ダーク山本
意識を集中して、霊の気配を探った。
霊の気配があるのはアパートの外。
まだ部屋へ入ってくる様子はないが……いや、三号室に向かっている。
僕より先に柳さんの部屋へ入る気だな。
窓から侵入しようとした霊が、跳ね返されるように後退するのが分かった。
樒の結界が効いているようだ。
結界が効くなら、霊の正体が分からなくてもアパート全体を結界で囲んでしまえば解決するな。
霊は別方向から三号室へアタックをかけるが、また跳ね返されたのが分かった。
これなら、しばらくは大丈夫だな。
一階五号室の葦原さんは、この時間になったら駐車場に止めてある車に避難しているはずだし……
今のうちにスマホチェックだ。
手探りでスマホをつかみ、布団の中に引きずり込んだ。
布団を被ったままスマホを開く。
送られてきたのは樒からではなく、魔入さんからのメールだった。
『こんばんは。樒さんのメールにさっき気がつきました。樒さんにはすでに返信しましたが、こちらにも送った方が良いかと判断しましたのでメールします』
その判断は正しいな。たぶん、樒はメールに気がついていない。
『問い合わせにあった女子プロレスラーですが、私の記憶する限りでは二年前に一度私の番組に出演しています。ダーク山本というリングネームですが、本名は知りません』
ダーク山本? あれ? どこかで聞いたような名前だな?
しかし、僕は女子プロレスなんて見ないし。
学校で誰かが話しているのを聞いただけかな?
『と言っても、番組出演時点では彼女はすでにレスラーを引退しています。原因は試合中に頭を打って怪我をした事。それ以来、変な夢を頻繁に見るようになったのです』
変な夢?
『とてもリアリティのある夢で、まるで幽体離脱しているみたいだと。そこで私のところへ相談に来たのです』
幽体離脱?
『私は彼女に睡眠薬を服用してもらい、私の前で眠ってもらいました。結果、私の見ている前で彼女の肉体から幽体が分離するところを見たのです』
頭を打ったショックでそうなったのかな?
『私が知っている事はここまでです。その後、彼女がどうなったのかは知りません』
生死不明という事か。
『彼女の写真が残っていましたので送ります。冬青さんに見せて確認してください』
添付ファイルを開いてみた。
バラエティ番組の動画から映したようだが、魔入さんの横に太った女性が座っている。
これがダーク山本?
この顔、どっかで見たような……やはり僕はダーク山本という女を知っている。
でも、どこで?
……!
霊の気配が急に強くなった。
どうやら、三号室はあきらめてこの部屋に入ろうとしているようだ。
僕は布団の中で、退魔銃を握りしめた。




