45 リリアンの元取り巻き令嬢たち
「ベアトリス様! 今まで大変申し訳ありませんでしたっ!!」
ベアトリスがアルバートたちと別れて教室に入ると、クシールド伯爵令嬢とネヴィソン子爵令嬢が素早い動きでベアトリスの前までやってきた。そして、謝罪を口にしながら俊敏な早さで頭を下げる。
「わたくしたち、リリアン様の魅了の秘薬に掛かっていた間、彼女の言葉を信じるあまり、ベアトリス様にとても失礼な態度と言葉を掛けてしまいました。そのことを大変申し訳なく思っております」
「秘薬の効果が切れて直ぐの頃はリリアン様に腹が立っていました。けれど、時間が経つに連れて冷静になると、わたくしたちは酷い言葉を掛けてしまったベアトリス様に一刻も早く謝罪しなければいけないと気付いたのです。それで、ベアトリス様が学園に復学なさるのをずっとお待ちしておりました!」
「本当に申し訳ありませんでした!!」
声を揃えて目の前で頭を下げ続ける二人に、ベアトリスは「ええと……」と戸惑う。
彼女たちが魅了の秘薬に掛かっていたことや、同性同士でも魅了の秘薬が効果を発揮すること等々。それらをベアトリスはたった今初めて聞かされた。知らなかった事実が出てきたことで、その情報量の多さに返す言葉に困る。
だけど二人の様子を見れば、本心で謝罪してくれていることはベアトリスに十分伝わった。
「お二人とも、一先ず顔を上げてください」
ベアトリスの声でクシールド伯爵令嬢とネヴィソン子爵令嬢は恐る恐るといった様子で、ゆっくり顔を上げる。
「お二人の気持ちは分かりました。ですが、リリアン様に魅了の秘薬に掛けられていたからといって、今までのことを許せるかと言われると、正直まだ分かりませんわ」
ベアトリスの言葉を受けて、クシールド伯爵令嬢が「そうですわよね……」と小さく呟く。
リリアンがアルバートと仲良くなり始めてから、彼女たちはベアトリスを非難し、リリアンを擁護する発言をしていた。
最初はよくある陰口のひそひそ話だった。それがいつの間にか他の生徒へ広がり、噂となって駆け巡っていった。その内容は時間と共にエスカレートしていたとベアトリスは記憶している。だけど、面と向かって何か言われたり、危害を加えられたような実害はベアトリスが覚えている範囲では何もない。せいぜい蔑むような視線を送られた程度だろう。
そう、彼女たちが面と向かってベアトリスを非難する発言をしたのは婚約解消騒動の後だった。そのため、今のベアトリスは生徒たちの往来がある中でリリアンと彼女たちから責め立てられたことを覚えていない。
「わたくしは四ヶ月間前までのことは覚えていません。ですから、その時のことを謝罪されても何も分かりませんの。それ以前の謝罪はお受け取りしますが、それ以降のことに関しては水に流したと思ってくださって構いませんわ」
ベアトリスの言葉に二人は一瞬呆けた。そして、互いに顔を見合わせたあと、クシールド伯爵令嬢が口を開く。
「……それはつまり、覚えていない期間の失礼な態度に関しては許してくださる、と言うことですか?」
「え?」
ベアトリスはその辺りのことを深く考えていなかった。だけど、自身が覚えていない出来事を掘り返したくないという思いがあるのは確かだった。
「許す……まぁ、そうなるのかしら?」
自分でもよく分からないベアトリスは首を捻る。だけど、確かなことが一つあった。
「……兎に角、復学してからわたくしに謝罪してくださったのはお二人だけです。自分の意思でわたくしと会って直ぐに謝罪してくださった貴女たちの言葉は信じられると思った次第ですわ」
ベアトリスがそう告げると、周囲は罰が悪そうに視線を逸らす生徒と謝罪するタイミングを窺う生徒に分かれた。
「ベアトリス様……っ」
クシールド伯爵令嬢とネヴィソン子爵令嬢はベアトリスの名前を呟いて、瞳をうるうるさせる。
「今まで酷い言葉を掛けていたわたくしたちを信じて許してくださるなんてっ!! ありがとうございます!! ベアトリス様はとても広くてお優しいお心の持ち主なのですね!!」
「え? そんな……大袈裟ですわ。クシールド伯爵令嬢」
「いいえ! 流石は未来の王太子妃様ですわ!!」
「わたくし! これからはベアトリス様に着いていきますっ!!」
ネヴィソン子爵令嬢がそう言ってベアトリスの手を握ると、クシールド伯爵令嬢も「わたくしも!」とそれに続いた。
「早速、今日はランチをご一緒していいかしら?」
「えっ?」
「良いですわよね!?」
「ええっ!?」
ベアトリスは彼女たちから突然慕われたことに戸惑う。だが、二人の意思は強かった。
こうして、ベアトリスは初めて学園で同級生の令嬢とお昼を囲むことになった。




