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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!  作者: 大月 津美姫
1章

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26 忘れて欲しくない記憶

「……できる限りの処置は施しました。後はベアトリス様が目を覚まされるのを待つ他ありません」


 校医の言葉にアルバートは握っていた拳に更に力を込めた。


「彼女は記憶を失ったのか?」

「…………恐らくは」


 校医は目を逸らして、言い難そうにそう答えた。それはアルバートもわざわざ聞かずとも頭では何となく分かっていた筈の答えだ。だが受け入れ難く、信じたくない気持ちで一杯だった。

 だからだろう。校医の肯定の言葉を耳にした途端、ゾワッと不愉快な感覚がアルバートの身体を包み込んだ。


「……どの程度の記憶を失ったか分かるか?」


 校医の視線があとから騎士が持ってきた空の小瓶に向けられる。


「小瓶の容量と吐き出すことができたと考えられる量を当てはめるのであれば、今は半年前後としか言えません」

「半年……」


 それは、アルバートがベアトリスに婚約解消を提示する前の記憶までを指している。


「それと、ベアトリス様は秘薬を飲まされる少し前に何か薬品を嗅がされたようです」

「護衛騎士が嗅がされたものと同じものか?」


 アルバートが同じ医務室でベアトリスの向かい側に寝かされた二人に視線を向けた。

 彼らは他の騎士たちに介抱されて運ばれてきた。意識があやふやで身体に力が入らない彼らは、目覚めてまずベアトリスが襲われたことを報告した。その時にベアトリスが令息たちに自らと同じように薬品を嗅がされていたことを伝えてくれていた。


「はい。眠り薬のようですが、幸いベアトリス様には薬品の量が少なく調整されていたようです。そのため、護衛騎士たちより目覚めるのも動けるようになるのも早かったのだと考えられます」

「……そうか」


 魔女の秘薬は不明な点が多い。


 特に秘薬を飲んだり嗅がされたりした者が薬を服用していた場合、副作用のリスクが高まると聞く。

 つまり、ベアトリスは嗅がされた薬品の影響を受けている可能性があるのだ。記憶の秘薬にも眠くなる成分が入っている。にも拘わらず、よりによって眠り薬を嗅がされているとは、目覚めるのにどれ程時間が掛かるか誰にも分からなかった。


「……質問ばかりしてすまなかったな。ベアトリスだけでなく、護衛騎士まで診てくれたこと感謝する」


 アルバートが礼を言うと「当然のことでございます」と校医はお辞儀する。「それでは」と校医が医務室内にあるデスクに座り、自らの業務に戻るとアルバートはベアトリスが眠るベッドの傍にあったイスに腰掛けた。


 アルバートは穏やかな表情で眠る彼女をじっと見つめて、それからその手にそっと触れて包み込む。温かなベアトリスの体温を確認すると、少しホッとして息を吐いた。

 何しろ、ベアトリスがこのまま目覚めない可能性もゼロではないからだ。仮に目覚めたとしても半年前後の記憶を失っている状態な上に、どんな副作用が現れるか分からない。もしも、秘薬が身体に合わず、酷い副作用に見舞われれば、全ての記憶を失う可能性もある。最悪の場合は死んでしまうケースもあったと聞く。

 一先ず、ベアトリスは穏やかな表情で眠っていて、しっかり体温が感じられる。だから、少なくとも死ぬことはない筈だ。とアルバートは自身に言い聞かせる。それでも、あまり良いとはいえない現状にアルバートは気が落ち込んだ。


 いや、待て待て! まだ副作用が出ると決まった訳ではないだろう!?


 悪い方へ考えてしまう自分の考えをアルバートは何とか振り払った。

 どちらにせよ、ベアトリスが目覚めたらアルバートとの関係は以前の状態に逆戻りしてしまうだろう。だが、ベアトリスが婚約解消騒動によって傷付く前なら、それも良いかもしれない。


 アルバートは一瞬そんなことを考えてしまう。

 あの一件でベアトリスはかなり傷付いた。それがなくなれば、彼女は傷付かなくて済む。


 そう思ったが、ふとリリアンがアルバートに距離を縮め始めてから、初めてベアトリスと過ごしたお茶会を思い出す。

 今思えばベアトリスは隠していたが、あの頃から二人のお茶会で彼女はあまり楽しそうではなかった。恐らく、彼女はアルバートとリリアンの関係や自分たちのお茶会の雰囲気から薄々何かを感じ取っていたのかもしれない。

 それらを総合して考えると、あの頃から私はベアトリスを傷付いていたのではないか? とアルバートはなんとなく感じた。


 私は……とんだ大馬鹿者だ。

 リリアン嬢と距離を縮めていたことで、婚約解消を言い渡す前から十分ベアトリスを傷付けていた。そのことに漸く気付いた。にも拘らず、ベアトリスは秘薬の効果で眠る直前にアルバートを信じると言ってくれた。それから他にも何かを伝えたがっていた。


「……。ベアトリス……君はあの時、何て言おうとしていたんだ?」


 アルバートが問い掛けてもベアトリスは瞼一つ動かさない。ただ規則正しく胸が上下し、呼吸を繰り返すだけだ。


 婚約解消を言い出した直後はともかく、最近のベアトリスとの仲はそれほど悪くなかったとアルバートは認識していた。

 直前にアルバートの発言が原因で喧嘩してしまったが、ベアトリスがまだ怒っていたなら、アルバートを信じるとは言わないだろうと、アルバートは確信に近いものを感じていた。


 出来れば何一つ忘れて欲しくない。


 婚約解消を取り消した後、アルバートがベアトリスにしてきたことは全て自らの意思だった。その過程でアルバートはベアトリスを好きだった頃の自分を取り戻したのだ。

 ベアトリスを傷付けてしまうことにはなったが、信頼を取り戻すために過ごしたベアトリスとの時間はアルバートにとって、彼女の新たな一面を知る大切な時間だった。


 それに、アルバートにはとある記憶がある。

 その記憶がアルバートの胸を余計に苦しめた。


「……ベアトリス。リリアン嬢が危険だと分かっていたのに、守れなくてすまない。……誰よりも大切にすべきだったのに、君を信じてあげられなくてすまなかった」


 アルバートは眠っているベアトリスの前で小さく懺悔の言葉を口にした。

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