先生からのプレゼント?
翌朝、僕はバイクで登校した。
今夜は僕が泊まり込みで番をするのだが、その前にここでやることがあったので早めに来ていたのだ。
樒との打ち合わせもそうだが、その前に氷室先生と会う約束をしていた。
いや別に、先生とデートしようというわけじゃなくて……
「優樹」
え? 声の方を振り向くと樒がいた。
こいつ、なんでこんなに早く来ているんだ? それにバイクのエンジン音が聞こえなかったが……
「いやあ、まいったわ。昨日、結界を張るためにお札を書いていたのだけど、今日着ていくワイシャツに墨をこぼしちゃって」
「そうなんだ」
「学校近くのコンビニなら、ワイシャツあるかと思って早めに来たのだけど、早く来すぎちゃったわ」
なるほど、エンジン音が聞こえないと思ったら、ここにバイクを停めて、コンビニへ行っていたのだな。
「で……優樹は、なんでこんなに早く来たの?」
「なんでって……」
エンジン音が聞こえてきたのはその時。
振り向くと、赤いオープンカーが駐車場に入ってくるのが見えた。
「社君」
運転席から女神が……いや、氷室先生が手を振っている。
僕の目には女神様に見えるけど……
僕はオープンカーに駆け寄った。
「先生、おはようございます」
「はい。これ、頼まれていたブツよ」
いや『ブツ』って言い方はちょっと……
と思いながら、先生が差し出した赤いリボンで包装された白い小箱を受け取った。
これじゃあ、プレゼントと誤解されるのだけど……
「先生、ありがとうございます。これはお代です」
小箱を受け取ってから、僕は二万円を入れた封筒を差し出した。
「ああ、お代はいらないわ。これは私からのプレゼントよ」
「え? いえ、そんな、悪いですよ。こんな高い物」
「いいの、いいの。これは私からの気持ちよ。誕生日プレゼントとでも思ってね」
「え? でも……」
「君は通販サイトでそれを買っているけど、私は特別な伝手があって格安で仕入れる事ができるのよ。だから気にする事はないわ」
「はあ、それでは、ありがたく頂きます」
「その代わり」
不意に先生は、僕の左手を握りしめてきた。
あ……暖かい! 先生の手……
「優樹、先生から何をもらったの?」
ギク!
背後から樒の声がかかると同時に、先生はパッと手を放した。
「あら、神森さんもいたの?」
「いましたよ。優樹とは、仕事の打ち合わせがありますので」
「仕事? ああ、霊能者協会の仕事ね。じゃあ、内容は私に話せないわよね」
「当然です。私達には、守秘義務がありますから」
樒。そんなツンケンした言い方しなくても……
「それより、先生。優樹に何をプレゼントしたのですか? 教師が一人の生徒にヒイキするのはあまり感心しませんが……」
「これは……あなた達がこれからどんな仕事をするのかは聞かないけど、これはその仕事に必要な物だと思うわ。社君そうでしょ?」
「ええ、先生」
僕は樒の方を振り向く。
「樒。これは退魔弾だよ」
「退魔弾?」
「この前の仕事で、ほとんどなくなっちゃったから」
「ああ。そういえば、群霊と戦うのにかなり使っていたわね。発注していなかったの?」
「発注はしていたけど、届くのは明日。今日の仕事に間に合わないから、先生に分けてもらうようにお願いしていたんだ」
「ふうん。それは分かったけど……」
樒は先生の方を向いた。
「なぜ退魔弾を、こんなプレゼントみたいに包装するのですか? これって、普通ビニール袋に入れてあるものでしょ?」
「神森さん、これは偽装です」
「偽装?」
「学校では、エアガンの持ち込みは禁止されています。退魔銃もエアガンですから、その弾を校内で受け渡していたらいろいろと面倒な事になるので」
「それでこんな包装をしたのですか?」
「そうですよ?」
「いや……校内で女性教師が男子生徒にこんな物を渡していては、あらぬ誤解を……」
「ああ、私はもう行かないと。抜打ちテストの準備があるから。二人ともお仕事頑張ってね」
そのまま先生は、逃げるように校舎の方へ走っていった。




