ハーちゃん
声が聞こえると同時に、背後から強い霊気がかかった。
これは、ただの霊ではない。
妖怪、もしくは低級神級の霊的存在。
「誰だ?」
背後を振り返った。
ん? 誰もいない。しかし、霊気は確かにある。
姿を隠しているのか?
「どこを見ている? わらわは、ここだ」
幼女の声のようだが、この霊気は油断できない。
「どこだ? 姿を現せ」
「だからあ、さっきから、姿を現しておるだろう」
え?
「いいから、視線を下げろ」
視線を下げた。
すると、それはそこにいた。
強力な霊気の発生源は、確かにそいつだったが……ううむ、いつも人を見上げるクセがついているものだから、つい見落としてしまっていた。
「やっと、気が付いたか」
そこにいたのは、身長一メートル足らずのおかっぱ頭の幼女。浅黒い肌をしている事から、南アジア系のようだ。一見、普通の人間に見えるが、影がないという事は霊体だな。
「おい、おまえ」
ん? なんかこの幼女が僕を睨みつけているが、僕は何か彼女の気に障るような事をしたかな?
「おまえ、わらわの事をチビだと思って、バカにしていただろう」
え?
「いや、バカになんかしていないが……」
「嘘つけ! わらわが姿を現しているのにも関わらず、わざとらしく上を見上げおって! わらわをチビだと思って、バカにしていたとしか思えぬ」
あ! わざとやったと思われていたんだ。
「いや、違うって」
「違わない。チビだと思って、バカにしやがって」
「いや、被害妄想だって」
「五月蠅い! ちょっとぐらい、背が高いからって威張るなよ」
え? 背が高いって? 僕の事? 『背が高いからって威張るな』って、一度言われたかった言葉……ああ、感動的……
「おい! 聞いているのか?」
「いや、威張ってなんかいないし……」
そもそも、威張れるような身長じゃないし……
「お嬢ちゃん。背が低いからって、僻む事はないだろう」
ん? 樒が僕の頭に手をポンと置いた。
振り向くと、樒がニヤニヤとバカにするような笑みを浮かべている。
「優樹。あんたがそれを言うの」
「五月蠅い! 樒! 背が高いからって威張るな!」
「優樹こそ、背が低いからって僻むことないでしょ。それに背が低い方がいいじゃない」
「良くない」
「そう? 私は優樹が、羨ましいのだけど」
「なんで?」
「みんなから『可愛い』と言ってもらえて」
別に僕は言われたくないのだが……
「おい。おまえら! わらわをほったらかしにしてケンカするな!」
あ! 忘れていた。
振り返ると、幼女は頬をプクッと膨らませている。
で、こいついったい何者?
「おい! 露」
幼女に呼ばれて、飯島露が振り向いた。
「なあに? ハーちゃん」
どうやらハーちゃんとは、この幼女のようだな。
「先ほど、新の様子を見てきた。大丈夫だ。そこの……」
幼女は樒を指さす。
「大女が言っていたような、エッチな誤解はしていない」
「ええ! 本当?」
「本当じゃ。それより、おまえら」
幼女は僕と樒の方を振り向く。
「露に、余計な事を、吹き込むのはやめてもらおうか。露はこれから好いた男と黄泉へ逝き、そこで幸せになるのじゃ」
何を言っているんだ? こいつ。
僕は飯島露の方を向いた。
「誰? この子。知り合い?」
「死神のハーちゃんだよ」
死神だと!?




