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勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
比翼連理

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外伝・風が吹く故郷4

 巨大な鳥小屋が並んでいる。

 それが、ニード村に入った太悟の感想だった。

 これは差別的な意図があるわけではなく、十人いれば九人は同じことを思うであろう光景が広がっていたのだ。


 村内に何本も並ぶ太い木の支柱に、五軒から三軒の家屋が取り付けられている。柱の間にはロープが張られていて、洗濯物が干されていたり、エアリア族の村民が器用に渡っているのが見えた。

 これぞ異世界、と普段の太悟なら感動するところだが、今はそんな気にはなれない。漂うどこか緊張した空気は、強大な魔物の驚異にさらされているためだろう。

 もはや肌に慣れたその感覚に、太悟は改めて気を引き締める。


「ひとまず、私の家にどうぞ。些少ではありますが、食事も用意してます」


 アロンドラの案内によって、太悟たちは村の奥にある、他のものより大きい家屋にやってきた。こちらも他と同様に木柱に接続され、地上から離されていたが、エアリア族以外の来客のために縄梯子が備え付けられていた。

 それを使って上に登り(体も装備も重いダンは最後だ)、家の中に入る。


 そこは、大広間になっていた。おそらく、普段は村の会合にも利用しているのだろう。

 中央には長卓が置かれており、その上では、大皿に盛られた料理が湯気を立てていた。


 ヒレが羽のようになった魚に串を打ち、塩をまぶして焼いたもの。

 人間の子供ほどもある大きさのイカに、褐色のタレを塗って焼いたもの。

 この村で育てた小麦を使っているらしい麦粥。

 どれも、芳しい匂いで太悟の胃を刺激した。きゅう、と鳴った腹の音は、皆に聞こえていないと信じたい。


「ワタリウオの塩焼き、トンボイカのワタ焼きです。この程度のおもてなししか出来ませんが、どうぞお召し上がりください」


 アロンドラに席を勧められる。

 普段ろくなものを食べていない太悟としては是非とも相伴に預かりたいところだが、唾液を飲み込んで、首を横に振った。


「い……ただけません、こんなご馳走」


 外の畑の荒れ様を、太悟は見た。危険ゆえに整備はできず、狩りも簡単ではあるまい。

 村内に蓄えや、緊急時用の畑はあるだろう。だがそれらは当然限度がある物で、悪戯に消費していいはずがない。

 魔物の脅威にさらされた村では、一握りの麦が金塊と同じ価値を持つものだと、太悟は勇者として戦う日々の中で教えられてきた。これらを口にするべきなのは、まずこの村の人々であるべきだ。


「うむ、ありがたい! いただきます!」


 と、太悟がそんなことをしている内に、兜を外したダンが席についていた。

 炎のように赤い短髪と、太陽の如き橙の瞳を持つ偉丈夫が、焼いた魚を頭からバリバリと齧る。


「躊躇いがない!」


 声を上げる太悟。口に尾鰭を挟みながら、ダンが男臭く笑う。


「我々のために、これだけの食事を用意してくれたのだぞ! 無碍にはできん!」


「そ、それはそうだけど……」


「申し訳ないと思うなら、太悟よ。無駄に食ってはいかん。この村を苦しめる竜を打ち砕き、平和をもたらすために食うのだ!!」


 真夏の日差しのように、力強いセリフだった。

 おそらく五回くらい生まれ変わったとしても、こんな男にはなれないだろうな、と太悟は思った。

 嫉妬すら感じる。

 だがしかし、良いセリフだ。魔物と戦う決意に、新たな薪をくべることができる。

 太悟はコロナスパルトイを外し、席に着いた。


「いただきます」


 出来立ての麦粥は温かく、塩がきいていて、気力が湧いてくる。


「さあ、プリスタも食べなさい。トンボイカ、お前もレンカも好きだったろう」


「……はい」


 プリスタもこくりと頷いて座り、しばし食事会が続いた。

 料理はどれも美味しかったが、太悟がちらりと見たプリスタの表情は、ずっと浮かないままだった。


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