冥土の土産を期待したのに
正直言うと、今回の話を聞いたときから、なんとなくこんな気がしていた。
霊能者がいる時だけ出てこない霊なんて普通はいない。
まったくいないとは言わないが、そんなのはごく希な例外。
だから霊能者から逃げ回る悪霊がいるというより、心霊現象を捏造している人間がいて、その捏造がばれる事を警戒して霊能者を避けているという方がありえるだろうと考えていたのだが、それが当たりだったようだ。
問題は、何の目的でこんな事をやっていたかだが……
「さて、闇子さん。あなべる荘に現れていた幽霊の正体は、あなたの生き霊だったわけですね」
まあ、霊体である事には代わりないが……
「なんでこんな事をしたのです? ここのオーナーに、恨みでもあるのですか?」
僕の質問に対して、闇子はただ俯いて黙っていた。
まあ、素直に話す気はないだろうな。
闇子が口を開いたのは、一分ほど過ぎてから。
「どうやら坊やには、私の優しさが理解できなかったようだね」
「優しさ?」
「おとなしく私の嘘に騙されていれば、手荒な事をしなくて済むのだけどね」
「手荒な事って? 闇子さん、霊体なのにどうやって?」
「霊体でもね、私は物質に干渉できるのだよ」
さっき僕の布団を動かしたのだから、そのぐらいはできると思っていたが……
「確かにそういう霊はいますね。でも、布団を動かす程度ならともかく、生き霊が他人に危害を加えるほどの力を使うと、闇子さん本体の生命力を著しく消耗しますよ」
「分かっているさ。でもね、私が消耗しないでそれをやる方法はあるのだよ」
「まさか!? 薬を!?」
ミクちゃんが式神で戦う時は、ブースターという薬を飲んでいた。
あれと同じ薬を持っているのか?
「そのまさかさ。私の本体が、今から薬を飲むところだよ。覚悟するんだね」
「その薬は、物凄く高いと聞いていますがいいのですか? 闇子さん、お金がないのでは?」
「心配ないよ。真相に気がついた者を始末するときの必要経費として、スポンサーが出してくれたからね」
スポンサー? やっぱり、誰かに雇われていたのだな。
「始末って? 僕を亡き者にする気ですか? そ……そんな! 非道い!」
と、わざと怯えるふり。
まだ僕の右手は布団の下に隠れているので、退魔銃は闇子には見えていない。
いつでも反撃可能だが、ここは闇子が圧倒的に有利だと錯覚させておいて、気を良くした闇子が『冥土の土産に教えてやる』と何から何まで話してくれる事を僕は期待していた。
「亡き者にする? いやいや、そんな事はしないよ。ただ、ほとぼりが冷めるまで地下室に監禁するだけさ」
「え?」
「ぐふふふ……地下室では、私がたっぷり可愛がってやるよ」
それって、死ぬより嫌かも……って、それじゃあ『冥土の土産』が期待できない。
「あの……殺さないの?」
「殺さないよ」
「じゃあ『冥土の土産』は?」
「は?」
しまった! つい……
一方、闇子は僕の言った意味が分からなかったのかぽかーんとしている。
しばらくして、何かを納得したような顔をしてから、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
こ……怖い……
「坊や、私にメイドさんの格好をして欲しいのかい?」
「え? いや……そのメイドじゃなくて……『冥土の土産』というのはですね……」
「いいよ、いいよ。地下室ではメイドさんのコスプレをして可愛がってあげるから……」
「ひいいいい!」
おぞましさと恐怖のあまり、思わず悲鳴を上げた僕は布団の下に隠していた退魔銃を闇子に向けた。
「げ! その銃は!」
「やだ! やだ! やだ!」
退魔銃を数十発乱射してから、ふと気がつくと、闇子の姿は消えていた。




