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勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
比翼連理

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夢見る雛 3

 誰かがその音を聞いた時、思うことは一つだろう。激しい雨が降っている、と。

 そしてふと窓の外を見て、見事な快晴だと気付く筈だ………壁を突き破って来た矢に貫かれていなければ。


 クラウドマウンテンを飾る要塞跡地、そこに残されていた石壁。

 無数の雨垂れが屋根を叩くかのような音とともに、太悟とファルケが身を隠していたそれが砕け散る。

 相棒を背に庇い、前に出る勇者代理の視線の先には、宙に浮かぶ三本の黒い傘。

 それが横に回転する度に、背筋の凍るような風切り音とともに、無数の黒い矢が発射される。


「ドラゴンウォール!」


 太悟は両腕を交差させ、装甲を拡大。竜骨の大盾が、殺到する矢を弾く。

 およそ十秒間の黒い雨。それが止むと、三本の黒い傘が正体を現す。


 細身の体、鋭い嘴。大きく広げた黒い翼。

 サギに似たこれらの魔物の名は、ボルトウィンガー。

 地上を這いずる獲物を、羽根を変化させた矢で射貫く空の狩人。


 飛び上がって攻撃しようとすればハリネズミは目に見えているし、遠距離攻撃も当てにくい。

 この戦場で、太悟がもっとも苦手としている魔物だ。

 しかし、今は頼れる仲間がいるのだ。


「ファルケ!」


 盾を解除して、太悟は叫んだ。

 ボルトウィンガーの弱点は、一回の連射の後、数秒のインターバルがあることだ。

 もちろん、空を飛んでいることで、地上にいる者は手出しをしにくい。数秒の隙などあってないようなものだ。


「アサルトレイン!!」


 だが、死の雨を降らせることができるのは、魔物だけではない。

 その場でしゃがみこんだ太悟の上を、水属性の青い矢の群れが通過してゆく。発射体制に移ろうとした無防備な魔物たちは、回避すら出来ずに押し流された。

 その攻撃性能と引き換えに、ボルトウィンガーは薄紙のごとき耐久力しか持たされていない。

 悲痛な鳴き声とともに瘴気に還ってゆく魔物たちを前に、太悟とファルケは快哉を上げた。


「イエーイ! 今までよくイジメてくれたな鳥ども! ざまあ!」


「イエーイ!」


 二人でハイタッチまでして喜びを分かち合う。

 クラウドマウンテンを登り始めてからおよそ一時間、ボルトウィンガーを倒しただけでも太悟としては満足だったが、未だ任務は果たせていなかった。


「……今んとこ、新種とやらは出て来てないんだよなあ」


 ひとしきり喜んだところで、太悟は溜息をついた。

 今回はわざわざそのために足を運んでいるので、満足したからといってさっさと帰還するわけにはいかない。


「あたしにとっては、みんな初めて見るのばっかだったけど……どさくさに紛れて倒しちゃってたとかない?」


「いやあ、さすがにいたら気付ガガガガガガガガ」


「太悟くん!?」


 赤と青の派手なカラーリングのキツツキ型の魔物、ヘッドペッカー。

 何時の間にか背中に引っ付いていたそれが、鋭い嘴で兜に覆われた太悟の頭を突きまくる。

 装甲は破られないものの連続で脳を揺らされ、太悟は目を回した。


「あー忌々しい! あっち行けコノヤロー!!」


 太悟が手足を振り回して追い払うと、ヘッドペッカーが奇妙極まる鳴き声を残し、空へ飛び去って行った。

 すぐにファルケによって射落とされたが。


「くそっ、この山ホント嫌い……焼き払いたい。とにかく、もうちょっと登ってみよう。空振りでも、魔物倒せば稼ぎになるのは変わらないし」


「そうだね……あの、あっちでなんかオストリーガーたちが卵蹴りあってるんだけど」


「試合終わるまでは無害だからほっといていいよ」


「何の試合!?」



 ♯♯♯



 魔鳥たちと戦いを挟みながら、山を登ること一時間。

 特別進展もないまま、太悟とファルケはクラウドマウンテンの中腹にまでやって来ていた。


「ふう、気持ちいいー♪」


 楽しげなファルケの声に混じる、せせらぎ。

 程よく日陰があり、水深も精々脛まで浸かる程度の都合のいい河原で、二人は休憩を取っていた。

 ファルケはマントとブーツを脱ぎ、川の中に足を入れて、登山と戦闘で火照った体を冷ましている。

 太悟は、少し離れた位置で周囲を警戒していた。聖水を撒いているとはいえ、何時何処から魔物が攻撃してくるかもわからない。

 だから、ちょっと薄着になったファルケをちらちら見てしまうのも、見張りの一環なのだ。おそらく、たぶん。


「……ね。だ、太悟くんも……一緒に入らない?」


 そんな誤魔化しも、ファルケにそう声をかけられれば、一瞬で砕け散ってしまうのだが。

 水を撥ねる綺麗な足を視界に入れてしまって、太悟はむせ込んだ。


「ふぐっ……だ、大丈夫。見張りしなきゃいけないから……」


「そ、そうだよね。ごめん……」


 ファルケも何やら慌てて、明後日の方向に目をやった。

 孤児院から戻って以来、こんな微妙な空気になることが増えていた。

 ギスギスしているとか、険悪なそれではないのだが、どうもお互いを意識し過ぎているような気がする。

 自分の十倍は大きい魔物の殺し方ならいくらでも思い付く太悟だが、人間関係のスキルはまだまだ未熟で、こういう時に何をすればいいかわからない。

 それはファルケも同じらしく、二人の間には沈黙が降り積もるばかりであった。


「……そ、そろそろ行く?」


「う、うん」


 どちらともなくそう言って、身支度を整える。

 太悟は、今すぐ魔物が出てくれないかなと密かに願った。十体ほど殺せば、この気まずい雰囲気も払拭できるだろう。

 太悟の気持ちに合わせて、旋斧カトリーナの刃が嬉しそうに回転した――――その時。

 ざあ、と森の木々が揺れた。次いで、陽光を遮る影。

 それぞれの武器を手に、太悟とファルケは顔を上げた。


 巨大な鳥が、空を飛んでいた。

 嘴の先端から爪先まで、おそらく六メートルはあるだろう。

 ただしその半分は、黄色い嘴の大きさだ。


「あいつは、タイラントビークだな」


 竜骨の兜の中で、太悟は呟いた。

 白と黒の羽毛を持つ魔物は、クラウドマウンテンの中でも上位にあたる存在だ。

 ボルトウィンガーのように空から一方的に羽根を撃ってくるということはないが、その巨体に相応しいパワーで嘴を振り回して大暴れするのだ。

 重装甲の騎士でもペーパークラフトよろしくぺしゃんこにされるため、攻撃が単純ながら極めて危険性の高い魔物である。

 今は、こちらには気づいていないようだが………


「……ねえ、太悟くん。あれ」


「ん? どうしたのファル……んん?」


 ファルケに促され、太悟は目を細めた。

 空を行くタイラントビークの嘴から突き出た、二本の棒のような物。

 それはどう見ても、人の足だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] どさくさに紛れてサッカーしてるやつらいたな
[良い点] まさかの新キャラなのか(笑)
[気になる点] スケキヨ [一言] オストリーガーが11羽VS11羽でしているのか?
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