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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!  作者: 大月 津美姫
4章

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54 カモイズ伯爵令嬢、リリアンとして

 彼女が目覚めた時、最初に視界に飛び込んできた光景は見慣れた白い天井ではなかった。


「……え?」


 酸素マスクを着けていた筈の顔も点滴を受けていた筈の腕にも、何もない。おまけに心臓の動きを逐一知らせていた機器にも繋がれていなかった。それなのに息苦しくないし、身体も熱くない。


 ……私、生きてる?

 それとも、これは夢?

 まさかあの世!?


 寝起きにぐるぐると思考を回転させながら彼女、舞原(まいはら)凛々亜(りりあ)はガバッと身体を起こした。そして、自分の身体や手足が縮んでいることに戸惑う。

 元々、凛々亜が眠っていた場所は病院の簡素なベッドだった。それなのに今は身に覚えのない天蓋つきの広いベッドの上にいる。だが、その光景に見覚えがある気がして、彼女はベッドから抜けだした。そして、辺りを見回すと部屋の中に姿見を見付けて、その前に立つ。


「えっ!? 嘘っ!? この顔って……!!」


 鏡に映っているその姿はまだ幼くあどけない少女だ。だけど、間違いなく凛々亜が大好きな乙女ゲーム『彼と紡ぐLOVE STORY』略して『カレラブ』の主人公にしてヒロインの姿が映し出されていた。その事実に凛々亜は思わず叫ぶ。

 すると、たまたま近くを通っていた使用人が様子を見に来たらしい。扉をノックしたあと「リリアンお嬢様? 入りますよ?」と呟いた女性が扉を開けて、部屋の中を確認する。そして、この部屋の主が立っている姿を視界に捉えると駆け寄った。


「リリアン様っ!」


 パァッと表情を明るくして、使用人が凛々亜の額に触れる。それから、他に異常がないか身体を確認した。


「熱も下がってる……! っ、漸くお目覚めになられたのですね!!」


 “リリアン”


 それがこの身体の持ち主の名前だと把握した凛々亜はドキッとする。それは凛々亜がプレイしていた乙女ゲーム、『カレラブ』で凛々亜が主人公に付けた名前だった。


 じゃあ、やっぱりここは乙女ゲームカレラブの世界!?


 信じられない程の驚きがリリアンの身体中を駆け巡り、彼女は足から力が抜けてペタンとその場に座り込んだ。


「まぁ大変!! まだお身体が!? お嬢様は高熱で三日間眠っていたのですから、無理をされてはいけません!! さぁ、早くベッドに戻りましょう!!」


 恐らく侍女と思われる彼女に抱えられて、リリアンの身体は再びベッドの中に戻った。


「旦那様と奥様にお嬢様が目覚めたこと、お知らせしてきますね!」


 そう告げると、彼女は急ぎ足で部屋を出る。


 これは夢? それとも本当にゲームの中なの?


 半信半疑の凛々亜だったが、リリアンが目覚めたことを喜ぶ両親や使用人の姿はあまりにもリアルだった。何より、見覚えのある部屋と『カレラブ』に出てくる名前を数人分聞いているうちに、ここはゲームの中で自分はその主人公になっているのだと信じざるを得なくなった。


 普通なら元の世界に戻れるかを心配するところだろう。だが、凛々亜は病気で入退院を繰り返し、この半年間ずっと入院していた。そして先日、肺炎に罹った凛々亜は高熱に魘されて、そこから先のことは覚えていない。


 私がここにいるってことは、向こうの世界の私は死んだんだ……


 その事実に気付いて、気持ちが沈む凛々亜。だが、少しして彼女は思った。


 でもでもっ!! 大好きな乙女ゲームの主人公に転生できるなんて! 私って、めちゃくちゃラッキーじゃない??

 現実の私は死んでしまったけれど、ここは一通り攻略してやり込んだゲームの世界だし、この世界で歩む第二の人生は幸せになれること間違いなしだわ!


 何しろ凛々亜は全てのキャラを一度は攻略済みだ。入院中、病室に引き籠っていた彼女の一番の楽しみは大好きな乙女ゲーム、『カレラブ』をプレイすることだった。


 これは可哀想な私に神様が与えてくれたご褒美ね!


 凛々亜がそう考えたのは、余命が長くないと言われていたからだ。凛々亜は十三歳とまだ子どもだったため、家族の希望で本人に告知があったわけではない。だがある日、凛々亜がたまたま病室の外に出たとき、主治医が母と話している内容を偶然耳にしてしまったのだ。


『先生、何とかあの子を生きながらえさせることは出来ませんか? 他に治療法は?』

『……お母さん、娘さんの病状は進行しています。このまま状態が悪くなれば以前告知させて頂いた通り、余命は半年から一年です』


『……』


 へぇー。私、このままだと死ぬんだ……?


 凛々亜は何処か他人事の様に母と主治医の会話を捉えていた。それは、何となく心の何処かで凛々亜自身も予感していたからなのかもしれない。


 ずっと続けていた通院や入退院、それから苦い薬や点滴、それに伴う辛い副作用も。全て病気を治すために頑張ってきたことだ。それなのに、その全てが無駄になるかもしれない。そう思うと凛々亜の中で今まで耐えてきた何かが、ポキッと音を立てて折れた。


 何もかもが、嫌になった。


 じゃあ、これからは私の好きなことだけしよう。短い人生なら後悔しないように、やりたいことや欲しいものを我慢しないで生きよう。


 そう決めたあの日から、凛々亜は細々と続けていた勉強を止めて、ひたすら乙女ゲーム『彼と紡ぐLOVE STORY』にのめり込んだ。

 そうして、課金で手に入れたアイテムを駆使して、凛々亜は全てのキャラクターを一通り攻略し終えた。


『ふふふっ、やった!! 遂にエルバートルート攻略~!!』


 全てのキャラクターを制覇した凛々亜は少しの間喜びを噛み締めたあと、再びアルバートルートでゲームをプレイし始める。


 全キャラを攻略したあと再びプレイを始めると、エンディングの後に裏ルートが開かれて、その続きが現れる。

 そんな、まとめの攻略サイトに書かれていたエンディングの続き見たさに、凛々亜は課金アイテムを使用して効率良くシナリオを進めた。

 その三日後、凛々亜は身体の倦怠感と熱があることを感じていた。それでもゲームをプレイし続けた。


 あと少しでエンディングに差し掛かる。そんな状況の中、身体の限界が訪れた凛々亜は意識を失った。

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