表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
比翼連理

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/119

夢見る雛 1

「ターシェ……貴様は、追放だ!」


そう叫んだのは、筋骨隆々とした体に軍服を纏う髭面の男、チームのリーダーである《鉄血》バルガンドだった。

魔物でさえ恐れさせるという彼の怒りに直面した《地精剣士》ターシェ・サント・デュモンは、顔面を蒼白にした。


彼女は、今年で十七歳になる少女だ。名門デュモン家に生まれ、顔立ちは品良く整っている。

マリーゴールドの羽根付き帽子とコート、動きやすさを重視したミニスカートを纏い、背中の青いマントには、マギアベル国立魔法学院を卒業した証として、交差した杖の紋章が金糸で刺繍されている。

腰にはサーベルを吊るしているが、砂色をしたふわふわな髪と、鼻の上にちょこんと乗った丸眼鏡のおかげで、親しみやすい……というより、威厳の無い印象を相手に与える。


そんなターシェが、サンルーチェ神殿第十支部に配属されてはや数ヵ月。

神殿内でも古株のバルガンドから、追放を言い渡されていた。


「そ、そんなっ!! 自分、何かしたのでありますか!?」


「何か? 面白いことを言うな、貴様……!!」


半泣きのターシェ。バルガンドのこめかみに、青筋が浮かび上がる。

彼の武器である巨大な長方形をした機械、パイルランチャーを今にも撃ちそうな剣幕である。


「まあまあ、落ち着けって旦那。俺も気持ちはわかるけど、そいつは勇者様の領分だぜ」


間に入ったのは、派手な金髪をオールバックにした武道着の男、《瞬雷脚》レヴァン。

軽薄そうに見えて格闘の達人であり、その足技は、まさしく稲妻の速度で繰り出される。


「そうよぉ。それに、女の子を怒鳴りつけるものじゃないわ、バルさん。気分が落ち着く香水、使う?」


薄いフェイスベールと、腰に吊るした無数の瓶が特徴の《妖香師》ラフルーも、話に参加してくる。

バルガンドは腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。勢いは削がれたものの、怒りは継続している。


「戻ったら、儂から勇者殿に進言する。こやつに背中は任せられんとな」


イクサ帝国将校の溜息交じりの言葉に、レヴァンとラフルーが頷く。


「そりゃあ……な。かわいこちゃんは好きだが、戦場でとなるとなぁ……」


「ターちゃんは、まだ早かったかもしれないわねぇ……」


はあ、と溜息が重なる。

あまりにも分かり易く仲間たちから見限られ、ターシェは慌てて声を張り上げた。


「お、お二方までぇっ。教えてください、自分のどこが悪いのでありますか!?」


ターシェ以外の三人は、互いに顔を見合わせると、


「戦闘中、八割の確率で転ぶ。足元に何もない場所だろうと転ぶ」


「当然、転んだ隙に魔物が襲いかかるから、他の奴がフォローしなきゃいけないし」


「ひどい時はそこから崩されて、撤退……って時もあったわねぇ」


つらつらと、背中を任せられない理由を並べた。

心当たりのあり過ぎるターシェに、ぐさぐさと容赦なく突き刺さる。


「うぐぅーっ。も、申し訳ありません!!」


膝から崩れ落ち、その勢いで頭を下げるターシェ。


「普段ならば、それでも面倒は見てやれるが……今回の任務は特別だ。勇者殿の差配とはいえ、足手まといを連れてゆく余裕はない」


バルガンドに撤回の意思はなかった。

液体の入った小瓶が、ターシェに投げ渡される。


「貴様は山を下りろ。今なら聖水を使えば、さほど危険もなく安全地帯に行けるだろう。そこで我々の帰りを待て」


「全員で一度撤退、ってわけにはいかねえのかい?」


レヴァンが口を挟む。ターシェの安全を考えるなら、それが確実だろう。

だが、バルガンドが首を横に振った。


「ただの魔物退治のための出撃ならともかく、今回は明確な目標設定がされた任務だ。こうも早く、手ぶらで戻ったとなれば教会からの評価にも響く」


「うーん……しょうがないわねぇ。ターちゃん、イイ子にして待ってるのよ?」


「えっ、えっ」


ラフルーに頬をさすられながら、ターシェは困惑していた。

本人を抜きにして、三人の中で話が固まっている。

全員くるりと背を向けて、つかつかとターシェから遠さがって行く。


「あ、あの、ちょっと。自分、もっとがんばりますからぁっ。置いてかないでくださいぃいーーーっ!!」


少女の悲しみに満ちた叫びが、空に響く。

驚いた鳥たちが、ぎゃあぎゃあと飛び去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
普通に無能で心配されるだけか
[一言] …誰がどう見ても妥当な判断だな
[良い点] 推しだからしょうがないよね! [一言] 一番被害を出す無能な働き者だったとは… これはきちぃ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ