お札のお裾分け
一号室に入ってから、僕はすぐに今あった状況をまとめて樒にメールで送った。
電話の方が楽なのだけど、声を盗聴されるリスクがあるので連絡はメール限定と決めてあったのだ。
樒から、返事が返ってきたのは食事を終えた時。
『大丈夫だとは思うけど気を付けてね。何かあったら私を呼ぶのよ』
樒だって疲れているだろうに、寝てていいよ。
といった返事を返そうとした時、ドアがノックされた。
誰だろう?
「どちら様ですか?」
「三号室の者です。ちょっとよろしいですか?」
え? 柳さん? なんで?
とりあえず、大急ぎで眼鏡をかけ、ベレー帽を被ってからドアを開けると、外で彼女が封筒を持って立っていた。
「突然すみません。さっき、この部屋に引っ越して来ましたよね?」
「え? ああ! すみません。挨拶が遅れて」
「いえ、それは良いのですけど……ん?」
不意に彼女は、怪訝な表情で僕を見つめた。
ばれたか? 昨日、樒といっしょにいた男だと……
「あの……何か?」
「いえ……昨日会った人と、背格好が似てるなと思って」
ギク!
「あ! いえ……僕は、今日初めてここに来ましたが……」
「そうですよね。昨日の人は、眼鏡をかけていなかったし……」
なんとか誤魔化せたかな?
「それは良いとして、聞いていますか? このアパートはオバケが出るって」
「え? まあ聞いていますけど……」
すると彼女は、封筒を差し出した。
「この中に、お札が二枚入っています」
昨日、樒が書いたお札か。
「これを部屋の北東と南西に貼ってください。それでオバケは、防げると思います」
鬼門と裏鬼門だな。しかし……
「あなたの部屋は、大丈夫なのですか?」
「私の部屋にはもう貼ってあります。これは昨日来た霊能者さんに、ご近所さんへのお裾分け用に作ってもらったお札です」
そんなものまで作っていたのか。
ん? まさか?
「あの、つかぬ事聞きますが、その霊能者さんは無料でこれを作ってくれたのですか?」
一応お札を作った時の手間賃は、霊能者協会から支払われる事になっていて、依頼者などから直接受け取ってはならない事になっている。
しかし、樒は不正請求の前科があるから聞いてみたのだが……
「え? はい。無料でした」
不正請求はしなかったようだな。
「だけど、私はお代を払うと言ったのですが『そんなの受け取ったら、相棒から怒られる』と言って受け取ってくれなかったのです」
当然。受け取ったら僕が怒る。
「それでは私はこれで」
そう言って、彼女は自分の部屋へと戻って行った。
今の事を樒にメールで送ると、すぐに返信が来た。
『言い忘れた。確かにご近所さんへの、お裾分け用お札も頼まれたので書いておいたわ。言っておくけど、お代は受け取っていないからね』
知っているって……
『それともう一つ気になることがあるのだけど、冬青さんは幽霊が女子プロレスラーに似ていると言ってたのよね? それも魔入さんのバラエティに出演していたとか』
そうだけど……
『分かったわ。私、ちょっと魔入さんに確認してみる。優樹の方からは、魔入さんに連絡しなくてもいいよ』
それっきり、メールは来なかった。
そのまま何事もなく時間が過ぎていき、メールが来たのは零時を過ぎてからの事。
すでに布団に包まって寝ていたところを、着信音で起こされたのだ。
手探りでスマホを掴んだ時、僕は気がついた。
霊の気配がする事に……




