霊視開始
振り返ると、男はそのまま敷地のど真ん中に止めていた黒塗りのテスラに乗り込んだ。
そのまま行くかと思ったら、不意に窓を開いて冬青さんの方に向かって声をかける。
「冬青さん。このお嬢さんが失敗した時は、私にぜひお声がけ下さい」
窓を閉めると、テスラはウィーンというモーター音を残して走り去っていった。
なんだったんだ?
「優樹」
樒に声をかけられて振り向く。
「樒、今の人は誰?」
「私もよく知らない。早めにここに来てあんたと冬青さんが来るのを待っていたらさ、いきなりあの人が話しかけてきたのよ」
「何を言ってきたの?」
「なんか私を、あなべる荘の内覧に来た客かと勘違いしたのか、一方的に話しまくってきて。最初は冬青さんの部下かな? と思ったけど……」
「いえいえ! 私は個人経営です。人を雇うとしても、あんな人はお断りです」
冬青さんは慌てて否定する。
「ええ、すぐに違うと分かりました。だってあの人『あなべる荘はオバケが出る』とか『ここは昔の戦場で、今でも落ち武者の霊が出る』とか言うし。冬青さんの部下なら、自社の物件を悪く言うわけないでしょ」
そうだろう、そうだろう。
「冬青さんの知り合いのようだけど誰なの?」
冬青さんは、ハンカチで汗を拭いながら答える。
「烏頭不動産の社長です。うちの幽霊騒動を、どこかで聞きつけてきたらしく。先日から、あなべる荘を格安で売れとしつこく言ってきて」
地上げ屋みたいな奴かな?
「まあ、あんなの幽霊さえ出なくなったら来なくなるわよ。それじゃあ優樹、さっそく霊視してみよう」
僕と樒は、冬青さんに案内されてあなべる荘へと向かった。
「一応気をつけてほしいのですが」
歩きながら冬青さんが話す。
「まだ入居されている方がいらっしゃいますので、あまり大きな声は出さないようお願いします」
まだ住んでいる人がいたんだ。
「一階の五号室に住んでいる男性は、幽霊は出たけど引っ越す金がないとかで留まっておられます」
引っ越す金がない? 家賃は、どうなのだろう?
聞いてみると……
「それはきちんといただいております」
それなら問題ないか。
冬青さんは、一階一号室の扉を開いた。
「では上がって下さい」
玄関を入ってすぐにキッチン。
キッチンを横切ると洋間が一部屋。
人が住んでいないので家具の類はないが、キッチンも洋間も四隅に盛り塩が置いてあった。
「効果あるか分かりませんが、一昨日から各部屋に盛り塩をしています」
まあ、盛り塩もまったく効果がない事はないけどね。
結界を張るほどじゃないんだな。
「優樹、何か感じる?」
樒の質問に僕は首を横にふる。
魔入さんの言うとおり、動物霊一つ居やしない。
十分ほど見て回ったが、一号室にまったく霊はいなかったので僕達は他の部屋へと向かった。




