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勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
比翼連理

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夢見る雛 2

 雲纏う、大地の剣。


 正面から見て、綺麗に三角形をしたその山は、古くからそう呼ばれていた。

 その頂上には神々の住まう宮殿がある。世界で一番大きい鳥の王が巣を作っている。

 美しささえ滲ませる威容に、人々は様々な物語を紡いだ。


 山肌を覆い、青々と茂る草木の、その隙間。

 近くに寄ってみれば、そこかしこに堅牢なる石壁や、堂々たる門の残骸などが見えることだろう。

 それは遥かな古代に栄え、今は名前さえ失われた王国、その要塞の名残なのだ。


 大自然と人の技術が織り成す要塞で、どの様な戦いが行われたのか、今や語る者さえ残ってはいない。

 《常闇の魔王》オスクロルド侵攻に際し、鳥型の魔物達に占領されて、常人は近付くことさえ危険な地になってしまった。


 つわものどもが夢の跡。 

 今や魔鳥の住まう場所。


 その山の名は、誰が呼んだかクラウドマウンテン。

 勇士たちが攻略に挑む、戦場である。


「と、いうわけで。今日はここで、調査の任務を行います」


「おー!」


 クラウドマウンテンの麓。

 今回の目的を説明する狩谷太悟と、快哉を上げるファルケ・オクルスの姿があった。


「だけど、調査って何するの?」


 ファルケが首を傾げる。以前の神殿では、受けたことのない任務だった。

 正確に言えば、受ける資格がなかったのだが。頷いて、太悟が説明を続ける。


「今回は魔物の調査だね。最近、このクラウドマウンテンで、新しい魔物が発見されたんだとか」


 新種の発見は、普通の生物であれば喜ばしいことだろう。だが、魔物の場合話は違う。

 未知の脅威と書けば安っぽいが、対処する立場にしてみれば、それは凄まじい恐怖をもたらしてくる。なにせ、何をしてくるかわからないのだから。

 出くわした瞬間に、どうしようもないほど致命的な攻撃を仕掛けてきたとしてもまったく不思議ではない。新種の魔物の登場は、必ず勇士たちの犠牲を伴うのだ。


 故に、その調査は極めて重要かつ危険であるため、ある程度の実績のある勇士団でなければ受けることはできない。

 今回、タワーオブグリードやカピターンの討伐実績のある太悟たちにも、その話が回ってきたというわけだ。


「それで、どんな魔物が見つかったの?」


 そう尋ねてくるファルケに、太悟がううんと唸った。


「どんな奴なのかは、いまいちはっきりしてないんだよなあ。戦闘中、後ろからガチャガチャ音がして、振り向いた途端斬られてたとか……」


 この戦場に出る以上、鳥の類に違いないのだろうが。

 もちろん見間違い、勘違いの可能性もあるが、それらを含めての調査である。


「そうなんだ……じゃあ、あたしたちも気を付けていかないとね! 太悟くんの背中は任せて!」


 鼻息荒く、胸を張るファルケに、太悟はくすりと笑う。


「ありがとう、ファルケ。だけどもちろん、他の魔物にも注意しないと。ここのは結構面倒だし」


「そうなの?」


「空飛ぶし、遠距離攻撃してくるのが多いんだよ。僕はそういうの苦手だから……」


 飛び道具はまともに使えたことがないし、遠距離攻撃は魔法か、精々ポーションを投げるくらいしかできない。下手すると一方的に攻撃されっぱなしになる。

 なので太悟は今まで、クラウドマウンテンへの出撃には積極的ではなかった。

 その考えを変えたのは、ファルケという弓使いの加入である。

 自分にできないことをしてくれる。それが仲間の良いところだ。


「飛んでる奴は頼んだよ。翼撃てば、だいたい落ちるから」


「うん! 任された!」


 太悟とファルケは、転送された地点から移動。クラウドマウンテンの登山道入り口までやってきた。

 苔生した石垣に挟まれた、巨大な門。物資の搬入などにも使われていたであろうそれは、象でも悠々と通れるほど大きい。

 おそらくそこにあったであろう扉は今は無く、大口を開けて二人が入るのを待っていた。

 太悟は、何時ものように全身を竜骨の鎧で覆い、旋斧カトリーナを両手で握った。


「ここからは、魔物が出てくる。警戒しながら行こう」


 太悟の言葉に、ファルケが海弓フォルフェクスを構えながら頷く。

 門をくぐった先は、緩やかな坂道になっていた。

 石畳の敷かれた道の左右は鬱蒼とした森が広がり、奥からは鳥の声や羽ばたきが聞こえてきている。

 それは本物の鳥か、それとも魔物か。二人は慎重に歩を進め、山を登ってゆく。


 経年劣化によって荒れ果て、ところどころ雑草が伸びているものの、整備されているため登山自体の労力は少ない。

 それでも、木々や瓦礫によって視界が制限されている中で警戒し続けるというのは、精神力を消耗するものだ。


「狭い隙間に矢を通す訓練とかしてきたけど……こういう邪魔な物が多いとこって、やっぱりやりにくいよね」


 薄闇が広がる樹間に目を向けながら、ファルケが呟く。


「僕もグリーンメイズとか、昔は苦手だったよ。剣とか斧があちこち引っかかるし。今はもう、最悪切り倒せば―――」


 言いかけて、太悟は足を止めた。ファルケも同時に足を止め、弓を構える。

 何かが近付いてくる、その足音がした。間断なく地を蹴っているらしいその音に、太悟は心当たりがあった。


「いきなりあいつか……」


「強い魔物?」


 ファルケの言葉に、太悟は首を横に振った。


「なんというか……変な奴。あ、ほら。見えて来た」


 太悟が指差す先。坂を猛烈な勢いで駆け下りてくるのは、一羽のダチョウだった。

 何やら、やたらキリっとした顔を乗せた長い首。鮮やかな青い羽毛。

 すらりと長い足には、何故か―――サッカースパイクを履いている。


「あいつはオストリーガーだね」


「……あれ? なんか蹴ってる? あれって……卵!?」


 ファルケが驚きに目を見開く。

 ダチョウの魔物が、こちらの方向にゴールがあるとでも言うような迫力のドリブルで運んでいる物。

 それは、人間の頭ほどもある卵だった。太悟は実物を見たことはないが、ダチョウの卵はきっとこのような物なのだろう。


「卵を……え、なんで? 自分のじゃないの……?」


「魔物が普通に繁殖してるとは思えないけどね……そろそろ仕掛けてくるぞ」


 そう太悟が言った通り、オストリーガーの動きが変わった。ドリブルしていた卵を一転、蹴り上げる。

 高く高く、太陽と重なる位置まで。しゅるるるる、と高速回転する卵。

 それを追うように、オストリーガーも跳んだ。

 太悟たちには背を向けて。それは見事なオーバーヘッドキック。


 蹴られた卵は、放たれた弾丸の如く一直線に、太悟たちの元へと飛来した。空気との摩擦によって炎を纏うそれは、まるで隕石。

 冗談のような技だが、当たれば笑いごとでは済まない。


「体育のサッカーが嫌いだったけど、これからも好きになれそうにないなあ……」


 ぼやきながら、太悟は旋斧カトリーナを両手で構えた。野球のバッターのように腰を落とし、タイミングを図る。

 そして、ボールならぬ卵が目前に迫る瞬間、太悟は大きく踏み込んだ。


「ふんっ!」


 気合いとともに振り抜かれた得物は、狙い過たず、飛んできた物体を打ち返した。

 かきーん、などという音が聞こえそうなほどに。打ち返された卵が、青空の彼方へと消えてゆく。

 未だ滞空状態にあったオストリーガーは、渾身の必殺シュートが破られた事実に、しばし嘴を大きく開いていた。

 だが、やがて微笑を浮かべ、飛行には不向きなその翼でグッジョブのハンドサインを描く。


 ライバルには最高のリスペクトを。それが真のアスリートである。

 直後、オストリーガーはファルケが放った矢によって爆発四散した。


「……変わった魔物だね」


「うん、まあいろいろいるんだ……」

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― 新着の感想 ―
息が詰まるような話ばかりじゃ読む手も止まるが、こういう閑話があると世界観に興味を引いていいよね。
ギャグは作品の質を落とす、残念
[一言] なんだこの可愛い魔物は
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