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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
超常現象研究会

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タイムリミット

 そんなこんなで囮作戦はさらに三日続けた。結果、痴漢は何人も捕まえたが、その中に水上先生に濡れ衣を着せた奴は見つからない。


「また君たちか」


 僕たちから痴漢を引き渡された駅員は半ば呆れ顔だ。すっかり、僕らの顔は覚えられてしまったようだ。


「まあ、警察から許可はおりているようだが……よく許可されたものだな」


 当然の事だが、こんな事を警察の許可 (黙認)なしにできるわけがない。霊能者協会を通じて許可を取り付けていたのだ。


「明日から土日だけど、さすがにやらないよね?」


 駅員の質問に僕らは首を縦にふった。


 ただし、囮作戦はやらないけど、八名駅には日曜日に来ることになっていた。水上先生の家族に、先生から話したい事があるそうだ。もちろん、先生の奥さんや子供に先生の声は聞こえないので、僕が憑代を勤めるということで……


「あなた……」「お父さん」


 日曜日の八名駅。そのホームを訪れた三十代半ばの女性と、彼女に連れられてきた小学生の女の子は水上先生の前で泣き崩れた。先生の奥さんと子供だ。


 水上先生の霊は、かなりはっきりと姿が現れているので一般人でも姿を見ることはできる。ただ、声は聞こえないようだ。


「優樹。分かっていると思うけど憑代をやるのは十分だけよ」


 樒が念を押す。


「分かっているよ。樒も、料金を必要以上に請求しないように」

「やらないわよ」


 僕の中に先生の霊が入ってきた。身体の機能の一部を明け渡すと、僕の身体は僕の意志と関係なしに動き出す。

 

 僕は先生の奥さんの前にひざまずいた。


「すまない。こんな事になって」

「あなた。謝らないで」

「しかし……」

「あなたは、痴漢なんてやっていないのでしょ?」

「当然だ! 僕はそんな事はやっていない」

「私は信じるわ」

「信じてくれるのか?」

「当たり前よ。何年あなたと過ごしたと思っているの。あなたがそんな事をする人じゃないって、私が一番知っているわ。それにあなたの冤罪を晴らすために、生徒さんたちが頑張っている事も聞きました」

「聞いたのか?」

「ええ。昨日、六星さんという女の子が家に来て話してくれました。あなたが、あんなに生徒さんから慕われていたなんて……これを知ってどんなに嬉しかったことか……」

「そうだったのか。六星君が……」

「でも、あなた……こんな事やめさせて下さい」

「何だって?」

「女の子たちに痴漢を捕まえさせ続けて、もし生徒さんが危険な目に遭ったら……」

「それは……」

「世間がなんと言おうと構いません。私はあなたを信じます」

「おまえ……」


 先生の娘は僕の前に歩み寄ってきた。

 

「お父さん。あたしも信じるよ。お父さんは痴漢なんてやっていないって……」

恭子(きょうこ)


 いつの間にか僕は涙を流していた。


 いや、これは先生の感情に僕の涙腺が反応したのだ。


 だが、ちょっとまずい事になってきた。


 水上先生は満足してきている。このままだと成仏するかもしれない。


 いや……成仏させるのが僕らの仕事だけど……先生が成仏したら、もう真犯人を捕まえる必要もなくなる。


 だけど、このままでは悔しすぎる。


 恥ずかしい女装までやって追いかけたのに……


 この優しい先生を死に追い込んだ奴が、のうのうとのさばっているというのが許せない。


 捕まえて、裁きを受けさせたい。


 分かっている。そんなの霊能者の仕事じゃないって……


 霊能者の仕事は霊を気持ちよく成仏させる事……


 痴漢を捕まえるのは、それに必要だったから……


 しかし、ここで先生が成仏したら、僕たちには犯人を捕まえる大義名分がなくなる。


 最初は成仏させるために仕方なくやっていたのに、いつの間にか僕の中に、この人の冤罪を晴らしたい気持ち膨らんできていた。


 今、先生に成仏されたら……僕のこの気持ちは……


「待って下さい」


 背後から聞こえたのは、美樹本さんの声。


 振り向くと黒猫を抱いた美樹本さんが立っていた。


 今日は来ないはずだったのに、気になって来ていたのか。


「いけないのはあたしです。この人は痴漢ではないと、あの時あたしがはっきり否定していれば、こんな事には……だから、犯人探しは続けさせて下さい」


 美樹本さんは泣き崩れた。


「そうです。続けさせて下さい」「私たちだって気持ちは同じです」「大好きな先生を死に追い込んだ奴を、このままにしておけません」


 ベンチの陰から、超常現象研究会の三人が立ち上がった。隠れて様子を見ていたのか。


 六星先輩が奥さんのところへ歩み寄る。


「奥さんがやめろと言っても、私たちは続けます。先生の冤罪を晴らすまで」

「六星さん」


 しばらく二人は無言で見つめ合った。


 奥さんが口を開いたのは、時間切れとなって僕の身体から先生が出て行った時。


「分かったわ」

「では、続けていいですね?」

「後一日だけです」

「え?」

「明日の月曜日に、犯人が捕まらなかったらもう諦めて下さい」

「そんな……奥さんは悔しくないのですか?」


 その途端、奥さんは突然声を荒げた。


「そんなの、悔しいに決まっているでしょ!」

「え?」

「できる事なら、私の手で犯人を絞め殺してやりたい。でも、そのためにあなたたちを犠牲にするわけにはいかないの」

「そんな……私たちは……犠牲だなんて……」

「明日一日です。明日で捕まらなければ、諦めて下さい」


 奥さんは樒の方を向いた。


「明日、犯人が捕まらなくても、夫を供養して成仏させて下さい」

「いいのですか?」


 樒の質問に奥さんは頷き、僕の方を向いた。


「あなたもそれでいいわね?」


 まだ、僕に憑依していると思っているようだ。


「と、言っておりますが、何と伝えます?」


 僕はすぐそばを漂っていた先生に尋ねた。


「ああ。これ以上僕のために、生徒たちに危険な事をさせるわけにはいかない。そう伝えてくれないか」


 ちょっと待て? それでいいのか? 何か他に冤罪を晴らす方法はないのか?


 

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