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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
事故物件3

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大人の心得?

 周囲を見回すと、僕を中心に二メートルほどの距離を置いて灰色のスライムが取り囲んでいた。


 いつでも襲いかかれる状態で待機しているようだ。


 まあ、襲いかかってきても無駄だけどね。


 僕には、死神ロックさんからもらったお守りがあるのだから。


 僕は首から銀色の鎖でぶら下げてある緑色の勾玉を握りしめた。


 もう一度周囲を見回し、スライム包囲網の様子を確認する。


 ん? ほぼリング状のスライムの輪が、一か所だけ内側にへこんでいるな。


 そのへこみにはダンボール箱があり、スライムはダンボール箱を避けるように僕を取り囲んでいた。


 なぜ、あのダンボール箱を避けるのだろう?


 まあいいか。今の状態なら、ヒルコは自分が圧倒的に優位だと思っているのだろうな。


 この状況を利用しない手はない。


「ヒルコさん。僕がおとなしく捕まらなかったら、このスライムが一斉に襲ってくるのですか?」

「そうさ。だけど、こんなネチョネチョしたキモいスライムに捕まるのは嫌だろう?」


 いやいや、スライム使いのあんたが、スライムを『キモい』とか言っちゃうの。


「だから坊や。おとなしく捕まっちまいな」

「一つだけ教えてください。なんでこんな事をやるのですか?」

「それは言えないな。それを教えたら、坊やを殺さなきゃならなくなる。さっきも言ったが、俺は坊やに危害を加えたくはない」


 ううむ、やはり冥土の土産は無理か。


「なるほど。よく分かりました」


 そう言ってから、僕は退魔銃をショルダーホルスターに戻した。


「分かってくれたか。それじゃあ、おとなしく……」

「捕まりはしませんよ」

「なに?」

「ヒルコさん。僕はあなたが思っているほど性格はよくありません。僕はただ、あなたのほうが圧倒的に有利だと錯覚している間に、冥土の土産にいろんな事を教えてもらえるかな? と期待していただけですので、あえて抵抗しなかったのです」

「はあ? 錯覚? おいおい。まさか、この状況を覆せるとでも思っているのか?」

「思っていますよ。疑うなら、スライムの触手を僕に当ててみて下さい」

「良いのか? 『キモいから止めて』と言うなら、今のうちだぞ」


 またキモいなんて言う。そりゃあ粘液まみれのスライムなんてキモいけど……ん?


「あのう、ヒルコさん。あなたまさか、スライムをキモいとか思っているのですか?」

「当たり前だろ。こんなキモいもん、仕事でなきゃ使わねえよ」


 なんか……自分のことを、『キモい』と思っている人に使役されているスライムが可哀そうな……


「だがな坊や。どんなに嫌な事でも、仕事ならやらなきゃならないんだよ。それが大人ってものだ」


 変なところで大人の心得を教えられちゃったよ。

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