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18. 金稼ぎ(レオン視点)

◇◇レオン視点◇◇



商人の耳はデカい。

そりゃもう、公国中の情報を網羅している。

何かが起こった際には迅速に情報を仕入れ、商機へと飛びつかなければならないのだ。


アルミルブ商会の後継ぎとして。

国中の交易網と関わりを持つ俺は、親父にみっちりと鍛えられた。

一日に飛ばす伝書鳩の数は数知れず。


今日も今日とて、俺の頭にふぁらんと鳩の羽が舞った。


「ふむ……ふむふむふむ」


伝書の内容はこうだ。

ウラクス騎士学園の生徒の部屋に、不審者が忍び込んだ。

そして忍び込まれた部屋の主は――レグウィフ・エラード。


いま俺の隣にどっしりと構えている輩ではないか!?


「おい、レグウィフ!」


「ん!? 急に大声出してどうしたの、レオン?」


「お前の部屋にぬるりと盗人が入ったらしいぞ」


「え……? 僕の部屋に? 何かの間違いじゃ……」


目を丸くするレグウィフ。

俺もにわかには信じがたい。

平民の部屋に盗人とは……まるまる意味がわからん!

早急に学園に戻って確認する必要があるな。


俺たちはアリフォメン侯爵領に来ていた。

騎士団の奉仕活動の一環で、賊の掃討に当たっていたのだ。

すでに目的は達成しているため帰っても問題ないだろう。


「盗まれた物は特にないらしいが」


「うーん……ますます意味がわからないな。あ、寝台の下にある物は盗まれてないかな?」


「寝台のブツ……ぬっ!? レグウィフ、お前……まあ年頃だもんな。しっぽり隠したいことの一つや二つ、あるよな」


「うん。アレだけは他の人に見せられないから、盗まれてないといいなぁ。……彼女の仕業だろうか」


なるほど……レグウィフは意外と好色漢か?

それならば売りつけたい商品がいくつかあるな。

付き合ってから半年、やはり人の底というものは中々見えてこないものだな……!


「急ぎ確認したい。俺は学園に戻ることにするが、レグウィフはどうする?」


「僕も戻るよ。本音を言えばアルバン子爵に会ってネシウス伯爵家の対処を相談したかったけど、僕のせいで学園を騒がせてるなら申し訳ないし」


不審者騒動か……商機だな。

防犯の道具を売りつけよう。

仕込み杖に南京錠、閃光弾に警笛……まずは騙されやすそうなロマナ嬢に売りつけるか。


ネトバス皇子の暗殺未遂のときは入学したばかりで、俺も商機を逃してしまった。

今回は逃さんぞ。


 ***


学園に帰還。

ウラクスは本当に金の成る木だ。

そこかしこに大金を貯め込んだ貴族の子息が歩いている。


俺は一旦レグウィフと別れ、さっそく事業に取りかかった。

独自の交易路で仕入れた商品を揃える。

帰り際、売れそうな商品をいくつか持ってきた。


さて……金づるを探しに行くぞ!



「あ、え……!? 絶対的に安心安全、部屋が聖域のごとく堅牢な場所になる道具!?」


「そうです! ロマナ嬢、貴女は美しい令嬢ですからね……不審者が部屋に入ってくる可能性は否めません。そこで、この南京錠! これがあればバチッと安全! どんな不審者も部屋には通さない!」


とにかく押す。推す。

ロマナ嬢は弱気ながらも、変なところで自己肯定感が高く、それでいて他者には卑屈。

こういう相手にはとにかく力押しして売りつけろ。


「で、でもでも……レグウィフさんの部屋に入った盗人は、鍵を開けて侵入したそうですよ? 南京錠くらい簡単に開けられるのでは?」


「そこはご安心を! この南京錠、実は魔法による防護も施されているのです! 鍵を開けてやったぞ……と思ったら、べっこり二重の妨害!」


「へええぇ……なんかすごそう。あ、あ、買っちゃおうかな? アルトン閣下が私を講義に連れていこうとしたときも、この鍵をかければ防げますかね?」


「あ、あぁ……たぶん大丈夫です!」


「よし、買いです」


契約成立。

およそ平民の給料一か月ぶんをせしめた。

相変わらず貴族相手の商売はボロいもんだな。


 ***


売って売って売って。

防犯道具を売りさばく。

不審者だの暗殺者だのでみんな敏感になっているのだろう。

想定よりもがっつり儲かってしまった。


俺は人気のない旧校舎で、今日の売上を計算していた。


「くくく……やったぜ。金貨が四十枚以上……でも親父に半分以上納めないといけないんだよなぁ……」


虚偽の会計をしようものなら即座にバレる。

どういう目を持っているのか、親父は俺がちょろまかそうとしてもすぐに見抜くのだ。

さすがはアルミルブ商会の元締めといったところか。


「……やっと見つけたぞ。貴様がアルミルブ商会の商人か」


「ぬ、何奴!?」


咄嗟に剣を構える。

まさか大量の金貨を狙った輩か……!?


ぬるりと柱の陰から現れた男。

茶髪で陰気な雰囲気。

頬には十字の切り傷が入っている。


リアス帝国第一皇子、ネトバス・ハール・ロクフォス。

……ほ、本物だよな?


「ネトバス殿下っ!? こ、これは失礼いたしました!」


「よい。まったく、こんな人気のない場所に忍び込んでおるとは……追跡の魔法まで使う羽目になったぞ」


側近を一人も侍らせず、隣国の皇子が何をしているのか。

俺に用があるらしいが……?


「申し遅れました、俺はレオン・アルミルブと申します。アルミルブ商会の次期当主です」


何はともあれ、リアス帝国にも交易路を作る好機だ。

ここでネトバス殿下と関係を作っておこう。

いやはや、さすがに皇族を前にすると体が芯から震えてしまうな……。


「レオン・アルミルブ。貴様は『防犯の道具』と称し、様々な物を生徒に売りつけているらしいな?」


「は、はい! ネトバス殿下もご入り用でしょうか!?」


「……貴様が想定している防犯の対象は、どういうものだ?」


難しい質問だな。

だが、殿下の問いには真摯に答えねば。

俺は珍しく真剣な表情を作り、手元の金貨袋を手放した。


「ぬるっと部屋に入り込んでくる不審者、あるいはバリっと窓を破ってくる暗殺者、などでしょうか……いずれもウラクスで起きた事件を想定して防犯道具を売っています」


「くくっ……入学早々、我の部屋にも刺客が入り込んだ。もっとも皇子の命が狙われることなど、さして珍しくもないが」


「では……暗殺を防げる道具をお求めでしょうか?」


「いや、違う。すでに我の部屋は暗殺者が入り込めないように施した。帝国の威信をかけ、我が命を落とさぬようにな」


なるほど……それはそれで技術が気になるな。

アルミルブ商会でも取り扱えない、高度な防犯技術だろうか?

悔しいが帝国の技術力は公国よりも高いんだ。


「レオン・アルミルブ」


「あの、殿下。いちいち苗字までお呼びにならなくても」


「レオン・アルミルブ。貴様は魔道具などに精通しているか?」


「あ、無視ですか。魔道具は一応取り扱っておりますよ。商会の本部から取り寄せる必要がありますが……」


魔術だの魔法だのには詳しくない。

商材として取り扱うために、講義で熱心に聞いてはいるが……俺は武術の方が好きだ。

さて、殿下はなぜ魔道具をご所望なのか?

言葉の裏を読んで考えないと。


殿下は頭をトントンと叩く。

人差し指で茶髪の側頭部を数回。


「……おまえの頭はからっぽ? と仰せですか?」


「たわけ。初対面の相手を愚弄するわけがなかろう。……貴様、意識改編を防ぐ類の魔道具は持っていないか?」


「意識改編……ぬーん、あまり魔術には詳しくないのですが。洗脳みたいなものですか?」


「然り。あらぬところから魔力が飛来し、人の意識を書き換える術だ」


つまり、ネトバス殿下は洗脳されようとしている……?

いや、まさかね。

そんなことしたら不敬にも程がある。

魔力から逆探知されて犯人が特定されれば、死刑では済まない。

一族郎党ガリッと焼き討ちである。


「精神汚染を防ぐ魔道具……まあ、探せばありそうですが。帝国の魔道具は公国よりも精度が高いでしょう。帝国の商人からお買い求めになった方がよろしいのでは?」


「それでは駄目だ。我が内に潜む毒が、何奴かわからぬ。ゆえに貴様に内密に相談しておるのだ」


「これは秘密の商談……ということですね。がっぽり承知いたしました」


なんだかマズいことになってきたな。

危険性のある問題には関わりたくないんだが。

しかし、ここで誠実に対応すれば皇族とお近づきになれるはず。


「詳細に情報をお聞きしましょう。しばしお待ちを」


俺は懐からとっておきの道具を取り出す。

周囲の盗聴・遠視を防ぐ結界石。

ひとつ金貨五十枚はくだらない代物だが、ここは使いどころだろう。


茶のひとつでも殿下にお出ししたいところだが、あいにくの廃墟。

瓦礫に埋もれた椅子を引っ張り上げて殿下を座らせ、俺は地べたに座り込んだ。


話を促すとネトバス殿下はぽつりぽつりと語りだす。


「この学園に入って以来、妙な感覚を覚えることが多々あった。喩えるならば……弱化の魔術を受けているかのような気持ち悪さよ」


「ああ、わかります。酒を大量に飲んだときに感じる『グラッ』みたいな。嫌ですよねぇ、アレ」


「彼方より伝播する魔力。それが徐々に形を帯びてきた。やがて気づいたのだ、この波は我が精神を蝕んでいるのではないか……とな」


「ははぁ……勘違いってことはないですかね?」


「貴様、不敬であるぞ。実際に魔力計も使って確認したのだ」


殿下が攻撃されていることは確実。

ならば話は簡単では?


「魔力を逆探知して『犯人』を特定するのは……」


「試した。だが探知できぬ。我の意識改編を企てているのは、相当な手練れとみた。公国側の人間か、帝国側の人間か……それすらもわからぬ。側近すら疑っておる始末だ」


「それで俺を信じた理由がわからないんですが」


「金にがめつすぎて、逆に邪心を感じなかった」


「ははあ、さすが殿下! お目が高い!」


なんとも信頼できるお言葉だ。

貴族の罵倒は称賛よりも信用に値する。

長年の経験で培った教訓だ。


「このままでは我が乱心する。そうなれば近隣諸国との戦すら起こってしまいかねん。どうにかして防がなくては……」


「お、俺が双肩に世界平和を担っていると……!?」


「くく……そういうことだ。なるたけ精度の高い魔道具を準備してくれ。アルミルブ商会とやらの威信にかけてな。他言は無用で頼むぞ」


「……べっこり承知しました。商会のすべてを賭して殿下をお救いします」


――誰だ?

ネトバス殿下に悪意を為す不届き者は。

おおかた権力争いに巻き込まれた、どこぞの子息の仕業だろうが……相当に卓越した魔術の腕を持っているのだろうな。


さて、危険性の高い投資だが。

俺なりの最善手を尽くしてみようか。

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