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勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
比翼連理

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55/119

ダンジョンアタック6

 出現して早々、ゴールデン・リッチは攻撃を仕掛けてきた。歯列に、何故か唇の形に紅が引かれた口が、大きく開かれる。


「これが初めましてとさよならの挨拶ザンス! ゴールドラーーーーッシュ!!」


 魔物が激流の勢いで吐き出したのは、大量の金貨。壊れたスロットマシンみたいだ。

 黄金の息吹と見るか豪華な吐瀉物と見るかは微妙なところだが、まともに当たれば無事では済まない。

 大悟とファルケは、それぞれ左右に跳んだ。一つしか無い口から吐くならば、二人同時には狙えまい。


 金貨の奔流が遺跡の床を砕く。じゃらじゃらと余りにも騒々しい。

 ゴールデン・リッチが選んだのは、太悟の方だった。動き回る勇者代理の後を、死の金貨が床を削りながら追う。


「オーホホホホ! ちょろちょろ逃げ回るネズミちゅわぁん! ゴージャスに死になさーい!!」


 相も変わらずやかましく笑うゴールデン・リッチ。使用中の口で器用なことだ。

 だが、これが一対一の戦いでは無いことを忘れているらしい。


「―――アサルトレイン!!」


 魔物の顔の高さまで飛び上がったファルケが、矢の雨を放つ。

 二対一。数の有利を生かすのは、卑怯ではあるまい。


「ちょこざいな!」


 だが、敵もさるもの引っ掻くもの。

 骨の手が扇のように打ち振るわれ、水の矢を横合いから叩き落とした。


 ふざけた態度だが、意外とやる奴だ。

 太悟は舌打ちとともに、敵への評価を改めた。ダンジョンのボスが、程度の差はあれど弱いはずがない。


「見よ! この白魚のような指! これがアンタの死神ザンス!」


 着地したファルケに迫る骨の手。白魚というよりは朽木だが、殺傷力に疑いはない。

 もちろん、太悟に見過ごすつもりなどなかった。


「お前こそ、こっち見ろ!」


 旋斧カトリーナが唸る。太悟は跳躍し、ゴールデン・リッチに斬りかかった。

 狙い通り、魔物の空洞の目がこちらに向けられる。


「学習能力の無い貧相なお脳ミソだコト! ブリリアントパンチで叩き潰すザンス!」


 指輪をはめた手が丸まり、名前通りに輝く砲弾となって、太悟へと射出される。

 それは岩をも砕くだろう。人間なら、直撃は命取りになるだろう。

 そんなありきたりな攻撃を、太悟は唸る旋刃で迎え撃つ。


 がぎん―――硬質な衝突音とともに、二つの影が重なる。


 得物を振り下ろした姿勢で、太悟は着地した。

 ゴールデン・リッチの拳は、空中で静止している。


「オーホホ残念! この輝きはエターナル!」


 人間ごときが振るう刃では、宝石に傷一つつけられまいと、魔物が嘲笑う。

 大悟は鼻を鳴らした。見当違いの、安い挑発と。


「どうかな」


 かつん。旋斧カトリーナの石突が、石の床を叩く。

 その小さな振動が影響したわけではあるまいが―――宝石で彩られた骨の巨拳が、縦に割れた。


「オーーーッ!? ノーーーーゥッ!!!」


 余裕ぶっていた分だけ、衝撃は大きかったようだ。

 ゴールデン・リッチは顎が外れそうなまでに開口し、絶叫をまき散らした。

 カトリーナの刃は、魔海将軍ピターンをも斬ったのだ。ダンジョンのボスとは言え、そこらの魔物では防ぐことはできない。


「隙あり!!」


「ウギャアーッ」


 動揺により緩んだ防御を、ファルケの放った炎の矢がすり抜けて、魔物の後頭部を爆撃した。

 爆炎と衝撃波が広がったが、王の墓は広く、造りもしっかりしているようで、崩落の気配はない。

 太悟とファルケは再度合流し、肩を並べた。


 断たれた骨の拳は、音も無く瘴気に還ってゆく。

 一方。ワイバーンブラストを受けたゴールデン・リッチの頭部が、火の粉を振り払うように数度揺れる。

 焦げた跡は残っているが、大きな傷は負っていないように見えた。


「う、あんまり効いてない……」


 ファルケが呻く。

 幹部クラスには勝らないにしろ、ゴールデン・リッチもまた、ひとかどの魔物である。

 そう易々と倒されてはくれない。


「大丈夫。死ぬまで殴ればいいだけだから」


 相手が骨だろうが竜だろうが、とどのつまりやることはそれだけだ。

 それがこの世界に来てから、太悟がやり続けてきたことだった。


「まだあっちの底力がわからないから、慎重に頭狙ってこう」


「了解!」


 軽い打ち合わせが終わるとともに、ショックから立ち直ったゴールデン・リッチがこちらに顔を向けてくる。


「やってくれるザンスねえ、アァーンタたちっ! さすがはアタクシの運命のライバル!!」


「そんな事実はない」


 太悟の返答を無視して、ゴールデン・リッチが残った左手の指を振る。


「だがしかぁーし……アタクシの輝きは、まだまだこんなモノじゃないザンス!」


 そう言うやいなや。

 ゴールデン・リッチは人差し指を立て、その先端から緑の稲妻を放った。

 身構える太悟とファルケ。だが枝分かれした稲妻は、二人ではなく室内に鎮座した無数の戦士像に降り注ぐ。

 それが誤射などで無いことは、すぐにわかった。


 一瞬、像はぶるりと震える。それは、仮初の命の脈動。

 べきべきと音を立てて、古びた銅が剥がれ落ちてゆく。

 新たに生まれたのは、下品なまでに宝石で装飾された、銀の戦士像。それが十体。

 両手の斧を高々と頭上に掲げ、無言の殺意とともに、勇者と勇士に襲いかかってくる。


「オーホホホ! ゴーーーージャスダンスパーティー!! お代は死んでのお帰りヨッ!!」


 高笑いを上げるゴールデン・リッチ。数を増やして勝った気になる、これまた安直な思考。

 太悟は慌てず急がず、ファルケに指示を出した。


「あんまり備品は壊したくなかったんだけど……ファルケ、足お願い」


「任されたっ!」


 ファルケの放ったシーカーショットが、先頭を走る戦士像の右足を撃ち抜く。

 いきなり片足になって立っていられる者はそうそういない。ましてや、走行中なら倒れるに決まっている。

 がしゃんと転がった戦士像に、後続は対応できず、足を引っかけ次々に転んでゆく。

 立ち直られる前に、処理が必要だ。太悟はカトリーナを構えた。


「殺戮暴風圏!!」


 魔法によって生み出された旋刃の群れが、抵抗できない得物に殺到。

 手が飛び足が飛び首が飛ぶ阿鼻叫喚。相手が人間なら血の海だろう。

 戦士像達は、今や無力な破片の山だ。


「短いパーティーだったな」


 そう言い捨てた太悟の台詞を、ゴールデン・リッチが愉快げに拾う。


「ドゥーーーーーかしらねぇーーーぇ?」


 その様子に嫌な気配を感じ、太悟は戦士像の破片に視線を走らせる。

 かち、かち、かち、と。小さく硬い物同士がぶつかる音が、予感の正しさを教えていた。

 起きているのは、時間の巻き戻し。

 破片と破片が正しくくっつき、まるでパズルのように、人間の輪郭を形成してゆく。


 げ、と太悟は兜の中で顔をしかめた。

 五秒を待たずに戦士像達は元通りになって、砕けぬ殺意をもって両手の斧を構える。

 ゴールデン・リッチがやかましく笑い声を上げた。


「オーホホホホホ!! ダンスパーティーはエンドレス!! 死ぬまで踊るザンスよ!!」


 寄ってくる戦士像を蹴り倒しながら、太悟は溜息をついた。

 前にはやかましい頭蓋骨、後ろには動く像。形としては、挟撃されている。


「めんどくさい術使いやがって……」


「ど、どうする!?」


 倒れた戦士像をファルケが射貫くが、すぐに立ち上がってくる。

 これを攻略するには、少し違う方法が必要になるようだ。


「死ぬまで殴る、じゃダメそうだね。……おっと!!」


 太悟はファルケの腕を掴み、床を蹴って大きく跳んだ。

 僅かに遅れて、金貨の雪崩が押し寄せる。ゴールデン・リッチが攻撃に参加したのだ。


「オホホホホ! もちろん、アタクシのコトもお忘れなーーーーく!!」


 魔物の哄笑を耳朶に受けながら、太悟はファルケを抱えたまま戦士像達の頭上を跳び越え、部屋の出入り口近くに着地した。

 距離を取ったのは、戦士像に囲まれて動きが鈍ったところで金貨に圧し潰される、そんな無様を避けるためだ。

 もちろん、敵の群れがすぐに追いかけてくるが………


「壊してもすぐ直るんなら、壊すだけ無駄だな」


「でも、ほっとくのも危ないよ」


「要するに、動けなくすりゃいいのさ」


 迫る戦士像達の向こう、ゴールデン・リッチは宙に浮かんだまま、攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 やるなら囲んでから、ということなのだろう。

 その隙を利用して、太悟は屈み、床に手をついた。


「ドラゴンスパイン!!」


 がちゃがちゃと音を立て、駆け寄ってくる戦士像達。

 それらを足元から襲う、長槍の如き骨の棘。無数に生えた凶器は、金属製の人型を容易く貫通した。

 串刺しにされ、もがく戦士像の内側から、さらに何本もの棘が飛び出す。

 長い棘から枝のように生えた棘は、手足を僅かに動かすことすら許さない。

 バラバラにしてもすぐ直るなら、原形を留めたまま、行動できなくするだけだ。


 とはいえ、これはただの時間稼ぎに過ぎない。太悟はゴールデン・リッチを睨みつけた。


「あっ、ちょっ、卑怯ザンスよ!? くうう、お人形さんたちがんばってチョーダイ!!」


 慌てたゴールデン・リッチ。その左手の指が蜘蛛の足のように動く。

 それに合わせるように、戦士像達の体が震える。無理やり体を動かそうとしているようだ。

 像を操る術を使ったのも左手である。ならば、


「ファルケ、あいつの手、止められる?」


「手? うん」


 太悟の言葉に頷いて、ファルケが海弓フォルフェクスの弦を引く。その指に、矢は挟まれていない。

 だが、水の弦がぶんと空気を揺らした時、たしかに矢が放たれた。床の上を一直線に走る、影の矢が。


「シャドウピアス!!」


 影の矢が、本体同様宙に浮かんでいるゴールデン・リッチの左手の影に突き刺さる。

 瞬間、わさわさと蠢いていた指が、ぴたりと止まった。同時に、戦士像達も静止。

 手品の種は、やはりあの左手にあるらしい。


「Oh!? アタクシのおててがストッピング☆ナーーーウ!?」


「ああ、息の根を止めてやるとも」


 剣呑に言い放ち、太悟は旋斧カトリーナを頭上で旋回させた。

 放たれるは死を呼ぶ魔法。殺戮暴風圏が、ゴールデン・リッチに襲い掛かる。

 骨の左手に食らいつく、血に飢えた無数の旋刃。高速回転と鋭い刃が生み出す威力が、火花を散らしながら魔物の体を破壊してゆく。


 抗う間もなく、骨の手はバラバラに解体されて、材木のように床の上に転がった。

 同時に、拘束されている戦士像達も力を無くし、ただの置物に戻る。


「ウギャアアアアアア!! いくらアタクシが魔物とはいえこれはヒドイ!?」


 とうとう両手を失い、ゴールデン・リッチが空中で転げ回る。

 いい加減、この甲高い声にもうんざりしてきた。いよいよ永遠に黙らせるために、太悟はカトリーナを構える。

 次が最後の一撃だ―――――だが。


「………こーーーーなったら!! アタクシの最後にして最高のパゥワーを見せるしかないザンスね!!」


 太悟が攻撃のための姿勢を整える前に、ゴールデン・リッチが静止。

 暗い眼窩、その奥から迫り出してくる、虹色の輝き。ブリリアントカットを施された巨大なダイヤモンドが、魔物の眼として出現した。


「みんなが憧れるこのキラメキ、アナタにもおすそわけ!! ファイナル・ビューティー・フラァーーーーーッシュ!!」


 一対のダイヤモンドが、眩しいくらいに発光。放たれるのは光線か。

 その時、ファルケが前に出た。


「プリズムシャッター!!」

 二人を包み込むように展開される、泡の障壁。

 ゴールデンリッチの目から、虹色のビームが発射されたのは、次の瞬間だった。

 虹と泡が衝突する。ファルケの障壁が、魔物のビームを散らしてゆく。

 だが、全てを偏向できているわけではなかった。


「ぐ、う」


 海弓フォルフェクスを右手に、左手を前にかざすファルケが呻く。

 押されている。後ろで守られている太悟も、その圧力を感じていた。

 無敵の盾は存在しない。遠からず泡が破られる、その予感があった。

 このままでは……


「ファルケ、退避するぞ!」


「ご……め、ん……!!」


 太悟がファルケの腰を掴んで横に飛ぶのと、泡が弾けるのは、ほぼ同時だった。

 虹色の光が床を舐める。何も壊れず、焼けもしていない。

 代わりに、ぎらぎらとした金色の輝きが太悟の目を刺す。


 金だ。

 床の、ビームが当たった場所が、金に覆われている。


「オホホホホホ! ファイナル・ビューティー・フラッシュを浴びた者は、アタクシのような最高の美肌になれるザンス! もっとも、人間じゃあ動けないし息もできなくなってオダブツだけど。そちらのお嬢ちゃんは惜しかったザンスね!!」


 その言葉に、太悟は視線を走らせた。ファルケの横顔が、蒼褪めている。

 少女の右足、その膝から下が、金色に染まっていた。


「ファルケ、それ……」


「痛くないけど、動かせない……!!」


 避けるのが、わずかに間に合わなかったようだ。

 これが頭ならどうなっていたか。運が良かった、とはまだ言えない。


「心配ご無用よかわいこちゃんたち。二人仲良く金ぴかにして、お部屋のインテリアにしてあげるザンス!!」


 ゴールデン・リッチが再びビームを発射。ファルケの腰を抱いたまま、大悟は跳んだ。

 虹色の光が閃く度に、壁が、床が、金色に塗られてゆく。まるで、子供がペンキで遊んでいるかのようだった。


「まだちゃんと勇者にもなってないのに、家具にジョブチェンジしてたまるかってんだ」


 言いながら、大悟は思考を走らせた。ふざけた魔物だが、思った以上に厄介な奴だ。

 接近して斬るには、あのビームをどうにかしなければならない。

 あるいは、こちらも遠距離から撃ち合うか。


「殺戮暴風圏!!」


 試しにと放った、旋刃が六つ。正面、右、左と拡散させたが、すべてビームに撃墜されて消えた。

 魔法の攻撃は金にはならないようだが、届かなければ意味がない。


 動き回って隙を窺う。これも、ファルケを抱えたままでは現実的ではないだろう。

 自分の足ならいくらでも切断して新しいのを生やすところだが、仲間のはさすがに躊躇われる。

 一時撤退。マジックタブレットの転送機能は例によって使えないし、唯一の出入り口に向かえば、そこを狙い撃ちされる可能性がある。


「ごめん、太悟くん。ここにきて、足手まといになっちゃった……」


「気にしないで。こんなの、ピンチでも何でもない」


 たった一人、孤独に窮地に立ち向かうことを思えば。詫びるファルケに、太悟は兜越しに笑いかけた。

 とはいえ、今一つ反撃の手に欠けるのは確かだ。多少無茶をすれば別だが。

 そう考えていた太悟の横を、ビームがかすめる。鎧に生えている棘が被弾し、金に染まった。


 ………直接、虹色の光が当たった面だけ。反対側は、変わらず鈍色のままだった。


「ファルケ、金になってる方の足って感覚ある?」


「え? うん、くっついてる感じはするよ。やっぱり動かせないけど……」


 なるほど、と太悟は乾いた唇を舐めた。

 当たった物を金に変化させるのではなく、当たった部分を金で覆う術なのだ、あのビームは。

 改めて見れば、ファルケの足もすべてが金になっているわけではなく、中途半端に塗装されたプラモデルのように、元の部分が残っている。さすがに、今の状況で金を剥ぐ作業はできないだろうが。


 そしてどうやら、金になった部分が再度ビームを受けても、それ以上の変化はないらしい。

 ゴールデン・リッチが連射しまくっているにもかかわらず、金色の壁や床は、何処も壊れたりはしていなかった。


 ならば、作戦は決まった。太悟はファルケの耳に顔を寄せる。

 囁くのは、この戦いの終わらせ方。


「えーい、イーカゲン観念してアートになっちゃいなさい! これ目が疲れるんザンスから!」


 がなるゴールデン・リッチ。受けて、大悟は立ち止まった。


「お望み通り、受けて立ってやるよ」


 そう言って、大悟はカトリーナを数度振った。

 背後にはファルケが控えている。走れはしないが、立っていることはできた。

 魔物からは、自ら首を差し出しているように見えただろう。金の髑髏が、かちかちと歯を噛み鳴らす。


「ウーン、いさぎ良-----しッッ!! ご褒美に、二人まとめて一瞬で金ピカにしてあげるザンス!!」


 前に太悟、後ろにファルケ。まとめてとは言うが、まず間違いなく最初に太悟が犠牲になり、ファルケがその次だろう。

 だがそもそも、大人しくやられるつもりはないのだから、その想定は無意味だ。

 ゴールデン・リッチのダイヤモンドの目が発光する。同時に、太悟は行動を開始した。


 屈み込み、両手の指を、足元に突き立てる。

 次の瞬間、照射される虹色のビーム。

 今だ。


「ふんっ!!」


 太悟は力いっぱいに、足元の石畳をめくり上げた。

 直前に、人を隠すのに十分なサイズにカットしておいた、表面が金で固められた石畳を。

 即席の防壁に、ビームが直撃する。だが、既に金で覆われているため、何も変わらなかった。

 その後ろにいる太悟とファルケにも、影響は無い。


「ファルケ! 矢、準備して!」


「うん!」


 やがて、虹色の光が止む。


「あ~、これしんどいワァ……誰か目薬持ってない? 目薬ぐふぉお!!」


 ゴールデン・リッチの口腔に煎餅かクッキーよろしく投げ込まれたのは、金化した石畳。

 もう盾は必要ない。ここからは最後まで、攻めて攻める。


「いくよ、ありったけの力を込めた……ワイバーンブラスト!!」


 大悟の頭上を飛び越えて宙を走る、真紅の矢。それも二本。

 どちらも、最初に放ったものより太く鋭く、そして速い。


 一対の炎の矢は、口内に嵌まり込んだ異物を吐き出そうと慌てているゴールデン・リッチの両目を、正確無比に撃ち抜いた。

 轟、と暗い眼窩から噴き出る爆炎に、ダイヤの破片が混じる。


「アア~!! 目が、目がッ……目がオシャカになった!!!」


 魔物の口から零れ落ちる金の板。

 それが床に落ちて音を立てる、その前から、太悟は走り出していた。

 狂ったかのように激しく回転する、旋斧カトリーナの刃。魔力を極限まで注ぎ込まれたそれは、万物を切断する。


「目がぁ~目……アレ? アタクシ元々目出してなかったんだから、別に大したことなくナイ? ……あ」


 ゴールデン・リッチが、鋼色の風と化して疾駆する勇者代理に気付いた時には、もう遅い。

 床を蹴りつけ、太悟は跳躍した。金色の巨大な髑髏に、鎧姿が映る。


「終わりだ、金ピカ頭!!」


 縦一閃。振り下ろされたカトリーナが、一片の慈悲もなく、ゴールデン・リッチを真っ二つにした。

 がしゃん、と着地した太悟が頭上を見上げれば、左右で綺麗に二等分にされた魔物が、断面から瘴気を噴き上げている。

 ゴールデン・リッチの最期だ。


「アアァアアアア……お、お墓の前で泣いちゃダメ……ココ、アタクシのお墓じゃないカラ……サヨナラ!!」


 よくわからないことを呟きながら、ゴールデン・リッチが崩壊してゆく。落ちてくるのは、その体の元になった財宝だ。

 やがて、金貨の最後の一枚が床に落ちると、ダンジョンを支配していた魔物は、完全に消滅した。

 もう何も気配がなくなってから、太悟はコロナスパルトイの上顎を開いて顔を露出させ、ふうと息を吐いた。


「最初から最後まで、うるさい奴だったなあ……」


「太悟くん!」


 ファルケが駆け寄ってくる。ゴールデン・リッチが死んだことで、足を覆っていた金も消えたようだ。


「ファルケ、足大丈夫? 変な感じとかしない?」


 念のために太悟が聞けば、少女は足をぶらぶらと振って無事を証明した。

 特に後遺症は無いようだった。


「すっかり元通り。これで、ここはもう終わり?」


「うん、ボス倒したからね。転送で帰れるよ……でもちょっと片付けてからにしようか……」


「あー……そだね」


 引っぺがした石畳は元の場所に嵌め込めたが、穴だらけになった戦士像などはどうしようもなく、とりあえず並べ直しておいた。雑かも知れないが、占拠していた魔物を倒したということで、古代の王には納得してもらおう。


「うー、お宝の山置いて帰るなんてもったいないなぁ……ね、一個だけ持ってちゃダメ?」


 帰る段になっても、ファルケは財宝に未練があるようで、指を咥えて見つめている。


「やめときなって。祟られたら大変だよ」


 そう苦笑してから、太悟はふと思った。

 この異世界に来てからも、幽霊の類は目撃していない。怨霊などを模した魔物がいるくらいだ。

 死んだ者の魂は、どこへ行くのだろう。そもそも、魂が実在するのかさえもわからないのだが………


 そんなことを考えながら、太悟はマジックタブレットの転送機能を起動させた。



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やっぱり敵が喋ると一気にギャグテイストが強くなる 例えて敵幹部でも強敵でも会話させない方が良いかも、どれだけ真面目な作品だろうと 「戦闘中に会話なんてギャグ」と今時の読者は感じてしまう 海の魔物の幹…
[一言] 最期の文言あの名曲やんw
[一言] 更新お疲れ様でした。 ゴールデン・リッチ まさにゴールデン www
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