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捨て悪役令嬢は怪物にお伽噺を語る  作者: 秋澤 えで
本編

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14/51

14冊目 罪を犯した者達

ラクスボルン王国。数百年以上王家ラクスボルン家が王政を執っている国家である。国土は決して大きくはないが、人口との釣り合いは取れており、また自然が豊かであることから農業や林業が盛ん。木材を使った家具や小物などの技術が発展しており、他国からの需要も大きい。鉱山などの資源はほとんどないに等しいが他国との交易で賄えている。平平凡凡な国と言って良い。

ダーゲンヘルム王国。数百年以上王家ダーゲンヘルムが王政がとっている国家である。国土は大きく、森、海、山で囲まれており自然の要塞と化しているため都市は国土内部で発達している。国交は行われておらず鎖国のような形を取っているが、実際は厳しい規制などは行っておらず、旅人や旅の商人などは頻繁に訪れる。なお、上記のことは他国にほとんど漏れ出でてていない。

両国ともに国軍を保有している。


片や小国、片や隠された大国。

争うことになれば、結果は火を見るより明らかだ。



「なあ、貴様もそう思うだろう?」



顔を青色を通り越して土気色にさせた壮年の男に問うた。ラクスボルンの王たる男は、口を引き結んだまま答えない。

技巧を凝らされた絢爛な謁見の間に、ずらりと膝を突き並べられたラクスボルン王家関係者たちとそれを取り囲むように壁際を占拠するのはダーゲンヘルムの兵士たちだ。ラクスボルンの国軍たる騎士団は全て制圧し終わり、ここに彼らの助けが来ることはないだろう。膝を突く者たちは皆一様にガタガタと震えながら胸の前にバケツを抱えている。鼻につく生臭い匂い。バケツが落とされた首を入れるものだということは、隣で骸となった騎士団の男二人、大臣一人を見れば理解するだろう。私の好きな処刑の仕方だ。落とされた首が己の抱えたバケツの中に落ちると言うのは素晴らしい、美しい。ただ難点と言えば首はバケツの中に落ちるが吹き出した血はバケツの中へすべてはおさまらないし、力を失った首なしの死体が崩れ落ち結局バケツの中身がひっくり返されるところだろう。その点はあまり美しくない。初めて行った時は思ったより汚れてがっかりした覚えがある。

ただまあその凄惨さゆえに、たった三人であっさりと口を割ったのは助かった。


ダーゲンヘルムには関わらない。それが各国の暗黙の了解だった。藪を突いて蛇を出すような真似、本来であればだれもしない。万が一のことがあれば、事は一国に収まらない。それでも、わざわざ眠れる獅子を起こした、そこまでの理由がわからなかった。


なぜ一度殺そうとしたはずのシルフ・ビーベルをリスクを冒してまで再び呼び戻そうとしているのか。

この謁見の間に、かの少女、カンナ・コピエーネが並んでいない、それが一つの理由だ。


震える声で、口々に言った。


「カンナ・コピエーネは悪魔の子だ。」

「すべてはあの女のせい。」

「私たちはあの女に嵌められたのだ。」


ぼそぼそと、しかし怨念を込めたような呪詛の言葉を一通り愉快に聞いたのち首の入ったバケツを一つ蹴り飛ばし黙らせる。



「その女はどこに居る。」

「……地下牢に。」

「レオナルド、行って来い。」

「はっ、」



副官に指示を出せばさっと部屋から去る。そのうちここへ連れてくるだろう。



捕らえ吐かせてみると、ラクスボルンの計画は酷くお粗末なものだった。


シルフが追放されるまでは、彼女の語った通りだった。

しかしヒロインたるカンナ・コピエーネの「幸せ」は長くは続かなかった。


当初カンナは悲劇のヒロインとして支持を得、またその人柄からもただただ同情されていた。そして婚約破棄をした王子ミハイル・ラクスボルンから寵愛を受け次期妃にと推された。しかしながら、身分の低い彼女が妃になるというのはあまりに反感を買う。だがミハイルは決して譲らず、妥協案として王は婚約者としてカンナを認め、王子に王位が継承されるまでに彼女がそれに相応しい品格を、教養を身に着けたならば妃とすることにした。


かくしてカンナに妃としての教育が始まったがそれは難航を極めた。当然だ。本来ならば令嬢が何年も幼いころから学び身に着けることを彼女は期限が見えない中、足早に行わなければならないのだ。それも今までの暮らしの中で身に着けた所作、言動、考え方を上書きするように。彼女は決して頭が悪いわけではなかった。ただ学び始めるのが遅過ぎたというだけで。

それでも早々に引き摺り落とされなかったのは偏にカンナのドラマチックな身の上による、あまたの支持からだった。いつの間にか身分の低い少女が意地悪な人間にも負けずハッピーエンドを迎えるという物語が国内で流行り、またカンナが戯れに話す物語も国民に知れ渡っていた。


国民の支持を受けているカンナ。妃とは言わないが上位の側室に置くのが無難かもしれないと周囲が思い始めたころ、一つの懺悔にも似た手紙が王室に届いたのだ。


それはシルフ・ビーベルが無実であるというものだった。


シルフ・ビーベルは幼いころから王立図書館に通っていた。身分を隠していたがそう隠せてもおらず、ずっと通して同じ偽名を使っていた。暇を見つけては図書館を訪れただ本を読んで過ごしていた。ある時から図書館にいる時間が増えた。それからしばらくして、シルフ・ビーベルがカンナ・コピエーネを階段から突き落としたという事件が起き、彼女は国外へ追放されたがそれは偽りである。彼女はカンナ・コピエーネが突き落とされたとされる時刻、王立図書館に確かにいたのだから。


手紙にはシルフ・ビーベルが図書館にいた証拠、そして図書館でカンナ・コピエーネと度々会っていたことなどが記されていた。確かな物証もないうえ、世論はカンナ・コピエーネについているため、言い出すことができなかった。今更ながら彼女がダーゲンヘルムの怪物に殺されたことに良心が耐え切れず、こうして手紙を書いた、とのことだった。


匿名の垂れ込みであったが内容を見る限り書いたのは王立図書館の職員。すぐに図書館に遣いをやり何者か調べたが誰一人名乗り出ない上に、誰もそのことについて口を割らなかった。もしかしたら職員全員からの手紙かもしれなかった。


もし手紙にあることが事実であれば大問題だ。

たった一人の少女の虚言により、王家に次ぐ力を持つ公爵令嬢を殺してしまったのだから。


国民にそれが知れれば王家の名折れ、国民からの不信感は右肩上がり。黙らせようにも誰が書いたかわからない上に、突然王立図書館の職員が全員消えれば不審に思う者は少なくない。

誰かわからないために処分できない。だがいつその情報をバラされるかわからない。今でこそ世論はカンナに傾いているが、情報に次ぎ証拠が出始まればいよいよ終わりだ。


国は秘密裏に調査を始めた。するとみるみるカンナ・コピエーネの嘘が明らかになった。

階段から落とされたというカンナを診た医者は、階段から落ちたような傷ではなかったと証言し、学園内のいじめに関しても特に物的証拠や客観的事実は出てこなかった。

 その嘘を暴くのは、あまりにも簡単だった。今まで誰一人彼女の嘘に気が付かなかったことが不自然なまでに。


この国の全ては、たった一人の少女、カンナ・コピエーネによって踊らされていたことに気づくのはあまりに遅かった。すでにシルフ・ビーベルを国外追放してから一年以上の時がたっていた。


最早最大の被害者は死に、加害者たるカンナを引きずり下ろし断罪するには遅すぎた。


だが改めて調べているうちに気づいたのだ。

そもそもシルフ・ビーベルは本当に死んでいるのか。


死んでいると判断した要素は得体の知れない、化け物の住んでいると呼ばれる国の側に置いてきたこと、いれていた檻が壊されていたこと、中にいたはずの彼女がいなくなっていたことだ。

しかし客観的に考えれば死んだと考える方が不自然なのだ。そこには一滴の血も残されていなかった。檻は乱雑に壊されていたのに、だ。

立ち返れば「ダーゲンヘルムの怪物」に食べられた、という決めつけも妙なものだ。そんなものはお伽噺だろうに。ただ単に危険な可能性のある鎖国国家ダーゲンヘルムに近づかないようにするための警告にも似た寓話だと言うのに、なぜかそれにより「シルフ・ビーベルはダーゲンヘルムの怪物に殺された」という前提が出来上がってしまったのだ。


考えればわかる。森に捨てたシルフ・ビーベルはダーゲンヘルムの人間に連れていかれたと。

怪我をさせぬよう気遣ったように、血も髪も残されていないことから連れて行かれ殺されたのではなく連れて行かれ保護されたのではないだろうか。


シルフ・ビーベルは今も生きている可能性が高いのではないだろうか、と。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 階段から突き落とされて死ぬような目にあった次の日には無傷で断罪しに来てる時点で気付こうよ…って思った初見さん(´・ω・`)
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