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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!  作者: 大月 津美姫
5章

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76 リリアンへの尋問 おまけSS付き

「尋問の時間だ」


 看守にそう告げられて、また同じことを聞かれるのかと、リリアンはうんざりした。だけど、今日は少し違った。


「カモイズ伯爵令嬢、リリアン・メアリー・フレッチャー。今日は貴女の幼少期について尋ねる。貴女が八歳の頃、王城で開かれたお茶会があっただろう。その翌日に貴女は高熱で倒れた。それ以前の貴女のことを話してもらおう」


 いつもとは違う質問にリリアンは一瞬ポカンとした。だけど、一呼吸おいて「ふふふっ」と笑う。


「いいですわ。騎士様がわたくしの話を理解して付いてこられるか、楽しみですわね」


 そう前置きをしてリリアンは話し始める。


「まず、わたくしは王城でのお茶会のことは何も知りません。ですがその後、高熱で倒れて意識を取り戻すことが出来たのは、わたくしがリリアンとしてこの世界で目覚めたからですわ」


 それを聞いた騎士はやはりどこかズレた話をするリリアンに内心ため息を吐く。だが、“良いことを思い付いた!”と言わんばかりに彼女が再び笑った。


「折角ですし、“わたくし”なんて話し方は止めましょうか」


 そう言うと、リリアンは椅子の上で足を組む。するとガラッと彼女の雰囲気が変わった。


「私の本当の名前は舞原凛々亜。日本に住む中学生だったわ。だけど、病気で入院中に肺炎に罹って、高熱に魘されて死んだの。それで、気付いたらこの世界で目が覚めた。ここまでは分かる?」

「に、にほん? ……ちゅうがくせい?」


 尋問担当の騎士は、聞いたことがない単語に頭の中が疑問で埋め尽くされた。だが、直ぐに気を取り直す。


「またそうやって本題をはぐらかす気か」

「はぐらかしてないわ。私はあのまま向こうの世界で生きていたら今頃は社会人よ。こう見えて、中身は二十歳を越えた大人なんだからね?」

「なっ!? いい加減にっ……!」


 言いかけて、尋問担当の騎士はアルバートに指示されたことを思い出す。


『リリアンが要領を得ない発言をしだしても、一先ずは話を止めずに尋問を続けてくれ』


 騎士は言葉をぐっと堪えると、リリアンが「あら?」と微笑む。


「今日は大人しく聞いてくれるの?」

「……続きを話してみろ」


 リリアンの問い掛けには答えず、騎士が告げると「まぁ良いか」と、リリアンも彼に突っかかるのを止めた。


「元の世界で私は余命半年と言われていたわ。だから、残り短い人生は好きなことだけしようと決めたの。それで大好きだった乙女ゲームにのめり込んだ。ここは、その乙女ゲームの世界なの」


 そこまで言うと、一呼吸置いてから「分かる?」とリリアンは首を捻って、騎士を小馬鹿にしたように見上げた。彼女失礼なの態度には気付いていた騎士だが、繰り出された話の内容に固まってしまう。


「……いや、……“おとめげーむの世界”というのがさっぱり分からないな」

「まぁ、そうよねぇ。この世界に乙女ゲームは存在しないもんねー」


 あっさり納得したリリアンが染々呟く。


「前にも言ったが、尋問は遊びではない」

「分かってるって。正直、このゲームは一通り攻略済みだったから、ラッキーだと思ったのよ? でも、何故かプロローグからゲーム通りにシナリオが進まなくて焦ったわ」


 リリアンは肩を竦めると、更に言葉を紡いでいく。


「ここの牢屋に入れられてから、私なりに色々と考えたのよ? やっぱり、最初のスタートダッシュで魅了の秘薬を使わないといけないことに気付かなかったのが悪かったのかなって。そこで躓いたから、本編開始時期が遅れたと思うんだよねー。少なくともそのせいで、プロローグが長引いて、攻略が遅れてしまったのは事実だし。あとプロローグでハンカチを拾ってもらえなかったことも、フランク様に話しかけて魅了の秘薬の効果を発揮出来なかったことも失敗だったわ。……でもね? 一番予想外だったのは、アルバート様がベアトリスと婚約解消しなかったことよ!!」


 それまで一定の調子で長々と語っていたリリアンの表情が、怒りの籠ったものに変化していく。


「ゲームよりプロローグを終える時期が遅くなってしまったけれど、それまでは順調だったの! それなのに! 急にアルバート様の態度が変わったのよ! 信じられる!? 魅了の秘薬を使っていたのによ!!」


 リリアンの癇癪が始まった。

 彼女から見えないところで会話を聞いているアルバートは、自分たちが婚約を解消しなかった理由を知っている。その理由は単純で、それがアルバート自らの意思だったからだ。


「カモイズ伯爵令嬢、落ち着きなさい」

「そもそもプロローグの時、アルバート様の隣にベアトリスが居たの。だとしたら、彼女が何かしたに違いないわ! だからベアトリスにアルバート様から身を引くように警告したの。それなのに、彼女はアルバート様の婚約者の座に居続けた! だから、ちょっと脅そうと思っただけなの!!」


 その発言にアルバートは息を呑む。


 リリアンが令息たちを使ってベアトリスを拐い、暴力を奮ったのは、私のせいのようなものじゃないか!


「ベアトリス様に危害を加えようとしたこと、認めるんだな?」

「こんな場所に閉じ込められているんだし、今更でしょう?」


 騎士の問い掛けをリリアンはあっさり認めた。


「では、この手紙も貴女がベアトリス様を陥れるために送ったことに間違いはないか?」


 騎士は懐から複数の封書を取り出した。それはどれもリリアンが最初の謹慎中、アルバートに送り付けた手紙だった。


「わぁ~懐かしい。そう言えば、そんな手紙も出したわね。アルバート様が返事をくださらないから、すっかり忘れてたわ」

「認めるんだな?」

「まぁそうね。……ふふふっ。その手紙を利用して返事をくれたトレヴァー様と文通したかったのに、彼ったら全然返事を返してくれなかったのよねぇ」


 思い出したようにリリアンが笑う。だが、これでリリアンがベアトリスを貶めるために、虚偽の内容を手紙に記した件が一つはっきりした。


「この調子で他のことも聞かせてもらおうか。魔女の秘薬をどこの闇市で手に入れた?」

「それは答えたくないわ」

「では、いつから魔女の秘薬を使い始めた? カモイズ伯爵家の使用人たちにどれくらい試したんだ?」

「だから! 答えたくないと言っているの。……というか、一々覚えていませんわ。そういうことは使用人に聞いてくださる?」

「なっ!?」


 リリアンの話し方が途中から令嬢らしい物言いに戻った。どうやら、これ以上は話すつもりがないらしい。

 この日の尋問はここで終了となった。だが、収穫もあった。この尋問により、リリアンの刑の執行へ向けて一歩前進した。



 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・



【おまけSS】

 寒気がするトレヴァーと冷静かつ辛辣なマキシミリアン



「……ふふふっ。その手紙を利用して返事をくれたトレヴァー様と文通したかったのに、彼ったら全然返事を返してくれなかったのよねぇ」


 リリアンがそんな話をしていた頃、生徒会室で作業中だったトレヴァーは突然の寒気に襲われて「くしゅん!」と大きなくしゃみをする。


「なんだ? 風邪か? トレヴァーにしては珍しいな」


 同学年で生徒会会計を務めるマキシミリアンが顔をあげると、メガネのブリッジ部分を中指で押し上げた。


「な、なんだか、急に寒気が……」

「ふむ。やはりバカは風邪を引かないというのは嘘だったか」

「なっ!? バ、バカとは失礼ですね!! これでも私はアルバート様とフランク様と共にリリアン嬢が使った魅了の秘薬のトリックを共に推理したんですよ!!」

「……。なんだそれは……」


 マキシミリアンがトレヴァーに冷たい視線を送る。


「あの時、マキシミリアン様は予算の計算に夢中で気付いていなかったと思いますが、生徒会はすごいんですよ!? アルバート様とフランク様はまるで探偵のような推理力を発揮されて! すっっっごーくカッコ良かったんですから!! 僕らも三年生になったら、きっとあんな風になれるんですよ!!」

「……」


 ……やはりバカだ。いや、ここはトレヴァーの思考回路が単純だということにしておこう。


 キラキラと瞳を輝かせるトレヴァーをマキシミリアンは冷静な眼差しでそう分析したのだった。

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