3. 人物紹介(アイゼンバッハ視点)
◇◇アイゼンバッハ視点◇◇
煌羽の教室を見渡す。
これから三年間、俺が指導することになる生徒たちの顔ぶれ。
彼らを卒業まで、幸福な未来まで導いてやることが教師の務めだ。
「まずは煌羽の生徒諸君に、自己紹介をしてもらおう。一人ずつ壇上に立ち、簡単な自己紹介を頼む。最初にアルトンから」
「はい」
生徒が仲を深め合うためにも、自己紹介は欠かせない。
ここは貴族ばかりなので、入学する前から夜会などで顔を合わせている者も多いだろうが……うわべだけの社交では知り得ない情報もある。
俺は生徒の情報を網羅しているが、もしかしたら新たな発見もあるかもしれん。
さて、八名の自己紹介を聞いていこうか。
◇◇◇◇
最初に壇上に立ったのは、銀髪の貴公子。
トレッシャ大公の嫡子、アルトン・イマドコッド。
「顔見知りの者も多いが、アルトン・イマドコッドだ。騎士学校では身分によらず、みな同じ学徒。三年間、長い付き合いになるんだ。気軽に接してほしい」
アルトンはそつのない笑顔を浮かべた。
将来的に国を背負う者として、完璧な教育を施されている。
一見すれば柔和で温厚な貴族に見えるだろう。
だが、彼は心の底に衝動を抱えている。
はたして彼のもつ衝動と偏見を、この騎士学園で払拭することができるのか。
俺の働き次第……かもしれないな。
◇◇◇◇
続いて壇上に立ったのは赤髪の少女。
彼女は碧眼でぐるりと教室を見渡した。
「リア・アリフォメンです! ……って、顔見知りの人ばかりだね。いまさら自己紹介しても仕方ない気がするけど……好きな教科は数学と歴史、苦手な教化は体術かな。気軽に話しかけてね、よろしく!」
アリフォメン侯爵令嬢リア。
朗らかな性格で、誰に対しても親切に接する人格者。
俗に言う秀才だ。
入学前に行った魔力測定や学力検査では二位の成績を叩き出し、他の教師たちも結果に驚いていた。
しかし聡明で努力家なあまり、完璧主義すぎるきらいがある。
定めた目標に対して行き過ぎた過程を踏むことも。
魔術のみならず、精霊術をも使いこなす。
アルトンに次いで学級を牽引していく立場になるだろう。
◇◇◇◇
「……トリスタン・アイニコルグだ。私のことを知らぬ者などいないと思うが。特に自己紹介することもないな。……ああ、そうだ。嵐眼の学級に、私の婚約者がいる。平民だが、会ったときは親切にしてやってほしい。よろしく頼む」
きらめく黄金の髪、宝石のような青い瞳。
並みの令嬢ならば即座に恋に落ちてしまいそうな美丈夫だ。
アイニコルグ辺境伯令息トリスタン。
見目はいいが、性格はあまり褒められたものではない。
これまで付き添ってくれた令嬢との婚約を白紙に戻し、平民と婚約を結んだそうだ。
相手の感情を読むことが苦手らしい。
その平民というのが……中々に問題児で、トリスタン自身も被害を被ることになるかもしれない。
まあ、そこは自業自得というやつだろう。
貴族と平民を峻別する態度を取る、誇り高い貴族だ。
この学園で人格者に成長してくれることを切に願う。
◇◇◇◇
「イシリア・セフィマです。これからともに学び、切磋琢磨していきましょう。遊ぶつもりはありませんので、ご承知おきください。……まあ、多少の社交には付き合いますが」
セフィマ伯爵令嬢イシリア。
儚い雰囲気をもつ、長い白髪の少女。
熱情を秘めた赤い瞳がしっかりと前を見据えている。
リアを抑えて入学前の成績最優秀者に躍り出た天才。
魔力量もずば抜けて多いが……それには彼女の持病が関係している。
イシリアの病気に関しては個人的な問題なので、触れないでおこう。
非常に勤勉かつ生真面目な性格。
他の生徒に勉強を教えるなどして、いい刺激になってくれるだろう。
◇◇◇◇
「あ……」
壇上におずおずと上がって、口を開いたまま静止した少女。
鈍く光る銀髪は毛先が散り散りに乱れている。
目の下のクマもひどい。
ムイネレフ男爵令嬢ロマナ。
人前で話すことが苦手な生徒で……少し口を挟むか。
「ロマナ、大丈夫か?」
「は、はいっ! す、すみません先生! わた、私はロマナ・ムイネレフです! ええと……えっと、自己紹介は特にない、です!」
そう言いきってすぐに自分の席へ戻った。
ロマナは育った環境が環境なので、ああいった性格になるのも仕方ない。
実家の男爵家で虐待されていたそうだ。
色々と事情があり、学園へ入学させることになったのだが……この学園で弱い自分を克服してほしい。
魔力量は非常に多く伸びしろがある。
趣味は天体観測、読書。
大丈夫、この学級の生徒はみな優しい。
安心して過ごすといい。
◇◇◇◇
「サナパガの民代表、ヴァレリアだ。趣味は運動、鍛錬! 好きなものは肉、嫌いなものは陰湿なこと全部だ。なにか困ったことがあれば、あたしを頼れよ!」
もっとも令嬢らしからぬ令嬢。
サナパガ男爵令嬢ヴァレリア。
よく日焼けした健康的な肌、若草色の短めの髪。
良く言えば快活、悪く言えば無神経。
男勝りの女性だが、弱者に対する優しさも併せ持つ。
サナパガの民というのは……少々複雑な経緯をもつ民族だ。
かつて帝国に支配されていたサナパガの民は反乱を起こし、やがて独立して公国側についた。
今やサナパガの民が暮らす領地は男爵領となっている。
どういう事情で騎士学園に来たのかはわからないが、実りある日々を過ごしてほしい。
◇◇◇◇
体格のいい男は、壇上に立つとにっこりと笑った。
短く刈り上げられた茶髪、愛想のよい茶の瞳。
「レオン・アルミルブです! いやぁ、高貴なみなさまと同じ学級で学べるなんて……このレオン、がっぽり幸甚の至りでございます! 雑用でも何でも、しゃきっと俺にお申しつけください! アルミルブ商会が全力でみなさまをお支えいたします!」
レオン・アルミルブ。
国中に根を張る大商会、アルミルブ商会の元締めの嫡子。
身分自体は平民だが、権力は貴族に匹敵する。
たまに独特な擬音を使うが気にしなくていい。
貴族を恐れながらも利用しようとする、商魂たくましい男だ。
利益を優先して動くが、いざとなれば仲間のために利益すらも投げ捨てる。
彼は信じていいと、そう本能が告げている。
◇◇◇◇
「レグウィフ・エラードです。えっと……き、貴族様の前に立つのは緊張しますね。精一杯がんばるので、よろしくお願いします!」
深い海を想起させる青の髪と瞳。
少し戸惑ったように自己紹介する少年、レグウィフ・エラード。
平民だ。
レオンも実質的に貴族のようなものだと考えると、この学級で唯一の平民と言える。
領主が賊に襲われているところを助け、謝礼としてウラクスに入学させてもらったらしい。
しかし……ここは貴族の社交場。
レグウィフに対する風当たりはこの上なく強いものになる。
貴族たちの悪意、差別に彼は耐えられるだろうか。
いや……愚問か。
彼は誰よりも強靭な精神と、執念とも言うべき向上心を兼ね備える。
貴族の悪意ごときに手折られる者ではない。
◇◇◇◇
……これで全員の自己紹介が終わったか。
俺は再び壇上に立ち、一人ひとりの目を見る。
ここにいる誰もが国の宝、多くの民の運命を左右する重鎮となるだろう。
ウラクス騎士学園を出るということは、そういうことだ。
「これから国を支える柱となる自覚を持ち、邁進していけ……とは言わない。今はただ同じ学級の仲間を知り、そして手を取り合うことを覚えてほしい。俺がお前たちを卒業まで導こう」
そうだ、俺が導かなくては。
決して『犯人』の悪意に未来を歪められないように。




