98 愛依の病状
凛々亜が愛依の病室から帰ったあとのこと。
ゲーム機を貸してもらった愛依は手元に残していた『カレラブ・2』のカセットをセットした。電源を入れてタイトル画面を過ぎ、“続きから”を選択してプレイを開始する。
『カレラブ・2』では前作の世界観はそのままに、ストーリーが進行する国が少し違っていた。
前作同様、ラドネラリア王国の攻略対象者は勿論のこと、隣国スティソル王国を舞台とした攻略対象者が新しく追加されている。まず、スティソル王国の王子であるディック・C・ウォードとエリック・ディーン・ウォード。そして、公爵令息のレジナルド・ディー・ガルシアの三人だ。
主人公の恋路を邪魔する悪女はアイリーン・セント・ウォード。彼女はスティソル王国の王女。つまり、悪役令嬢ならぬ悪役王女として、ヒロインたちを引っ掻き回す役割を担っている。
ヒロインは留学生としてラドネラリア王国の王立学園に通うことも可能な今作。前作とは違い、ラドネラリア王国へ通ってもスティソル王国と関係したストーリーが構成されており、前作とはエピソードが異なっているため、前作をプレイ済みのファンも改めて前作からのキャラ攻略を楽しめる内容になっている。
愛依は推しのアルバートルートを目指してプレイを進めていた。今はまだルート選択には入っておらず、それぞれの攻略対象者の好感度を上げている段階だ。
ヒロインはスティソル王国の貴族のため、スティソル王国の学園でストーリーが進行していく。ヒロインがラドネラリア王国の攻略対象者を選んだ場合はラドネラリア王国へ留学する設定だ。逆にスティソル王国の攻略対象者を選んだ場合はラドネラリア王国の攻略対象者が留学してくる。
アルバートルートを攻略したら、次はスティソル王国の王子を攻略したいわね。
そうは思いつつも、自分の体調が日に日に悪化していくのを感じている愛依は“もしも……”と考えてしまう。
このまま症状が悪化したら……
そんな悪い考えを振り払う。
今は後悔しないように楽しむ。そのことだけを考えよう。
ジジジジッ……と画面に砂嵐が吹き荒れる。
「ん? 砂嵐? ……何これ??」
初めてのことに愛依は首をかしげる。だけど、直ぐに続きからゲームが始まり、その後は何事もなく正常にプレイが進んだため、愛依はすぐにこの現象のことを忘れてゲームに夢中になった。
その翌日。愛依は体調が優れず、ゲームどころではなかった。酸素マスクを着けてやっと呼吸が楽になっている状態だ。症状が悪化していることで連絡が入ったのか、普段は忙しくて休みの日しか来られない愛依の両親が平日にも拘わらず、遅い時間にお見舞いに来た。
「大丈夫。これを乗り越えたらきっと元気になるわ」
母はそう言ったけれど、どこか悲しそうな表情をしていた。その姿を見ていると、凛々亜のことが愛依の頭を過った。
凛々亜ちゃんは次、いつ来るかな? 一週間後だったら、早く治さないと心配かけちゃうなぁ……
夜。ぼんやりそんなことを考えながら、愛依は目を閉じて眠りについた。
◇◇◇◇◇
凛々亜が愛依のお見舞いに行ってから一週間後のこと。この日も凛々亜は通院の帰りに愛依のお見舞いに向かっていた。
診察の結果、数値が更によくなっているとのことで、次の通院予定は三週間後になった。主治医が言うには、数値上では健康的な人とほぼ変わりない値に近くなっているらしい。それでもまだ暫くは定期的な通院と投薬治療を続ける必要があるそうだ。
凛々亜はお見舞いに行くことを昨日、予め愛依にメッセージで知らせていた。だが、返信どころか既読すらつかない。
何かあったのかな?
少し嫌な予感がしていた。だから愛依の病室に入った瞬間、凛々亜はその場で固まってしまった。
「え……」
彼女は凛々亜が目覚めた時と同様に酸素マスクをして、様々な機械に繋がれていた。室内にピッ、ピッ、ピッと電子音が響いている。
「愛依……?」
名前を呼んでも目の前の友人から返事は返ってこない。代わりに、凛々亜は先週訪れたときの彼女を思い出した。
『私は……今度こそダメかもしれない……』
そう弱音を吐いた愛依の顔色は悪かった。だが、目の前の愛依はあの日以上に顔色が悪く、眠っている。
「っ!」
愛依の命が危ないかもしれない。そんな予感に堪えきれなくなって、凛々亜は逃げるようにその場から走り出した。
嫌っ! 嫌だ嫌だっ!!
どうかお願い!! 愛依を助けて!!
凛々亜の頭の中はパニックだった。愛依にまた元気になってほしくて、強く願いながら駆け足で階段を降りる。その時、凛々亜はバランスを崩して、カクンと膝が前に出る。
「っ!? きゃ!!」
凛々亜の体が引力に引かれて、前のめりになった。咄嗟に身を捩った凛々亜の身体は勢いよく階段の下から二、三段目を転がって下の階の廊下に倒れ込む。凛々亜が「うっ!」と呻き声を上げたと同時に「きゃぁぁぁぁっ!!」と悲鳴が響き渡った。
「人が! 階段から落ちたぞ!!」
「大丈夫ですか!?」
そんな声を凛々亜の耳は拾った。だけど、段々その声が遠退いていくと、凛々亜はそのまま意識を失った。




