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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
事故物件3

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288/289

あるお方?

 振り向いた時点で、かなりのスライムが室内に入り込んでいた。


 考える暇もなく、退魔銃を向けて撃つ。


 バシュッ! バシュッ!


 スライムに退魔弾が命中し、音を立てて穴が開いていく。


 駄目だ。もうかなりのスライムが入り込んでいる。


 こんなんじゃ、消しきれないよ。


 ん?


 スライムの一部が盛り上がってきた。


 見る見るうちに、それは人の姿へと変わっていく。


 灰色でヌラヌラしていたスライムの表面にも色が付いていった。


 頭部が黒くなったと思ったら短く刈り込んだ髪になり、顔の部分は肌色に、胴体は黒くなっていき、やがてジャケットに、胸元だけ白いワイシャツになりネクタイも締めていた。


 やがて三十代くらいのガリガリに痩せた黒いスーツをまとった男の姿になったが、その顔には見覚えがあった。


「よお、坊や。久しぶりだな」

「あなたは……ヒルコさん。スライムでそんな事ができるの?」

「おもしれえだろ。俺は造形能力と言っている」


 まあ、見ていて面白い能力だけど……


 チラッと周囲を見回してみると、他のスライムは一定の距離を置いて僕の周囲を取り囲み、動きを止めていた。


 すぐに襲ってくる様子はないようだ。


「今回俺の姿に造形してみたのは、坊やと話し合いがしたいからさ」

「戦う気は、ないという事ですか?」

「今のところはな」

「それは話し合いが決裂したら、戦う事になると考えていいのですね?」

「そういう事だが、俺としては可能な限り坊やに危害を加えたくはない。と言っても、信用はできないだろうな」

「はい。出来ません」

「だろうな。もちろん俺は善人じゃないし、必要とあらば人を殺すことも厭わない。だがな、俺は怖い物知らずじゃない。自分の命は何よりも大事だ」


 何が言いたいのだ?


「坊やに危害を加えると、あるお方の怒りを買う恐れがあるのでな」


 あ! 呪殺師ヒョーだな。


「ヒルコさん。そのお方が誰なのかは分かりませんが、名前は聞かない方がいいですか?」

「聞かないでくれると助かる。どこで話を聞かれているのか分からないからな」


 という事は、ここにも呪殺師ヒョーのステルス式神が潜んでいるかもしれないのか?


「俺が戦いを避けたいと考えている事は、これで納得してくれたかな?」

「とりあえず納得しました。それで要求は何でしょう?」

「話が早くて助かる。スライムがこれだけ室内に入ってしまっては、そのちっぽけな退魔銃じゃどうにもならないぜ。おとなしく俺達に捕まりな。悪いようにはしねえぜ」

「『悪いようには』って、冗談じゃない! 地下室に監禁されて、闇子さんの玩具にされる事のどこが悪いようにじゃないと?」

「え? 闇子の奴そんな事言っていたのか? 大丈夫だ。あいつにそんな事はさせない。地下室には監禁するが、高級ホテル並みとは言わないが待遇はよくしてやる。もちろん、闇子にセクハラはさせないから」

「そんな事言ったって、闇子さんはヒルコさんの言うことなんか聞かないじゃない」

「大丈夫だ。確かに俺の言うことは聞かないが、(じゅ)さ……いやいや、あるお方にチクると言ったら、言うこと聞くから」


 今『呪殺師(じゅさつし)』と言いかけたな。やはり、呪殺師ヒョーを恐れているんだ。


 まあ、確かに怖いよね。その名前を聞いたらヤクザも逃げ出すぐらいだし。


 僕は別の意味でコワいけど……

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