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17. 議論

煌羽(ブリリアント)の学級は険悪な雰囲気に包まれている。

原因は明らかだ。


『私』……リア・アリフォメンが騒動を起こしたゆえに。

しかし騒動の犯人が私だとバレてはいない。

だからこそ険悪になっているのだが。


レグウィフの部屋から盗んだ手紙にはこう書かれていた。

『リアが不審だ。警戒しろ』――と。

仮にレグウィフの文通相手が学級の生徒であるならば、今も私を訝しむ者がいるはずだが……皆目見当もつかない。


文通相手に関して、手紙では一人称が『俺』、三人称が『お前』だった。

その二つの条件を兼ね備えているのは……アルトンとレオンか。

今、レオンはレグウィフと共に出払っている。

教室には残りの六名とアイゼンバッハ先生が揃っていた。

私たちの顔を一人ずつ見渡しながら先生が語る。


「……イシリアが説明してくれたように、昨夜レグウィフの部屋に不審者が現れた。彼女によると犯人は騎士学園の制服を着ていたらしい。イシリア、もう少し詳細に説明を頼めるだろうか」


「承知しました。明け方、わたしが生徒の寮の前を通りかかったときに不審者を発見しました。たまたま鉢合わせた……と言う方が正しいでしょうか。ちょうどレグウィフの部屋の前を通りかかったときに、不審者がレグウィフの部屋から出てきたのです。捕まえようとしましたが、逃げられてしまいました……おそらく女性だったかと思いますが、顔や髪色はよくわかりませんでしたね。ウラクスの制服を着ていました」


イシリアの説明には誤りがある。

私が発見されたのはレグウィフの部屋の中だ。

外に出た際に遭遇したのではない。

それに、彼女がどうやって鍵のかかったレグウィフの部屋に入ってきたのか……そもそも何の用があったのか?


私が頭を悩ませる傍ら、アルトンが問いを投げかける。


「それで……レグウィフの部屋から盗まれた物はあったのか?」


「イシリアから報告を受けた後、俺が軽く調べてみたが……貴重品は盗まれていなかった。内部が荒らされている形跡もなく、何が盗まれているのかわからなかった」


「なるほど。先生、ありがとう。となると……何も盗まれていない可能性もあるな。犯人は貴族の部屋を狙って入ったが、そこが平民のレグウィフの部屋であると知らず……めぼしい物を見つけられなかったんじゃないか?」


アルトンの推理に生徒たちが得心がいったようにうなずく。

私としてはアルトンが述べた結論で収まってほしいところだが……この学級には聡い者が多い。

それゆえ議論が片づくことはなかった。


ロマナが気後れしつつ挙手をする。


「それはおかしい、と思いますぅ……イシリアさんの言い分では、不審者は生徒の制服を着ていたんですよね? そ、それなら入った寮が平民用の寮だと知っているはずでは……?」


「そうか……たしかにロマナの言は一理あるな。すまない、俺が浅慮だった」


「い、いいい、いえ! 閣下のお言葉は山よりも高く海よりも深いので、私の言葉などお気になさらずずずずっ!」


悲鳴と共に鼻水をすすりながらロマナはうつむいた。

喧しいが、道理の通った言葉だ。

次いで口を開いたのはヴァレリア。


「そもそも、生徒が犯人だったとして……あたしたちの学級に犯人はいないだろう? どうせ帝国貴族のいたずらさ。盗人の目的はわからないが、レグウィフが留守で助かったな」


あぁ、ここだ。

ここで私が怪しまれないように口を挟んでおくか。


「でもさ……『目的がわからない』ってことが問題なんじゃない? お金目当てじゃないなら、何が目的でレグウィフの部屋に入ったんだろう? レグウィフが留守なことを知って入ったのか、知らずに暗殺目的とかで入ったのか……」


「む、たしかにリアの言うとおりだな。目的のわからない『犯人』ほど不気味なものはない。愉快犯は凶悪犯よりも厄介だと言うしな」


目的のわからない『犯人』ほど不気味なものはない……か。

ヴァレリアの言葉が私に深々と突き刺さる。

そうか……私もいつしか得体の知れない『犯人』になっていたようだ。

戦へ向かう異端者を追い続けるうち、自分が異端者の候補になるとは笑い種。


「妙だな、イシリア」


そのときトリスタンが異を唱えた。

彼の視線は冷ややかにイシリアに注がれている。


「なんですか?」


「そもそも、なぜ平民用の寮など通ったのだ? 君の寮は貴族用で、平民用の寮の前を通る必要はない。なぜ汚らわしい平民の寮に近づいた?」


「そ、その言い方は差別的が過ぎますね……! トリスタン、あなたはもう少し言葉に柔らかさを持たせて……」


「この場にレグウィフがいれば言い方は変えていたさ。それよりも、論点をずらすな。なぜ平民用の寮に君が近づいたのかを聞いている。明け方に平民用の寮付近で、攻撃用の雷魔術が行使されたことは調査済みだ。アレは君が使ったものだろう?」


意外にもトリスタンは周到に調べ尽くしているらしい。

彼は席から立ち上がり、右手を顎に当てて徘徊し始めた。

探偵ごっこか?


「私の予想はこうだ。レグウィフの部屋に侵入したのは……イシリア、君なのではないかとね」


「な……そ、そんなわけないじゃないですか! 何を言ってるんですか、この色情魔!」


「しきっ……!? 黙れ! わ、私はイシリア……君がレグウィフに懸想していることを知っている! 本当は君が侵入したところを衛兵に発見され、逃げる際に雷魔術を放ったのではないかと思っている。そして正体がバレなかったのを良いことに、他の生徒に罪をなすりつけようとしているのではないか?」


惜しい。

トリスタンの推論は一部合っている。

とりあえずイシリアも部屋へ侵入したことは本当だ。

とはいえ、犯人の私がそれを指摘するわけにもいかない。


「わたしがレグウィフに懸想を……? そ、その前提から間違っています。根拠はあるんですか?」


「私は故あって、茶会用の露台の利用履歴を調べている。その記録によればイシリアが茶会を行った異性はレグウィフだけだ。入学早々に誘っていて、定期的に茶会をしているようだな。それに、君は彼のことをよく見ているではないか」


「は、はぁ……そんな薄い根拠で? というか生徒の茶会事情を把握しているなんて、本当に気持ち悪いです。まだ平民の娘にフラれたことを根に持っているんですね」


「違う、フラれたのではない! 最初から私たちの間に愛はなく、利用されただけだ!」


痴話喧嘩は差し置いて。

イシリアは元来、他人を茶会に誘うような人物ではなかった。

たしかにその一点からレグウィフとの接点は気になるところだ。


前世でレグウィフとイシリアが恋仲になったのは……二年次のことだ。

まだ入学から半年しか経っていない現状、そこまで深い縁があるとは思えない。


言い合いになりそうな二人の間にアルトンが割り込む。


「こほん……二人とも、そこまでにしてくれ。仲間を疑うのはよくない、そうだろう?」


「アルトンの言うとおりだ。お前たちに言いたいことは、より警戒心を高めろということ。いつ不審者が部屋に入り、襲ってきてもおかしくない。学園の方針で警備をさらに強めることになったが、それでもお前たちを守りきれるとは限らない」


アイゼンバッハ先生の言葉に緊張が走る。

私ばかりは警戒する必要はないかもしれないが……いや、警戒すべきだろう。

この学級の中に戦争を望む『犯人』……異端者がいることは間違いないのだから。

今回の騒動に乗じて襲ってくる可能性も否めない。


「俺は生徒のみなを信じている。だから、いがみ合うような真似はやめてくれ」


真正面からぶつけられた先生の想い。

私は思わず茫然自失とした。

普段は寡黙な先生がそこまで正直に思いの丈をぶつけてくるとは。


「さあ、講義にしよう。今日はレグウィフとレオンが欠席だな」


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