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うっかり悪役令嬢を落としてしまいました  作者: 九重七六八
第4章 蜘蛛狩り事件 編
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うっかり、黒幕の存在を推理してしまった

「さすがエリカ、腕はなまっていないようだ」


 事件を解決し、屋敷に戻ったセオドアは、役割を終えたエリカヴィータをそう誉めた。ライフル銃とはいえ、有効射程距離は100m程度の性能。塔から会場までの距離はそれよりも長い。そこからテロリスト2名を射殺する腕は、さすがにセイレーンの魔女と呼ばれる腕前であった。


「テディ様に仕込まれましたので」


 エリカヴィータはそう言って、メイド服のスカートを両手でつまみ、軽く頭を下げた。任務を完璧にこなしたものの、エリカヴィータには引っかかることがあった。それはセオドアも同じである。


「一体、奴らは何をしたかったのだ?」


 捕らえられたオズワルドとその部下たちは、今頃、王国の警備隊のよる取り調べを受けている。厳しい拷問も行われるから、知っていることは吐くだろう。セオドアが接して得た感触からすれば、オズワルドには拷問を耐えるほどの精神力はない。 

 戦闘訓練は多少受けていたようだが、一流のテロリストは呼べないお粗末さ。

 地方の金持ちの家や貴族の家を襲い、残虐なことをしてきた犯罪集団ではあるが、素人臭さは抜け切れていない。そんな彼らが、今回の企みを成功させ、学生たちを人質にして大金をせしめたとしても、都から逃げ切れるわけがない。

 そんなリスクを冒さなくても、警備の緩い地方都市で犯罪を繰り返していた方が、安全に稼げたはずである。


「何か別の目的があったとしか考えられないな」

「私もそう思います。奴らは囮だったのではないでしょうか?」

「囮ね……そうだな」


 セオドアは最初からその線を疑っていた。エリカヴィータに意見されて、その思いは確証に変わった。

 ボニファティウス王立大学で人質立てこもり事件を起こす。都の警備隊は全力で事に当たるであろう。そうなると警備が弱くなる。その隙に何か事を起こすのならば、成功する確率が上がるだろう。


「狙いはよいが、ごろつきどもを集めて戦闘訓練を行い、いくつか実戦を積ませるとなると相当な投資をしているはず。それに見合うことを行うとなると……」

「王国内の反国王派の貴族か、現在戦争中の外国のしわざでしょうね」

「隣国、ロイッシュと仮定すると、いろいろと候補が上がる」


 セオドアは思考を巡らせる。現在、エルトラン王国は大陸のフランドルと戦争をしている。戦争はエルトランの勝利で終わりそうで間もなく講和条約が締結される。エリカヴィータが軍を辞めてセオドアの屋敷でメイドができるのであるから、戦争は終結していると言っていい。となるとフランドルが黒幕という線はない。

 次に反国王派は有力貴族を中心に、秘密の団体を結成しているといわれるが、クローディアの実家であるバーデン公爵家の力でこれも弱体化の一途をたどっている。とてもこのような事件を引き起こす資金力はない。

 そう考えた時におのずと隣国ロイッシュが浮かぶ。ロイッシュとは北部ロイルランドの領地の帰属を巡って争っている最中である。

 軍事力で劣るロイッシュは今のところ、北ロイルランドをエルトラン王国に実効支配を許している。しかし、国民の領土奪還に燃える愛国心は高まっており、なんらかの対抗手段を取らないと暴動が起きかねないところまできている。


「セオドア様、ロイッシュが黒幕となると、第1艦隊がらみではないでしょうか」


 エリカヴィータはそう言った。エルトラン王国第1艦隊は大陸派遣軍と共にあったが、今回の休戦で本国に帰航していた。エリカヴィータ自身もこの第1艦隊の船に乗って帰国していた。


「第1艦隊はロイッシュを威圧するために戻ってきたという噂があるからな。ありえない話ではない。だが、警備隊の手薄なことを利用して第1艦隊に何かできるかというとそれは無理だ」


 第1艦隊は王国の主力艦隊。警備隊とは関係なく、その防備は完璧である。軍艦に対する破壊工作などしようと思っても近づくことさえできないだろう。


「ならばセオドア様。答えは1つです」

「そうだな」


 セオドアはエリカヴィータにある貴族の屋敷に行き、その動向を探るように命令した。


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