飛来していく。


『む………!』


 Aランク喰魔は天井から離れ、翼を羽ばたかせて飛翔する。上下左右、自在に空中を舞うように羽ばたき、飛来する全ての鎖を回避する。そして、再び天井に足を着けるとそのままぶら下がり、鎖が伸びてきた通路を鋭い眼光で睨み付けた。


『何者だ!?』


 声を荒げ、通路に潜む者に対して威嚇する。すると、その通路から春達が使っていた魔力照明の球体が洞窟内の天井に向かって飛来する。その球体は天井に張り付くと光を放ち、洞窟内を明るく照らす。


『これは………』


 Aランク喰魔はその球体に目を奪われる。しかし、通路から響く足音に視線をすぐに通路へと戻す。そして、その足音の(ぬし)達は通路からゆっくりとその姿を現した。


「やれやれ、やはりそう簡単には行かないか」


「私達三人ならすぐに片づけられますよ。喜多さん」


「油断するなよ(ぐん)(じょう)。三人がかりとはいえ、相手もAランクだ。さらに進化寸前と来ている。足元を掬われかねないぞ」


「言われなくても分かってるわよ月島! まったく………。口うるさいのは神田だけで十分よ」


 通路から姿を現したのは三人のAランク隊員。星導市支部支部長の喜多幸夫とその支部に所属する月島恵介。

 そして、もう一人。尾牧市支部所属の女性隊員、郡上美樹(みき)

 短めの紫色の髪。隊服の刺繍も髪色と同じ紫色で施し、ローヒールブーツと小さくスリッドの入った膝より少し上の長さのタイトスカートと黒いタイツが目立っていた。


『貴様ら………!』


 現れた三人に対し、Aランク喰魔は目をより鋭くさせる。そんな喰魔に向かって幸夫は顔を上げて話しかけた。


「………初めましてだな、Aランク喰魔(イーター)


『―――っ!』


 酷く冷え切った幸夫の声音とその目つき。そして、口を開いたと同時に放たれた威圧感にゾクッと喰魔の背筋が凍りつく。


 亡くなった隊員と市民の無念。残された家族や友人の悲しみと怒り。その想いを想像するだけで腸が煮えくり返るほどの怒りを覚える。そして、大事な部下達が殺された己自身の怒り。

 二つの怒りが幸夫の胸中で激しく燃え上がる。


「貴様に殺された者達、その全ての仇を討たせてもらうぞ」


 その怒りを幸夫は冷徹に言葉に込め、解き放つのだった。





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