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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
超常現象研究会

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脅迫

 結局、その日は幽霊おじさんが誰だったか思い出せないままだった。


 まあ、どうせまたあの場所に行くのだから、その時に本人に名前を聞けばいいのだけど……


 そして翌朝、昨日の疲れが出たのか学校へ向かうバスの中で、席に座ったまま僕はうたた寝をしてしまった。


 パシャ!


 なんだ? 突然のシャッター音に目を覚ました。


 目を開くと、僕の眼前にあったのはスマホのレンズ!? 寝顔を撮られた!


 スマホを持っていたのは、僕と同じ学校の制服を着た女子生徒。


 その顔には見覚えがあった。僕と樒を何度もしつこくクラブ活動に勧誘していた人だ。


 霊能者協会の仕事があるから断っていたが……


小山内(おさない)先輩。人の顔を、勝手に撮らないで下さい」

「ごめんね。(やしろ)君の寝顔があまりにも可愛かったから……」

「肖像権侵害ですよ。削除して下さい」

「ええ! いいじゃない。せっかく可愛く撮れたのに」

「男に対して『可愛い』と言うのも止めて下さい。それは侮辱です」

「ええ! いいじゃない。減るものじゃないし」

「僕のプライドが擦り減ります」

「そっか。ところでさ……」

「入部ならお断りします」

「いいのかな? そんな事言っちゃって」

「脅迫ですか? 断ったらさっきの寝顔の写真をばらまくとでも? そんな事をされても入部はしません」

「写真をばらまくなんてしないわよ。でもさ。さっき侮辱だとか言っていたけど、本当はうれしいんじゃないの? 『可愛い』って言われて」

「うれしくありません」


 本当だぞ。うれしくなんかないからな。


 だいたい、同級生の女子からも『可愛い! 可愛い!』とはやし立てられるせいで、他の男子から無駄に嫉妬を買って迷惑しているんだから……


「本当にうれしくないの?」

「うれしくないです」

「ふうん。じゃあ、なんであんな趣味があるのかな?」


 趣味?


「なんの事ですか?」


 小山内先輩は不敵な笑みを浮かべ、懐から何かを取り出した。


「これ」


 彼女が差し出したのは一枚の写真。そこに写っているのは……!


 僕が槿(むくげ)さんとエラ・アレンスキーに捕まった時に撮られた女装写真!?


「こ……こ……これは……」

「こんな可愛い格好をする趣味があるくせに、『可愛い』と言われるのが嫌だなんて嘘よね?」

「ち……違うんです! これは好きでやったのではなくて……入部を断ると、この写真をばらまくというのですか?」

「だから、写真をばらまいたりしないわよ。そんな事をしなくても、この映像は世界中に拡散しちゃったから」


 世界中? マジか? 削除したと思ったのに……ネットって怖い。


「だけど、この写真の少女が、変態少年の女装だなんて事は誰も知らないわね。まして、それが社 優樹君だなんて知っているのは私たちだけよ」

「僕は変態じゃない」

「こんな格好しておいて、変態じゃないなんて言いわけ通るかしら?」

「違うんです! これには深いわけが……」

「深いわけがあるの? そのわけを私に聞いてほしい?」

「聞いて下さい! 今すぐ聞いて下さい!」

「今はダメね。もう学校始まっちゃうから。君が変態ではないという言いわけは聞いて上げるから、放課後になったら超常現象研究会の部室に来なさい」

「え?」

「部室に来たら、お茶でも飲みながら、ゆっくり君の言いわけを聞いて上げるわ」

「行かなかったら?」

「どうなるかは、自分で想像してね」


 行かないと、あの女装写真が僕だと知れ渡る事になるのか。


 




 そして、放課後。僕は超常現象研究会が使っている教室の扉を開いた。


「いらっしゃい。社君」「待っていたわよ」


 三人の女子生徒が僕を出迎える。


「ささ、社君座って」


 小山内先輩の勧めに従って椅子に腰掛けた。


「お茶どぞー」


 三人の中で一番小柄な女生徒……それでも僕より背が高い……が僕の前にホコホコと湯気を立てる紙コップを置いた。


 この人は確か、華羅(から)先輩だったな。  

 

「砂糖はいくつ入れますか?」


 華羅先輩はステックシュガーを差し出したが……


「けっこうです。僕はコーヒーも紅茶も砂糖は入れないので……」

「そうなの。では、ミルクは?」

「いりません」

「カルシウムが含まれていて背が伸びるのに」


 ピク!


 一瞬心が動きかけたが、とりあえず無視。


 そもそも、僕はこの紅茶に口を付ける気はない。『私たちの紅茶を飲んだ以上は入部してもらうわよ』とか言われそうなので……


「ミルクも砂糖もいらないって、見かけと違って大人ですね。社君は」


 当然だ。


「じゃあ、ブランデー入れる?」

「未成年です! てか、なんで学校にそんなものが……」

「冗談よ、冗談」


 不意に背後から書類を持った手が伸びてきた。


 振り返ると書類を差し出していた女生徒はここのリーダーで……確か六星(ろくぼし)先輩だったな。


「それじゃあ、社君。さっそく、これにサインして」

「六星先輩。さりげなく入部申請書にサインさせようとしないで下さい」

「ちちい、気づかれたか」


 どっかの悪徳生保レディみたいな事を……


「僕がここに来たのは、女装写真を撮られた経緯を説明するためです」

「ああ。それなら説明いらないわ」

「どうしてですか?」

「君も神森さんもバイトが忙しいと言っていたけど、そのバイトとは霊能者協会も事ね」


 調べたのか。まあ、隠すことでもないが……


「社君はその仕事の関係で悪い人に捕まって、意識を失っている間に女装をさせられて写真を撮られた。そんなところじゃないの?」


 なんだ。分かっているじゃないか。


「その通りです。僕は女装するような変態趣味はありません。納得していただけましたか?」

「ええ。納得したわ」

「じゃあ、僕はこれで失礼します」

「待ちなさい。お茶ぐらい飲んで行きなさいよ」

「けっこうです」

「なに。私たちの出したお茶が飲めないというの?」

「そんな事は……」

「大丈夫よ。私たちのお茶を飲んだ以上は入部しろ。なんてケチな事は言わないから」

「そうですか。では……」


 紙コップに口を着けた。何かが混ぜられている様子はないな。


「紅茶ごちそうさまだした。では、失礼します」


 扉に手をかけた。


「あれ?」


 扉が開かない! どうなっているのだ?


「無駄よ。その扉は外から開くことはできるけど、中から開くときは鍵が必要なのよ」

「なんだって!?」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、六星先輩は申請書をさし出す。


「さあ。ここから出たかったら、これにサインしなさい」

「鍵はどこにあるのですか?」

「私たちの誰かが持っている」


 その誰かが分かっても僕には力ずくで奪うのは不可能。相手は女とは言え、みんな僕より体が大きい。


 僕が弱すぎるって? ほっといてくれ。


 だけど、鍵は一つとは限らない。どっかに予備の鍵があるかも……


 部屋の中を見回した。見回したぐらいで小さな鍵が見つかるわけないって? 


 いや、僕が探しているのは鍵ではなくて、こういう使われていない教室ではたいていいる存在(もの)だよ。


 ほら、いた!


「社君。あきらめてサインしなさい」


 六星先輩の言葉を無視して僕は部屋の隅に向かう。


 おそらく、三人からは僕が何もないところへ向かっているように見えるが、僕の向かう先には一人の女生徒が立っていた。


 ただし生きている人間ではない。地縛霊だ。


「こんにちは」


 僕が挨拶すると霊は驚いたような顔をした。


「私の姿が見えるの?」

「ええ。霊能者ですから」

「じゃあ、やはり私死んでいるのね」

「ええ。死んだ自覚がないのですか?」

「ええ。この教室で首を吊ったはずなのだけど。なぜか、どこにも行けなくて……どうしたら霊界へ行けるの?」

「未練を断ち切ればいけます」

「未練? やはり未練があるのかな?」

「ところでお聞きしますが、この部屋の鍵がどこにあるか分かりますか?」

「鍵なんてかかっていわよ」

「え?」

「君がお茶を飲んでいる間に、三人の中の一人が扉の上についているカンヌキをかけただけだから」


 よく見ると、扉の上にカンヌキがかかっている。しかし、あれは僕の身長では届かないな。 


「ありがとうございます。お礼に、後ほど未練を断ち切るお手伝いをさせてもらいます」


 そう言って僕はさっきまで座っていた椅子のところへ戻った。


「社君。さっきから、なに一人でぶつぶつ言っているの?」


 小山内先輩が怪訝な顔をして質問した。


「この部屋の地縛霊と話をしていました」

「え? 地縛霊?」

「ちょっと椅子を借りますね」


 椅子を扉のところに置いて僕はその上に乗った。


「いけない! カンヌキに気づかれたわ! 捕まえるのよ」


 三人が駆け寄って来たが、その前に僕は扉を開いた。


 外へ飛び出そうとしたが、そこに人が立っている。


「優樹じゃないの。何しているの? こんなところで」


 樒!? なぜここに…… 

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