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私と魔王  作者: ふるか162号
1章 私と魔王
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1-5

また一つ謎が増えた。

 確かに、シェリルさんは、見た目は日本人に見えないのに、流暢に日本語を話している。しかも、言葉の意味の認識も違いがあるようには見えない。


「シェリルさん、今の言葉はスキルが使われていないってことだけど、シェリルさんの世界でも日本語が使われているの?」

「日本語というのはよく分かりませんが、今こうやって喋っている言葉は、ほぼ同じだと思いますよ。ただ、読み書きとなると、全く別の書き方になるんですよ」


 そう言って、シェリルさんは紙に文字を書く。

 なるほど。筆記体でさらさらっと書かれているけど、英語ではなくローマ字表記だ。

 ひらがなと漢字がないから、言葉は通じても文字は読めないのか。

 そこで、新たな疑問が生まれる。ローマ字表記ということは、英語は意味が解るんだろうか?

 それを確かめるために、私はある英語を書く。これは、意味が解ると怖い話で使われる英単語だ。


「らなさん!? お爺さんに『死ね』って酷くありませんか!?」


 なるほど。これは間違いない。

 私がシェリルさんに見せたのは、“shine”の文字。これは、輝くという意味なだけど、ローマ字だと『しね』となる。シェリルさんは、ローマ字しか読めないから『死ね』と読んだのだ。

 爺さんもこれは少し気になったのか、私が書いたものを見て、納得する。


「シェリルさん、これは英語って文法なんだよ。ちなみに、私たちの世界では、英語というのは、色々な国が使っている公用語ってやつなんだ。日本語、ローマ字のほうが、珍しいのかもしれないね」


 私はひらがなとローマ字を両方書き、それをシェリルさん渡す。これがあれば、漢字は難しくても、ある程度本などは読めるはずだ。

 文字の問題は徐々に解決するとして、シェリルさんを元の世界に帰らせるために、爺さんの持ってきた本の作者を調べないと。と思い、本の作者名を見てみる。


【鬼子母神 澪】


 うん。目の錯覚か? どこかで見たことのある名前だ。

 確か、私の姉の名前が『澪』だったはず。『鬼子母神』という苗字も珍しいとは思っていたけど、これが同姓同名とは、また珍しい。


「作者なんじゃがな、澪ちゃんなんじゃ」

「澪さん? 有名やお方なんですか? お爺さんが召喚を成功させた本です。さぞ、ご高名な魔導士さんが書かれたのではないですか?」


 爺さんが知っているということは、うちの姉ちゃんで間違いないようだ。

 しかし、いつからウチの姉ちゃんは、ご高名な魔導士とやらになったんだ? 確か、どっかで教師をやってると聞いたけど……。


「澪ちゃんというのは、そこにいるらなちゃんのお姉さんなんじゃ」

「爺さん、姉ちゃんの職業は教師と聞いてるんだけど、なんでこんなに怪しい本を書いてるの? そもそも、なんで爺さんはこんな本を持っているの?」

「あぁ、この本は、美緒ちゃんが趣味で書いた本らしいんじゃ。一般販売はされておらんよ」

「いやいやいやいや。一般販売していないモノだったら、なおさら、何で召喚方法が書かれているの!?」


 そもそも、姉ちゃんとは10歳差だからか、私が中学生のころには、もう一緒に住んでいなかったから、趣味とかもほとんど知らないんだよね。まさか、怪しい召喚魔法とかを使っているとは思わなかったけど……。


「らなさんのお姉さんは凄いですよ。この本に書かれている召喚の手順は、私の世界でも、充分に使える召喚方法なんです」

「使える? いや、ちょっと待って? シェリルさん、本読めるの?」


 確かに、さっきひらがなとローマ字を見比べる物を渡したけど、今のシェリルさんは、それを見ないで本を読んでいる。


「あ、さっきらなさんが書いてくれた表を見て覚えました。この複雑な文字は、前後の言葉から想像して補完しました」

「ほ、補完!?」


 確かに、前後の言葉から補完することがないとは言わないけど、シェリルさんの場合は、見たことのない文字を想像で補完しているってことだ。次期魔王だけあって、シェリルさんって、めちゃくちゃ頭が良いんじゃないの!?

 というより、漢字もすぐに覚えそうだよね。

 まぁ、今はシェリルさんをもとの世界に戻すことを考えないと。


「爺さん、姉ちゃんがこの本を書いたんのなら、姉ちゃんに連絡すれば、帰る方法もわかるかもしれないね。爺さん、姉ちゃんの今の赴任先ってわかる?」

「は?」


 私の問いに、爺さんは呆れた顔になる。なにか、変な事を言ったかな?


「澪ちゃんの赴任先なんて、ワシが知るわけないじゃろう。らなちゃん、なぜ妹のらなちゃんが、澪ちゃんの住んでる場所を知らんのじゃ?」

「何言ってるの? いちいち居場所まで把握してるわけないじゃん。爺さんも家族の居場所なんて、把握していないでしょ?」

「いや、把握しとるぞ。把握していなかったら、なにかあった時、どうするんじゃ?」

「え? 把握してるの? 私んちは、みんなが好き勝手生きているから、把握なんて不可能なんだけど?」


 私がそう言うと、シェリルさんと爺さんは悲しそうな顔をする。なんで、そんな顔するかな?


「ま、まぁ、らなちゃんが美緒ちゃんの居場所を知らないのであれば、澪ちゃんからの連絡があるまでは、この件は保留じゃな。その間は、シェリルの面倒はワシが見よう」

「いや、あんたが呼び出したんだから、それは当然だろうが」


 そう言うと、爺さんはそっと視線をそらした。

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