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勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
比翼連理

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つらら城の花嫁 10

 疑問の解消を図るため、太悟はまず、プリスタに声をかけた。


「プリスタ、ちょっと良いか」


「どうしたの、太悟?」


 振り向いたプリスタには、明らかな戦いの痕跡が見られる。攻撃に使った翼はやや荒れているし、雪を撥ねた服はところどころ濡れていた。

 それが既に答えのようなものだったが、念のため、太悟は質問することにした。


「プリスタは、あいつらから攻撃された?」


 質問の意味がわからなかったらしく、プリスタがきょとんとする。太悟も、一時間前に同じことを聞かれたらそうなるだろう。

 人間を見つけ次第殺そうとしない魔物など、骨付き肉を前にそっぽ向く野犬よりもあり得ない。


「ええと、そうね。攻撃されたけれど……どうかしたの?」


 プリスタの返答に、太悟はむうと唸った。

 少なくとも、この地の魔物が女性には攻撃しない騎士道精神溢れる紳士であるという可能性は消えた。もちろん、そんなものはティッシュよりも薄い可能性だったが。

 あの如何にも武人肌なカピターンでさえ、首を撥ねる相手の老若男女は気にしなかったはずだ。知性や理性の有無は、慈悲に何一つ関与はしないのだ。


「あいつら、ファルケに手を出そうとしなかったんだよ。反撃すらしなかった」


 まだ胸元に張り付いているファルケが、怯えた顔でこくこくと頷く。

 無理もない。太悟とて、攻撃してこないとはいえ魔物たちにああも囲まれたら嫌になるだろう。


「普通に襲われるより怖かった……」


「それは……おかしいわね、たしかに。私が知る限り、そんな選別をするような魔物は今までいなかったわ。あとファルケはそこ代わって」


 訝しむプリスタに、太悟は頷いた。

 ファルケが傷つけられなかったことは喜ぶべきだが、その理由を知らない限りは不安が募る。故に、太悟は周辺を警戒するダンの向こう、壁に刺さったウォーピックを回収しているスルロフに目を向けた。何かを知っているとしたら、彼しかいない。


「スルロフさん」


 太悟の声かけに、スルロフが振り向く。戦いの名残か、その横顔が刻む表情は息を呑むほどに険しい。

 どこか、傷ついた獣を想起させた。


「……ああ、と。すまない。奴とはそれなりに因縁があってね! どうしたんだい?」


 取り繕うかのようににこりと笑うスルロフを見て、太悟は「仮面を被り直したな」と思った。

 酒浸りで陽気な人物という顔は、そういう一面があるというより、意識してそう振舞おうとしているようだった。実際には、酔ってさえいないのかもしれない。

 とはいえ、そうと指摘したところで何になるというのか。気になるにしろ、優先順位は低い。


「ここの魔物たちの行動について、聞きたいことがあるんですけど」


 主に、ファルケが連中の標的から外されたことについて。

 そう告げると、スルロフが凍り付く。ほんの一瞬、笑顔のまま。

 なるほど、雪国の人間にはふさわしい反応の仕方だ。それよりも明確な答えが欲しかったから、太悟は急かすことにした。


「何か心当たりが?」


 おお、とスルロフが曖昧に口をもごつかせる。


「あるにはある、が。少し、長い話になるかな。街の被害を確認しなければならないし、今この場では……」


 襲撃が終わった後も、やることはいくらでもある。瓦礫に埋もれている要救助者を探し、遺体を運び、怯える生存者に対処するのも、勇士の仕事の内である。

 そして、太悟にとっては酷く気の滅入る仕事だ。冷たくなった誰かを抱え上げるのも、背負った誰かの体から温かさが失われてゆくのも、何度経験しようが決して慣れることはない感覚だった。


 しかし同時に、優先して行わなければならない仕事でもある。太悟は少しく反省した。

 特に、この街はスルロフにとって地元なのだ。市民の中には友人や親類がいるはずで、その安否は当然気がかりだろう。

 魔物の件については一刻も早く解消したいところだが、そのためにスルロフを拘束するべきではない。


「わかりました。もちろん、僕らも手伝います」


 太悟の言葉に、スルロフが頷く。それから、思い出したかのようにあっと声を上げた。


「救助が終わったら……俺もちょっと考えをまとめたい。君たちは、温泉に浸かって少し休むといい」

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