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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
事故物件3

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ヒルコ侵入

 霊の気配は、キッチンの方からやって来た。


 壁を抜けてくるのか?


 にちゃ! ぬちょ! ねちょ!


 嫌な音を立てながら、灰色のスライムが換気扇から入ってくる様子が目に入る。


 悪趣味な入り方だな。壁を通り抜ければいいのに……


 中の人間を怖がらせようという演出のつもりだと思うが……


 待てよ。ヒルコには、すでに闇子から部屋の住民が僕だということは伝わっているはずだ。


 それならば僕に対して、不気味な演出をしても無駄だと分かるはず。


 それにもかかわらず、わざわざ狭い換気扇を抜けてくるという事は、こいつは霊的存在なのに物質を通過できないのでは?


 つまり、演出でもなんでもなく、マジに換気扇からじゃないと入れないのだろうか?


 確かに霊的存在の中にも、物質を通り抜けられないものはいた。


 この前戦った色情霊の操る化け蔦とかがそうだ。


 あの蔦は霊的存在なのに、物質でできた壁を抜けられなかった。


 最終的には、天窓のガラスを割って入ってきたが……


 まあ、推測は後にして……


 僕は換気扇に狙いを定め、退魔銃を撃った。


 カコーン! キコーン! クコーン!


 数発のBB弾が換気扇に当たり、乾いた音が鳴り響く。


 同時にスライムの一部が消えて、その下に垂れ下がっていた部分が床にベチャッと落ちた。


 床に落ちたスライムは、しばらくウネウネと蠢いていたが、やがて蒸発するように消えていく。


 憑代から切り離された部分は消えてしまうのか。


 スライムは、それ以上換気扇からは入ってこなかった。


 しかし、霊の気配はキッチンの壁の向こうから動こうとはしない。


 入る機会を伺っているのだろうか?


 僕は油断なく退魔銃を換気扇に向け続けた。


 一分……二分……五分……時間ばかりが過ぎていく。


 根比べするつもりか?


 僕が疲れて倒れるのを待つ気か?


 不意にスマホの着信が鳴った。


 相手は樒。


『優樹。もうすぐ着くわ』


 僕は退魔銃を構えたまま状況を伝えた。


『分かった。すぐに助けにいくわ』

「でも樒。奴には前回九字が効かなかったよ」 

『大丈夫。あれは奴の憑代に当たらなかったから。憑代に九字を当てれば、式神は消えるわ。それでも駄目な時は、悪霊吸引瓶を使うまで』

「あれって、式神にも有効なの?」

『試したことはないけど、ロックさんは式神にも使えると言っていたわ』


 それなら大丈夫か。


 電話を切ったその時……


 ぬちょ! ねちょ!


 え? 今の音は背後から……


 なんで?


 振り向いた僕の目に映ったのは、背後の壁にある吸気レジスターから侵入してくるスライムの姿だった。

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