表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者代理なんだけどもう仲間なんていらない  作者: ジガー
比翼連理

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/119

つらら城の花嫁 2

 転送が終わって、狩谷太悟はゆっくりと目を開けた。

 白銀の光が、視界を焼く。息を吸えば、肺の奥まで凍てつくかのようだ。

 何度か瞬きをすると、ようやく目が慣れてくる。


 イクサ帝国辺境の街・ブランマスを、太悟は小高い丘の上から見下ろした。

 勾配の急な屋根を持つ、二階建ての家屋が規則正しく並んでいる。

 それらが、元々何色なのかがわからない程に雪を纏い、滑らかな純白に染められていた。

 ここが、今回の任務の舞台だ。


(綺麗な街だな)


 いつか、テレビで観た外国の雪国がこんな感じだったかもしれない。当時は、体感することになるとは思ってもいなかったが。

 吐き出す息は、低い気温を示して白い。いつものインナーの上に防寒ジャケットを着てはいるが、冷気が骨に染みるかのようだった。


「わーっ! 本物の雪だーっ!」


 一方。《精霊射手》ファルケ・オクルスは、寒さそっちのけではしゃぎ回っていた。

 足元の雪をざっぱざっぱと引っ掻き回したり、丘を駆け降りて厚く積まれた雪に向かってダイブ。


「あはは! 冷たーい!!」


「君、そんな雪好きだったの」


 相棒の後を追う太悟。

 白い大地に大の字を刻み、立ち上がったファルケは雪まみれでも満面の笑み。


「だって、あたしの村ってあったかい地方にあったから、雪なんて降らなかったし!」


「そうなんだ……よかったね堪能できて」


「うん!」


 屈託の無いファルケの笑顔に、太悟が癒されていた、その時。


「おお~い」


 野太い声に振り返れば、大柄な影がずしずしと迫ってくる。

 すわ、冬眠できなかったヒグマかグリズリーかと身構えたが、よく見るとそれは全身鎧を纏った騎士であり、そして知っている人間だった。


「太悟~! 俺だ~! 久しぶりだな~!!」


 《太陽騎士》ダンは、逃げようと背を向けた太悟の腰を掴み、ぐわと持ち上げた。


「わはは、少し重くなったな! 嬉しいぞ!」


「いちいち持ち上げるなってば! てか何でいるの!?」


「それはたぶん、貴方たちと同じ理由だと思うわ、太悟」


 空中でジタバタする太悟の問いに答えたのは、ダンの後ろからひょっこり顔を出したプリスタだった。いつもの軽装姿と違い、ポンチョのような物を羽織っている。


「ダンさん、プリスタさん、こんにちは」


「こんにちは、ファルケ。……ちゃんと太悟を助けてる?」


「が、がんばってます!」


 宙吊りの太悟の下で、挨拶をかわすファルケとプリスタ。異様な光景であった。


「僕らと同じ―――ってことは」


「そう、あれだ」


 ダンの手によって、太悟は体ごと、『それ』の方を向いた。

 ブランマスを飛び越え、林を通り過ぎて、その先。

 中心に巨大な氷柱を据え、その周囲にさらに小中の氷柱を飾ったような造形の城が、丘の上に鎮座していた。

 空を覆う雪雲の、僅かな隙間から降る陽光を帯びて妖しく輝くそれは、魔物によって築かれたものだ。


 つらら城。

 現地の住民は、恐れとともにそう呼んでいるという。


 その出現以来、地域の魔物が活性化し、勇士にも多くの犠牲者が出ていた。

 今回太悟が、そしてダンたちが引き受けたのは、つらら城の攻略だった。


「またお前たちと共に戦えるとは、喜ばしい限りだ! やってやろうぞ!」


「おー。……でもその前に降ろして。胴伸びちゃう」


 そして、四人はブランマスの中に入った。街に常駐している勇士と合流するためだ。

 通常、世界の守護者たる勇士の来訪を、住民は諸手を上げて喜ぶ。魔物が猛威を振るっている土地なら尚更だ。

 だが。


「……太悟くん」


「うん……」


 ファルケの不安げな声に、太悟は周囲に視線を送りながら応じた。

 白化粧をした美しい街の中は、とても静かだった。

 といって、無人なのではない。大人も子供も老人も、他の街と同じくらいいる。

 ただ、その話し声は、積もった雪に吸収されてしまうほどに、ひそひそと小さなものなのだ。


 そして、小声で談笑しているというわけでもない。

 向けられる視線に暖かな色は無く、目が合えば顔を背けられ、酷ければ足早に立ち去って行く。閉じられた集落のよそ者に対する反応にしても、これほどではないだろう。


「いやね……私たち、何か変なことしてるのかしら」


「プリスタが翼で僕を包んでるの以外で?」


 ダンの次は、プリスタが奇行に走っていた。背中にぴったりとくっついた彼女が、その青い翼で太悟を包み込んでいる。

 暖かいことは暖かいが、この状態で街の中に入るのはかなり恥ずかしかった。ファルケの視線も穏やかではなかったし。

 一方、当のプリスタは当たり前のように平然としていた。


「太悟は前衛なんだから、体を冷やしたらいけないわ」


「俺も前衛だぞ!」


「ダンは暑苦しいからちょっと冷えてるくらいがちょうど良いのよ」


「そうだな! わはは!」


 そうこうしている内に、一行は目的の場所にたどり着いた。

 広い通りの突き当たりにある、大きな建物。二階建てなのは他と同じだが、横に三件分ほど長い。

 玄関も広く、扉は両開き。傍に看板があり、どうやらかつて宿屋を営んでいたらしい。

 ここに、この街に常駐している勇士がいるという。


「ごめんくださーい」


 代表して、太悟が扉を叩く。

 程なく、足音が近づいてくる。


「やあ、いらっしゃい! こんなクソ寒いとこまでよく来たね!」


 扉の向こうから出てきたのは、白髪の青年だった。

 灰色のファーコートを纏うその体は、ダンにも負けない背丈と厚みがある。


「ええと、貴方が」


「そう、勇士の《氷砕き》スルロフさ。よろしく!」


 馬鹿に陽気な声を張り上げて、スルロフが笑う。

 グローブをはめた手が太悟の腕を掴み、ぶんぶんと振り回される。

 街の住人とは様子が正反対だが、それよりも気になるところがあった。


「……飲んどるのか?」


 兜の下で、ダンが顔をしかめるのがわかった。

 赤ら顔に、吐息に混じるアルコールの匂い。スルロフは、真っ昼間からかなりの量の酒を飲んでいるようだった。

 太悟としては、そういう勇士たちをよく知っているので慣れているが、勤務態度として誉められたものでないのはたしかだ。


「いやあ、飲まないといろいろ凍えてしまってね」


 スルロフが目を細める。

 そのアイスブルーの瞳に込められた感情を、太悟には推し量ることができなかった。


「ああ、こんなとこで立ち話をしていたら風邪をひいてしまう! みんな、中に入ってくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 敵との戦闘シーン [気になる点] 光一の謎や、所属支部の腐敗がいつまで経っても同じまま 物語として引っ張りすぎている [一言] マリカ達に対してヘイトは溜まりまくっているけど、それはそうい…
[良い点] どんどんいろんな人と一緒に活躍してる姿がみれるのはいいですね。 [一言] 更新お疲れ様です!
[一言] 更新ありがとうございます! あれ?なんか違和感が…と思ったら大吾くん、改め太悟くんになったんですね。読み方は変わらずダイゴ? 引き続き応援しております!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ