表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
比翼連理

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/119

夢見る雛 12

「うわ~、高いとこまで登ったね~!」


 未だ整備された面影を残す、片側が崖となった山道。

 崖淵から下界を見渡して、ファルケが快哉を叫ぶ。

 青々とした林、その間を貫く街道、遠くの街並み。どれも、ジオラマのように見えた。


「ここまで来ると、すごい眺めだね」


 太悟は頷きながら言った。

 昔は学校の行事の遠足、つまりは登山という名の苦行が嫌で仕方がなかったが、今では戦闘を挟みつつ軽々とこなせている。

 これを成長したと言って良いのかは分からないが、なかなか悪くない気分だ。


「ひょええ……大地があんなに遠いであります……」


 一方。ターシェは四つん這いになりながら、おっかなびっくり崖の下を覗き込んでいた。


「あれ、ターシェは高いの苦手?」


「じ、自分で跳べるくらいならともかく、ここまでのは苦手であります!」


 太悟が声をかけると、眼鏡の少女はチワワのように震えつつ、崖淵から離れた。

 彼女の言う通り、クラウドマウンテンの中腹を越えて、かなりの高さまで登ってきている。

 しかし、目標である新種の魔物は見つからないし、ターシェの仲間とも合流できていない。


(新種はまあ、見つけられたらラッキーで良いとして、ターシェの方は最後まで面倒見ないと)


 太悟はむうと唸った。

 あちこちに残る戦闘痕を追うように進んできたが、人影は見えない。三人でこの進行速度なら、ターシェの仲間たちはなかなかの実力者のようだ。


(それでも、そろそろ追い付くかもしれないけど……)


 もしこの先で合流したらどうするか、正直なところ、太悟は何も考えてなかった。

 引き合わせて、じゃあさよならというわけにはいくまい。何せ、一度追放しているのだから。

 普通に考えて、握手して仲直りで済むとは思えない。追放に正当な根拠がある以上、なおさらだ。


(拗れたら……あー、マジで引き取れないかなあ)


 こちらはこちらでまったく健全な状態では無く、彼女の憧れの先輩と衝撃の再会をしてしまうのが難点だが。

 そうやって、少しずつ夜に向かってゆく空に、太悟が頭の中であれやこれやと案を並べていると。


 ずん、と足元が揺れた。

 驚いたターシェが「ぴゃあ」と鳴き、太悟とファルケは武器を構えた。

 地震ではない。何か、大きな物が倒れたのだ。

 遠雷の如き戦闘音。その中に混じる、人の声。

 近くで、戦いが行われている。もしかしたら、ターシェの仲間かも知れない。


「ファルケ、ターシェ、行こう」


「うん!」


「は、はいっ」


 二人が頷くのを見ながら、太悟はカトリーナを背負った。

 竜骨の鎧が、ぎしりと鳴く。


 クラウドマウンテンには、『闘技場』と呼ばれる場所がある。

 開けた土地に円形の大きな建造物があり、中心は広場になっていた。

 そこが実際に、剣闘士たちが血を血で洗う戦いを繰り広げていた場所なのか、もっと別の用途があったのか、もはや確かめる術はない。

 だが、この山が今や魔物が住まう戦場である以上、戦いの歴史は常に刻まれている。


 音の出所に当たりを付けた太悟たちは、名も知れぬ植物の蔦に侵食された門をくぐり、『闘技場』内の広場に足を踏み入れた。

 途端に鼻孔を刺激する強烈な鉄の臭い―――血の臭い。

 魔物は血を流さない。故に、その発生源は極めて限られている。


「ラ、ラフルー殿……レヴァン殿っ!?」


 目を大きく見開いて、ターシェは倒れ伏している二人の名を呼んだ。

 衣服は赤く汚れ、全身に切創が刻まれていた。

 息はある。だが、楽観視して良いダメージではない。


「太悟くん、あそこ!」


 ファルケが指差す、広場の中央。そこには一人の勇士と、一体の魔物がいた。

 勇士は、太悟もその名を知っていた。イクサ帝国の英雄、《鉄血》バルガンド。

 彼もまた傷負っているが、パイルランチャーを構え、正面の敵を睨みつけている。


 そして、魔物。こちらは、太悟が初めて見る姿をしていた。

 その輪郭は、巨大な鶏。頭に鶏冠がある飛べない鳥。


 だがその総身は、銀色に輝いていた。鶏の形状を形作るパーツ全てが、金属である故に。

 騎士の兜にも似た頭部は、嘴のつもりか、バイザーに当たる個所の先端が鋭く伸びている。

 翼は、それそのものが巨大な半月刀。ぎらり光る刃は、血に濡れていた。

 尾羽は、扇状に束ねた長剣。地面に食い込む鉤爪は鉄杭。

 三メートルの巨体が一歩前に足を踏み出せば、がちゃがちゃと音が鳴った。


 ―――アルマガージョ。


 開かない嘴から、耳を引き裂くような鳴き声が放たれる。

 この魔物こそ、太悟たちの目的である新種の魔物に違いなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ