あるお方?
振り向いた時点で、かなりのスライムが室内に入り込んでいた。
考える暇もなく、退魔銃を向けて撃つ。
バシュッ! バシュッ!
スライムに退魔弾が命中し、音を立てて穴が開いていく。
駄目だ。もうかなりのスライムが入り込んでいる。
こんなんじゃ、消しきれないよ。
ん?
スライムの一部が盛り上がってきた。
見る見るうちに、それは人の姿へと変わっていく。
灰色でヌラヌラしていたスライムの表面にも色が付いていった。
頭部が黒くなったと思ったら短く刈り込んだ髪になり、顔の部分は肌色に、胴体は黒くなっていき、やがてジャケットに、胸元だけ白いワイシャツになりネクタイも締めていた。
やがて三十代くらいのガリガリに痩せた黒いスーツをまとった男の姿になったが、その顔には見覚えがあった。
「よお、坊や。久しぶりだな」
「あなたは……ヒルコさん。スライムでそんな事ができるの?」
「おもしれえだろ。俺は造形能力と言っている」
まあ、見ていて面白い能力だけど……
チラッと周囲を見回してみると、他のスライムは一定の距離を置いて僕の周囲を取り囲み、動きを止めていた。
すぐに襲ってくる様子はないようだ。
「今回俺の姿に造形してみたのは、坊やと話し合いがしたいからさ」
「戦う気は、ないという事ですか?」
「今のところはな」
「それは話し合いが決裂したら、戦う事になると考えていいのですね?」
「そういう事だが、俺としては可能な限り坊やに危害を加えたくはない。と言っても、信用はできないだろうな」
「はい。出来ません」
「だろうな。もちろん俺は善人じゃないし、必要とあらば人を殺すことも厭わない。だがな、俺は怖い物知らずじゃない。自分の命は何よりも大事だ」
何が言いたいのだ?
「坊やに危害を加えると、あるお方の怒りを買う恐れがあるのでな」
あ! 呪殺師ヒョーだな。
「ヒルコさん。そのお方が誰なのかは分かりませんが、名前は聞かない方がいいですか?」
「聞かないでくれると助かる。どこで話を聞かれているのか分からないからな」
という事は、ここにも呪殺師ヒョーのステルス式神が潜んでいるかもしれないのか?
「俺が戦いを避けたいと考えている事は、これで納得してくれたかな?」
「とりあえず納得しました。それで要求は何でしょう?」
「話が早くて助かる。スライムがこれだけ室内に入ってしまっては、そのちっぽけな退魔銃じゃどうにもならないぜ。おとなしく俺達に捕まりな。悪いようにはしねえぜ」
「『悪いようには』って、冗談じゃない! 地下室に監禁されて、闇子さんの玩具にされる事のどこが悪いようにじゃないと?」
「え? 闇子の奴そんな事言っていたのか? 大丈夫だ。あいつにそんな事はさせない。地下室には監禁するが、高級ホテル並みとは言わないが待遇はよくしてやる。もちろん、闇子にセクハラはさせないから」
「そんな事言ったって、闇子さんはヒルコさんの言うことなんか聞かないじゃない」
「大丈夫だ。確かに俺の言うことは聞かないが、呪さ……いやいや、あるお方にチクると言ったら、言うこと聞くから」
今『呪殺師』と言いかけたな。やはり、呪殺師ヒョーを恐れているんだ。
まあ、確かに怖いよね。その名前を聞いたらヤクザも逃げ出すぐらいだし。
僕は別の意味でコワいけど……




