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私と魔王  作者: ふるか162号
1章 私と魔王
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1-8


「……?」

「らなさん、どうしましたか?」


 妙な視線を感じて、私は振り返る。

 あの霊園に行ってから、なにかと妙な視線を感じる。もしかして、シェリルさんが言っていた、死霊系の魔物ってやつか? でも、それなら、シェリルさんが気付いていないのが、不思議だ。

 いや、もしかしたら、心配かけないように気づかないふりをしているのかもしれない。一応確認だけとっておくか。


「シェリルさん、何も感じなかった?」

「え? 何もと言うと? えっと……、私には何も感じませんが……」


 シェリルさんは目を閉じ、すぐに開き、首を振る。


「はい……。私も死霊系の魔物の気配を心配はしていたのですが、今は何も感じませんね

 それに、この世界では死界の門の影響は、そこまで大きくないみたいで、死界の門の気配は何度か感じましたが、私の住む世界と違い、この世界には、魂が留まることが珍しくはないみたいですね」

「それって、幽霊とかは普通にいるってこと?」

「はい。特に悪霊化や魔物化するわけではなく、未練があってとどまっていることが多い気がしますね。

 とはいえ、このまま放っておくと、悪霊化はしそうですけどね」

「そうなった場合はどうなるの?」

「もし、何も対処されていないのであれば、この世界にも、死霊系の魔物が溢れかえっていると思います。

 おそらくですが、誰かが退治しているか、死界の門が強制的に引きずり込んでいるのかもしれません」

「引きずり込むって、死界の門は意思でも持っているの?」

「えっ!? あ、そ、そんなわけないじゃないですか!?

 死界の門は、あくまで死界と現世をつなぐものであって、生物ではありませんから……」


 ふむ……。

 生物ではなさそうだけど、意思がないとは言い切れないみたいだね。

 まぁ、私が直接かかわることもないだろうから、深く追求しないでいいだろうね。

 とはいえ、死霊系の魔物じゃない以上、なにかがこっちを観察しているのは確かだろうね。

 この妙な視線を感じるたのは、霊園に行った後からだから、シェリルさんが狙いなんだとは、思う。

 うーん。ここは、()()()()に話を聞いたほうがいいかな?

 私はシェリルさんを家まで送り届け、一人、人気のない路地に向かう。

 相手がシェリルさんを監視しているだけならば、私に対し敵意のこもった視線送ってくる必要はないだろう。その証拠に、今も視線を感じる。

 そういうことね。最初から、私が狙いか……。


 気付かないふりをしてしばらく歩いていると、周りの風景が赤く歪み始める。 


「……赤い……霧?」


 赤い霧なんて自然現象、現実世界では聞いたこともない。漫画やゲームではよく聞くけどね。しかも、この臭い……、血の臭いか?

 そう思って立ち止まってキョロキョロしていると、どこからともかく声がする。


「ふふふ……。この霧が不思議? 

 わかっていると思うけど、この赤い霧は、お前を逃がさないためのものだよ」


 やっぱり、ターゲットは私だったか……。

 しかし、聞いたことのない女の声だ。


「誰だ?」

「ふふふ……。お前のような誘拐犯に名乗る名などないよ」


 赤い霧で視界は悪いけど、声がしたほうを見て見ると、若い女の影が近づいてくる。


「お前がシェリル様を誘拐した奴だな。

 さっきもシェリル様の手を引き、アジトに連れて帰っていたし……

 今日も一日見ていたけど、悪の組織の教育機関に閉じ込めて、洗脳するつもりだな?」


 現れたのは、白いヘアバンドをつけた、赤い髪の毛、赤い目をした、私たちと同じ歳くらいの女だ。

 しかし、想像力が豊かなやつだな……。

 アジトに教育機関、それに洗脳って……。

 ともかく、話を聞かないことには何も進展はしなさそうだね。


「事情も知らないくせに、人を犯罪者呼ばわりするのは、止めてほしいものだね。

 まぁ、いいや。あんた、シェリルさんの関係者?」


 私がそう聞くと、女は激昂する。


「貴様ごときが、シェリル様の名を軽々しく呼ぶな!!」

「そうやって怒るってことは、シェリルさんの関係者で間違いないみたいだね」


 こいつにとって、シェリルさんは次期魔王なわけだし、名前を呼ぶだけでも不敬になるんだろうか?

 いや、でも、こいつもシェリル様って、名前で呼んでるよな……。


「あんたが何者かは知らないけど、話が聞きたい。話はできるかな?」

「誘拐犯と、話すことなどない!!」


 女は、いきなり殴りかかってくる。

 ふむ……。なかなかの速さだね。まぁ、受け止めることも可能だけど。

 私が女の拳をつかむ。拳をつかまれた女は、驚いたみたいだ。


「いきなり攻撃してくるなんてさ……。ちょっと落ち着こうよ。

 もう一度聞くけど、話し合いは可能かな?」

「なっ!? りゅ、龍姫さんから、この世界の人間の力は非力だと聞いていたのに、私のパンチを受け止めるなんて!?」

「いや、だから、人の話を聞け……」


 話を聞かないやつだなー。

 しかし、新たな名前が出てきたな。

 龍姫さん……か。

 こいつが「さん」付けしているということは、上司か何かなんだろうか?

 こいつバカそうだから、もう少し脅せばなにか情報でも吐いてくれるかな?

 私は拳を握る力を徐々に強くする。


「……っ、い……」

「い?」

「痛い痛い痛い痛い!!!」


 女は突然叫びだす。いや、確かに力は込めているけど、握りつぶす勢いじゃない。まだまだ、序の口なんだけどな。


「こ、この馬鹿力、放せ!!」

「放せって言われて、素直に放すバカがいると思う?

 もう一回言うけどさ、とりあえず、話を聞く気にならない?」

「ぐっ……」


 女は涙目で、私の問いに首を縦に振る。

 やっぱり、人に話を強制的に聞こうと思ったら、脅すのが一番だな……。

 私はこぶしを握る力を少し緩めた。しかし、それが間違いだった。

 女は、私の手を振り払い、赤い霧を手のひらから発生させる。


「お、覚えていろ!! 今回は油断しただけだ。絶対にシェリル様は返してもらうぞ!!」

「あ、まて!? そもそも、シェリルさ……。き、消えた……?」


 霧が晴れると、女はすでにいなかった。


「全く、何だったんだ?

 話は聞かないし、いきなり逃げるし……。

 まぁ、あの女のことは、シェリルさんに聞けばいいだろう。

 シェリルさんに敬称をつけていたってことは、シェリルさんの敵ではないだろうし……」


 私は、シェリルさんに話を聞くために、田所の爺さんの家を訪ね、女の特徴を話してみた。


「あぁ、らなさんが話してくれた特徴の人は、アスティさんです。

 アスティ=ルドルフ=シュタイン。

 シンクレアの三大公爵家の一つで、吸血姫なんですよ」

「公爵家ねぇ……」


 貴族の爵位に関しては、ラノベなんかで読んで知っているくらいだけど、吸血姫だったから、あの血の赤い霧を発生させることができたんだろう。

 今回は、アイツがバカだったから、逃げる手段として赤い霧を使ってきたけど、戦闘で使われてたら、かなり戦いにくくなるだろうな。


「ところで、そのアスティってやつは、どうやってこの世界に来たんだろうね。気軽に来れるってわけじゃじゃないんでしょ?

 やっぱり、公爵家だから、別の世界にも気軽に行けるの?」

「いえ、そんなことはありませんよ。

 確かに、次元を超える転移魔法陣は存在しますが、シュタイン家にはないはずです。

 それに単独の転移魔法を使うにしても、アスティさんは、魔法もあまり得意ではありませんし……」


 確かに、頭は悪そうだったな……。

 他に何か……あ!


「シェリルさんは、龍姫って名前の人物は、知ってる?」

「龍姫さんですか? もちろん、知っていますよ。

 私の住む国シンクレアでは、大魔王である、お父様に仕える四天王が存在します。

 その方々をシンクレア四天王と呼ぶのですが、その他に、私個人を慕ってくれる四天王というのが存在していまして、龍姫さんは、その四天王の筆頭をしてくれています。

 あ、龍姫さんが絡んでいるのなら、アスティさんを送り込んできた。とも、言えないことはないですね。

 龍姫さんは、魔法にも長けていますし」


 つまり、その龍姫ってやつが送り込んできた……と?

 ってことは、アイツは捨て駒かなんかなのかな?


「あ、ちなみにアスティさんも、私の四天王ですよ」

「え!? アイツ、めっちゃバカそうだったよ?」


 衝撃の事実だ……。

 あの女、かなりバカそうに見えたんだけど、あんなのが四天王なのか?


「シェリルさんも、何気に苦労してきたんだろうねぇ……」

「え? あ、アスティさんのことですか?

 アスティさん、とてもいい子なんですよ。でも、考えるより行動が先にくる子なので……」

「あー、そんな感じはしたね」


 シェリルさんと話をしていると、インターフォンが鳴る。誰かが来たみたいだ。


「はーい」


 今は爺さんは出かけているようなので、シェリルさんが出る。一応、私もついていってみる。

 玄関の扉を開けると、そこにはアスティが立っていた。


「え!? あ、アスティさん!?」

「シェリル様!! 貴女の騎士が助けにきました!!」


 アスティは、シェリルさんの肩をつかむ。その表情は必死だ。

 そして、シェリルさんの後ろにいる、私に気付いた。


「あ!? お前!?

 こんなに早く決着をつけることになるとは!?」

「あ、アスティさん!? こ、この人は……」


 アスティという女は、シェリルさんの声が届いていないのか、目が血走っている。


「シェリルさん……、こいつ……。

 本当に人の話を聞かないよね……」


 私は呆れながら、シェリルさんの肩を叩く。シェリルさんは、困ったように笑っていた。


「は……、はい……」


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