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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第63話 炎雷轟く戦場

 森を駆け抜け、平原部分に入る。ほぼ同時、レオン王子が平原に入ってくるのも見えた。他は一切視界に入れず、ただレオン王子に向かって突撃する。


「閃脚!」


「烈火・爆炎脚!」


 互いに雷、炎を纏って速度を上げ、そのまま勢い全てを乗せて初撃を放つ。

 2本の両手剣がぶつかり合うその場所から、ゴウンッという剣が発したとは思えない轟音が鳴り響く。炎が、雷が周囲に散らばり、地面を焦がす。


 そこからの打ち合いは、考えていては間に合わない。思考より先に反射で相手の剣を叩き落とす速度が必要になる。

 そこまでしてもなお、追いつかない。少しずつ押されていく。いくら鍛練を積んできたといっても、レオン王子もそれは同じだろう。以前からある明確な実力差。離されてはいないが、追いつけてもいない。


 この戦いに向けて、ティクライズの剣への対策を練ってきた。だが、以前戦った時と同様、王子はまずは両手剣を使う。それでは追いつけないと判断させないと、本気を出してもらうことすら出来ない。

 前回は、クレイの援護で何とか引き出したその全力。今回はわたし一人でやらなければならない。だが、どうやって? ただ打ち合っているだけでは、実力に従って負けるだけだ。



 その時、どこからか石弾が飛来する。



 クレイか! あいつも楽な戦いではないだろうに、足を引っ張ってしまった。クレイが作ってくれたこの好機、逃しては申し訳なさで班にいられん。


 王子が石弾を弾くために一手、わたしへの対応が遅れる。畳み掛ける!



「開花・千輪花火(せんりはなび)!!」



 剣から炎が噴き出す。剣を振るう度に爆発し、その勢いに乗って加速していく。


 瞬間、王子の手が両手剣から離れた。



「雷帝の剣」



 まだ加速し切っていない。王子側もまだ限界ではなかったはずだ。だが、以前同様の場面で両手剣1本では間に合わなかったことを覚えていたのだろう。わたしの加速が充分に乗る前に、その手に雷の剣を生み出した。



「豪炎の型」



 そして両手に生み出した剣で、燃え盛る炎のような苛烈な攻勢の型をとる。これも以前と同様だ。クレイの予想通り、これが王子の基本スタイルなんだろう。







「流水の型、大地の型は守勢の型だ。必然、崩すのが難しい。狙うなら豪炎の型か疾風の型のどちらかだな」


「それはどうやったら崩せるのだ?」


「豪炎の型は両手の剣で相手の攻撃を弾いて無理矢理隙を作る型だ。つまり、より重い攻撃か、滑らかに受け流されることを苦手とする」


「王子の剣を受け流すのはなかなか難しいぞ……。重い攻撃もな。出来ないとは言わんが、あの速度で振るわれる剣に追い付きながらそれをするのは、運が絡むな……」


「そうだな。だから狙うのは疾風の型が良い。それにレオンの基本スタイル的にもここが狙い目だな」


「そうなのか?」


「あいつはまず豪炎の型を最初に使うのを好む傾向がある。そこから相手の出方を見て型を切り替える訳だ。で、豪炎の型でやりにくい相手はさっき言った通り、重い、巧いのどちらか。だが、型を切り替えさせるだけなら超える必要はない。やりにくいと思わせるだけで良い」






 以前王子が疾風の型に切り替えたのは、わたしの剣が加速によって普段とは比較にならない速度を得ていたからだ。豪炎の型では上手く弾くことが出来ないと思い、速度重視の疾風の型に切り替えた。

 つまり今回も、豪炎では追いつかないほどに加速してやれば疾風を引き出すことが出来る。


 だが、まだ全く足りていない。雷の剣を引き出すのが早すぎる。豪炎の型を有効に使われないためには、片手の剣と触れたら打ち合わずに流すか避けるかする必要があるが、わたしは今爆発によって加速している最中だ。そんな精度で剣を操ることは出来ない。

 充分な速度を得るまで、何とかして時間を稼ぐ必要がある。



「炎王の鎧」



 だから、わたしもやってみよう。



「炎王の剣」



 体に纏う炎を凝縮、鎧として身に着ける。纏った各所がゆらゆらと揺れるドレスのような炎だ。防御力の向上、身体能力の向上、振るう攻撃への炎の追撃というレオン王子と類似した効果を得ることが出来る。違いとしては、王子は速度、わたしは力に寄っているということか。魔力消費が多いのが欠点だ。

 両手に持つ剣にも炎を纏い、凝縮する。剣に炎を纏うというより、炎のような性質を持った一個の剣としてそこに存在するほどの密度まで集め、固定する。


 向上した身体能力により、力が王子を上回る。豪炎の型によって弾かれようとするその剣を、無理矢理力で抑え込む。

 更に加速を継続。炎王の剣の効果で、剣自体から炎を噴き出し加速する。爆発の後押しとの相乗効果で、一気に速度を上げ、王子の剣に追い付く。


月華(げっか)燐光剣(りんこうけん)!」


 光を引き連れ、王子の剣が更に加速していく。だが、追いつく。一瞬引き離されたが、わたしの剣はまだまだ加速する。加速する毎に、引きずられるように集中力が増していく。目の前の相手以外の一切が視界から消え、王子の一挙手一投足がはっきりと目に映るようになっていく。

 見逃すな。集中しろ。このまま互いに同等の速度での打ち合いが続くなら、豪炎より疾風の方が合っている。必ず型を切り替えてくる。その瞬間が勝負だ。


 体感時間が引き伸ばされていく。その中で、わたしと王子だけが変わらない速度で動き続ける。



「雷帝の鎧」



 そして、その時は来た。



「疾風の型」



 型が切り替わる。



 この一瞬に、全力を込める!



極炎(ごくえん)絶界紅蓮(ぜっかいぐれん)!!」



 剣に纏う炎が巨大化し、手に持つ両手剣が3メートルもあろうかという大剣へと変化する。その剣を、型の切り替えの瞬間に振り下ろす。

 疾風の型の弱点は、剣に重い一撃をぶつけられること、もしくは範囲攻撃だ。そのどちらもを満たすこの一撃を、型の切り替えという対応が難しいタイミングに叩き付ける。



 これこそティクライズ破りの定石。切り替えの瞬間に型の弱点を叩き付ける、不変の欠点を突く一撃。




「豪炎の型」




 まさか……っ!




轟雷(ごうらい)断罪光牙(だんざいこうが)!!」




 両手の剣が一つに重なり巨大化したその雷の剣と、正面からぶつかり合う。その衝撃で周囲の地面が抉れ弾け、しかし互いに一歩も退かずに全力で押し込む。

 読まれていた。疾風を狙っていることも、そこに極大の一撃を合わせようとしていることも、全て読まれていた。だが、もはやここに至り、そんなことは関係ない。




 ただ、己の全力を振り絞るのみ!!




「お、お、おおおおおぉぉぉぉぉっ!!」




「ぐ、お、あああああぁぁぁぁぁっ!!」




 咆える。ぶつかり合う剣から弾ける炎が、雷が、互いの肌を焼き、引き裂き、血が舞う。纏う炎のドレスも形を保てなくなり、崩れていく。

 だが、どれだけ傷付こうとも、ここで退くことだけはあり得ない。ただ、前へ。勝利を掴み取るために、前へ!



「燃えろおおおおぉぉぉぉぉっ!!」



「っ!?」



 体から炎が噴き出す。体内のエネルギー量が増したかのように、足に、腕に、体の全てに力が漲っていく。

 思えば、細かく考えることは元来苦手だった。型に合わせて攻撃するとか、相手の型を引き出すとか、そんな難しいことを考えるのは大変だ。


 だが、ただ気合いを込めてこの剣を振り抜く。それは、わたしにとって何よりも得意なことだ。



 この背にあるのは、己の誇りだけではない。仲間たちの未来を背負っている。



 守るべきを背にした時、わたしは絶対に負けない。それが、それこそが!



「これがっ! わたしの騎士道だっ!!」



 雷を押し切り、炎の剣を振り下ろす。下まで振り切ったその剣は、地面を溶かし、平原に生える草を燃やしていく。



 渾身の一撃をその身に受けた王子は、衝撃に吹き飛び、平原の端まで行ってようやく止まった。



 倒れ、その身を地面に横たえた王子は、しかし立ち上がる。ゆっくりと、おぼつかない足取りで、今にも倒れそうな状態で、しかし立ち上がる。

 よろめく足を、一歩、一歩、前へと進め、3歩進んだところで、手に持つ剣が消滅する。既にボロボロだった雷の鎧が崩れていく。そして、


 そのまま倒れ、意識を手放した。



 ああ、やった。疲労と傷でもう一歩も動けないが、それでもやったんだ。



 血が垂れる右腕を、高く掲げる。



 その手を握りしめ、足を踏みしめ、叫ぶ。



「わたしの、勝利だ!!」







 意識が戻る。酷使した脳はそう簡単に完治しない。まだズキズキと痛みを発している。だが、試合の結果を確認しなければ。頭を押さえながら上体を起こし、周囲を見る。


「クレイさん!!」


「起きたかクレイ! 心配させおって!」


 真っ先に目に入ったのは、心配そうにこちらを覗き込んでいたティールとカレン。そこから視線を動かしていくと、フォン、アイリス、クルだけでなく、レオン班も全員集まっているらしい。


「何だこれは。班員はともかくレオンたちまで一緒になって」


「いや、君のせいだろ? 攻撃を受けて意識を失うならまだ理解出来るけど、何もしてないのに倒れたなんて聞いたら流石に心配するよ」


「ホントよまったく! 急に目の前で倒れられたわたしの身にもなりなさいよね!」


 そうか。傍目から見たら、俺はハイラスとの戦いが終わった瞬間、ダメージを受けた訳でもないのに倒れたことになるのか。何らかの病気を疑われても仕方がないな。


「少し脳を使い過ぎた。明日になれば治っているはずだ」


「た、倒れるほど脳を酷使したんですか……? どうやったらそんなことが……」


「気にしちゃダメよ、ルー。きっと頭おかしい回答が飛び出すわ」


 何か馬鹿にされているような気がするが、まあ良い。いちいち突っ込むのも面倒だ。


「大丈夫なら良いんだ。じゃあ、僕たちは行くよ。決勝進出おめでとう。応援しているよ」


 それだけ言って去っていくレオンについて行くレオン班の班員たち。そうか、勝ったか。なら、倒れるほど脳を使い倒した甲斐もあるというものだ。


「クレイ、これだけ教えろ」


 去って行ったと思ったハイラスが、振り返り問いかけてくる。


「どうした」


「お前、何故精神魔法が効かないんだ」


 そんなことか。そもそも効果を相手に依存する精神魔法はあまり頼りになる魔法ではないと思うんだがな。こうして聞いてくるということは、自信のある魔法なんだろう。

 俺に精神魔法が効かない、ということはない。魔法を受けた時、しっかり恐怖を感じていた。それでも、そんな物に縛られるようなことはないと断言出来る。



「あの程度の恐怖、俺は常に感じている」



「っ……そうかよ」


 再び背を向けて去って行くハイラス。俺も聞きたいことがあったのに、自分だけ質問してさっさと行っちまいやがって。勝手な奴だ。


「クレイさん……それは……」


「さて、俺たちも帰るか。明日に備えないとな」


 何か聞きたそうにしているティールの言葉をあえて遮り、立ち上がる。まだ頭は重いが、行動に支障はない。未だ対策出来ていない会長が明日の相手だ。出来る限りの備えをしなければ。

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