夢見る雛 7
三メートル以上はあろうそのシルエットは、どこか熊にも似ていた。
全身を覆う灰色の羽毛、ぴんと尖った耳。黄色い大きな目、ガチガチと鳴らされる嘴。
明らかに飛行には適していない太い翼の先端には、それぞれ三本の鉤爪が生えている。
グラップルオウルはミミズクの魔物だ。獲物をその鉤爪で捕らえては握り潰し、引き裂く残忍さを持つ。
「あたしフクロウとか好きなんだけど、あれは可愛くないね……」
「まあ、魔物だし……」
ファルケとそんな会話を交わしながら、太悟はターシェの動向を見守っていた。
重量級の魔物と相対する少女の、眼鏡の奥の瞳に、揺るぎはない。
サーベルを握った手を腰に引き寄せ、膝を曲げて低く構えて、足に力を溜めている。まるで静かに憤る一角獣のようだ。
睨み合いに焦れて、先に動き出したのはグラップルオウルだった。巨体を揺らしながら、猛然とターシェに襲いかかる。
―――ギェアアアアッ!!
でかい奴は鈍い、というのは誤った考えだ。
体が大きければ力があり、力があれば素早く動ける。
グラップルオウルもその法則から外れることなく、突進とともに繰り出される鉤爪は銃弾の速度だ。
だが、ターシェもまた速い。彼女は身を屈めたまま、たん、と地を蹴った。
軽やかな音とともにターシェの姿が掻き消え、魔物の鉤爪は空を掴む。
「精霊剣舞、大地の章っ!」
その声を、グラップルオウルは認識しただろうか。
自らの背後に回り込んだ、ターシェの声を。
「ストレイト・ワーディー!!」
地を削り、下から上に振り抜かれたサーベル。
刃の軌跡はそのまま地を削りながら走る三日月となり、グラップルオウルの背中を直撃した。
―――ギェエエッ!!
背後から不意を打たれて、魔物の巨体が前に倒れ込む。
「これでトドメであります! 精霊剣舞……」
その隙を逃さず、ターシェが仕留めにかかった。姿勢低く、サーベルを握った右腕を大きく引いている。
大技を出すようだ。どんなものが出てくるか、太悟が期待しながら見守っていると。
ターシェは強く大地を蹴り………転んだ。
「えっ」
ファルケの口から、呆けた声が漏れる。
何も、危なげなところは無かったはずだ。足元の小石やらに躓いても無ければ、他の魔物の横槍も無い。
しかし現に、ターシェは俯せになって倒れ伏している。
そうしている間に、グラップルオウルが体勢を立て直してしまった。
体ごと振り返り、つい今まで自分を追いつめていた女勇士が倒れているのを見て、大きな目をぱちぱちとさせている。
そしてすぐにチャンスであることを悟って、ターシェの頭にその鉤爪を向けた。
彼女がどれだけ素早かろうとも、今度こそ逃れることはできないだろう。
「殺戮暴風圏!!」
無論、それを黙って見ている勇者ではない。
太悟が放った魔法の旋刃が、グラップルオウルの腕を、胴を、首を引き裂いた。
――――ギェアアアーッ!!
パーツごとに分割された魔物が瘴気に還るのを見もせず、太悟はターシェに駆け寄った。
「ターシェ! 大丈……夫……!?」
少女を助け起こし、太悟は息を呑んだ。
「だ、太悟殿……すみません、自分、またドジをしてしまって……」
か細い声でそう言うターシェの顔色は、青を通り越して白く、瞼はまるで蝋で封じられたかのように、固く閉ざされていた。




