69 ティルダ王女と賑やかなお茶会
「まさか、ベアトリス様とわたくしで始めたささやかなお茶会が、こんなに賑やかになる日が来るなんて!!」
ティルダの嬉しそうな声がガゼボに響く。
何時もより狭く感じるテーブルには、お茶と美味しそうなお菓子がたくさん並んでいた。ベアトリスは両隣のケイティとジェマをそれぞれちらっと盗み見る。
お茶会が始まって直ぐの頃は、ケイティもジェマも借りてきた猫のように黙り込んだ状態だった。だけど、今は少しリラックスしてきて、お菓子にも手が伸びるようになっている。それでも普段よりは固い印象をベアトリスは受けていた。
ことの始まりは、ほんの数時間前。
食堂でのやり取りで、放課後にケイティたちも王城に向かうことが決まった。生徒会の集まりがあるアルバートたちより、一足先に三人はベアトリスの馬車で王城を目指した。
王城に到着すると、久しぶりの城内にソワソワするケイティたち。ベアトリスはというと、慣れた様子で城の使用人に声を掛けていた。アルバートたちが戻るまでは、いつものように妃教育を受けるつもりで、ケイティたちに落ち着いて待ってもらえる部屋を用意してもらおうと考えていたのだ。
「ベアトリス様! お待ちしておりましたわ!!」
ベアトリスたちが到着して間もなく、聞き慣れた声に呼ばれてベアトリスが振り向くと、ティルダが嬉しそうに出迎えてくれた。
「えっ? ティルダ様?」
まさかの王女様登場で、ケイティとジェマがビクッと背筋を伸ばす。それぞれ軽く挨拶して、ベアトリスが「どうしてこちらに?」とティルダに尋ねると、彼女は「ふふふっ」と微笑んだ。
「わたくし、アルバート兄様がベアトリス様とそのご友人を王城に招待して、ベアトリス様たちが先にいらっしゃることを小耳にしましたの。ですから、お迎えにきましたわ!!」
えっへん! とティルダが胸を張る。
「ベアトリス様が初めて連れていらしたご友人ですもの。しっかりおもてなしをしなくては! と思いまして、わたくし張り切りましたの!!」
な、何を張り切ったのかしら?
ティルダの思考に追い付けていないベアトリスは、頭に幾つかはてなを浮かべた。
「ベアトリス様、今日の妃教育はお休みですわ」
「へ?」
「講師には話を付けておきました。一応、マナー講座の実践テストという形で、遠くから見学することを条件に了承していただきましたわ!」
「え……?」
良いのかしら?
今までも、その後の予定次第でベアトリスの妃教育が短縮されることはあった。だから、今日もアルバートが戻って来るまでは妃教育を受けるつもりでいたのだ。
しかし、それはティルダの一声で変更となったらしい。ベアトリスはティルダの根回しの良さと、彼女から放たれる言葉に付いていけず、「へ」と「え」しか言えないほど語彙力を失っていた。
「さぁ! 参りましょう!!」
こうして、ベアトリスたちは上機嫌なティルダと王城の使用人に庭園へと連れられて、ティルダとのお茶会が始まったのである。
「学園でのベアトリス様はどんなご様子ですの?」
「お二人はいつからベアトリス様とご友人に?」
「アルバート兄様の様子はどうです? ベアトリス様が学園内で危険な目に合わないように、ちゃんとお守り出来ていますか?」
ティルダの質問の大半はベアトリスに関するものだった。しかもケイティとジェマは素直な性格だ。そのため、聞かれたことを正直に話してしまうので、ベアトリスは恥ずかしくて仕方ない。
「アルバート様は朝は教室までベアトリス様をエスコートされて、生徒会が無い日はベアトリス様と一緒の馬車で王城に向かわれていますわ!」
「この前は、食堂で──」
二人の口から紡ぎ出される言葉たちに、ベアトリスは頬が段々と熱を帯びていく。
さすがは女子というべきか、恋話に花が咲き始めると、ケイティたちはいつものようにはしゃぎ始めた。
「ケイティ様とジェマ様は、婚約者はいらっしゃるの?」
「いえ、わたくしたちはまだ居りません」
「お慕いしている殿方も?」
「えぇ。わたくしは残念なことに、そういった方も居りませんわ」
ティルダからの質問にケイティが答える中、ジェマが「でも」と続ける。
「わたくしはついこの前、お父様にそろそろ婚約者を作るように言われて、何人かご令息の肖像画を渡されましたわ」
それは暫く一緒に過ごしていたベアトリスも初耳だった。ケイティも聞かされていなかったようで、「あら? そうでしたの?」と驚いている。
「子爵令嬢が嫁げる家は中々見つからないぞ、とお父様に脅されましたわ。わたくしは元々、婚約者候補を見付ける目的も兼ねて王立学園に入学しましたから、卒業が近づいてきて、父が焦り出しているのです」
苦笑いを浮かべるジェマは悩んでいるようだ。
「このままだと、お父様が探した方と婚約するか、王立学院に進んで引き続き婚約者を探すことになると思います。ですが、学院へ進学すれば殆どの男性は婚約者持ちですし、そもそも進学・進級するための単位を取得するのが難しいと聞いたことがあります。ですから、わたくしは前者になる可能性が高そうですわ」
「ジェマ様……」
王立学院は令息が後を継ぐ予定の領地経営を学ぶためや、爵位を継げない次男、三男の令息たちが手に職を付けるため、より高度で専門的な知識を学ぼうと進学することが殆どだ。
令嬢は婚約者が決まっている人であれば、卒業と共に結婚する人が多い。そのため、こちらも将来手に職を付けたい人や、夫または婚約者、家の仕事を支えたいと考えている人、学びたい分野がある人など、明確な目的を持った令嬢が進学する。
つまり、学園の頃と違い、勉強したい意志が強くないと学院を卒業するのは難しい。
「でしたら、わたくしの婚約者候補だった方々はいかがかしら?」
ティルダの思わぬ発言に、ベアトリスたちは「へ?」と息ぴったりに目を丸くした。




