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うっかり悪役令嬢を落としてしまいました  作者: 九重七六八
第3章 キャビネット編
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うっかり、投資先を教えてしまった

 副会長に就任してクローディアが取りかかったのは、貧しい学生の待遇改善をするための資金集めである。特に優秀だが貧しい学生への奨学金の拡充である。これは貴族も平民も関係なく、支給するという新しいものであった。

 資金調達に関してクローディアは才能があった。まずは貴族のサロンで広く寄付を募ったのだ。これは上流社会に人脈のあるクローディアだからこそできたこと。上流貴族の夫人や令嬢たちから、要らない調度品や宝石、服などを寄付してもらったのだ。

 それを中流貴族やお金持ちの商人が集まるサロンで販売した。1,2回しか使用されていない極上品が割安で買えるということで、飛ぶように売れた。

 クローディアがしたたかだったのは、この中級サロンで彼女らのもっているものを下取りしたこと。それをさらに市中の小金持ちに売るというシステムを作ったこと。

 クローディア自身が販売に関わるのは、身分的に問題があったのでセオドアのアイデアで団体を作った。ボニファティウス学生支援基金組合と名付けられたその組織は、事務長に信頼できる大学OBを配置し、そこで働くのはボニファティウス王立大学の学生にアルバイトをしてもらうことで回した。

 組合は組織を運営する資金を稼ぐとともに、プールした基金を無返還の奨学金に充てることにした。

 

 順調にスタートした学生支援基金であったが、クローディアは報告書をめくり何事か考えている。


「クロア様、何か?」


 クローディアに命ぜられて書類に目を通していたセオドアは、そう聞いてみた。セオドアと同じくハンス、アラン、ボリスの3人も同じ作業をやらされている。


「今は順調だ。だが、いつまでも上流貴族のご婦人方の善意に頼るわけにはいかない」

「そうですね。これは商売ではないですからね。買取りをして転売する商売も考えられますが、それも景気に左右されます。今、集めた資金ではよくて5年というところでしょうね。支援学生が増えればそれより早く資金はショートするでしょう」


 セオドアはそう予想した。今は豊富にある資金であるが、奨学金貸与で毎月、資金は流出しており、収入よりも支出が上回っている。


「テディ、何だか余裕だな。お前には何か策があるとみたが……」


 相変わらずクローディアは鋭い。セオドアはここまで面倒なことに巻き込まれてしまっている。妹の社交界デビューの後ろ盾になってもらう約束で手を貸したが、これ以上、厄介事はごめんであると思っている。

 だから、この基金の先行きに対して懸念は最初からあったが、あえて口にしなかったが、クローディアに問われるとごまかすことはできない。


「方法は1つあります。しかし、それはリスクでもあります」

「お金を増やすのに楽な方法などない」


 大貴族の令嬢の言葉ではない。お姫様なら、(お金は必要な時に必要なだけ、湧いて出るものですわ……)などと言うのが普通だ。


(さすが王立大学で経済学を学んでいるだけのことはある)


 大学で学ばなくても、平民や中流階級の貴族では身に染みてお金については学ぶ機会があるのであるが、この王国でも有数の大貴族令嬢は自ら体験して学ぶことを良しとしていた。


(だからほっとけないのだが……)


 セオドアのこういう気持ちがクローディア地獄という厄介事から逃れられないのであるが、喜々としてクローディアに命ぜられるままに働いているハンスたちとは思いが違う。


「クロア様、この基金、事業の継続性を考えると投資をしたらどうでしょうか?」

「うむ。OBからの志だけに頼るわけにはいかぬからな。それで……何に投資すればよいと考えている?」

「配当を奨学金に与えるのですから、低リスクローリターンであるべきです。俺が候補として挙げるのはこの5つです」


 セオドアは投資先の概要を書きつけた紙をクローディアに渡した。王国政府の国債、大手商会や職人ギルドの株など年利3~5%程度の配当がある投資先である。


「なるほど……。この5つなら投資先としてはよいな」

「投資にはリスクが付きまといます。ローリスクでも長期に渡って、安定的に運用ができれば、長期的に支援に充てられます」

「よし、ボリス。お前にこの仕事を任せる」


 クロアはいつも下僕同然に付き従っている3人の中でボリスにこの仕事を任せた。セオドアは、クローディアは人を見る目があると感心した。

 ハンス、アラン、ボリスの3人は、実力でこのボニファティウス王立大学に入学した下級貴族の青年である。ハンスは人事の管理に才能が有り、アランは探索や警備が得意。そしてボリスは経済学、特に金融に明るい。

 ボリスは、奨学金の基金を手堅く運用するのに適した人材だろう。そしてボリスはクローディアの期待に応える。セオドアは推奨した安全な投資先を軸に、積極的な運用をして年利7%の利益を継続的に叩き出すことになる。

 後にボニファティウス王立大学奨学基金は独立し、このボリスが理事長をすることになるのだが、今は学生たちが始めた小さな組織が産声を上げたところだ。

 こうしてクローディアの副会長としての活躍が始めるのだが、その成果に比して彼女の評判はよろしくなかった。それは学内にクローディアの悪い噂を流す勢力があったからだ。


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