祓えるわけないけど
男はさらに話を続ける。
「我が社の顧問霊能者の手にかかれば、どんな悪霊でもパパラパーと祓ってみせますよ」
「ふうん。簡単に祓えるんだ」
樒は、どこか馬鹿にするような表情で答える。
この男、樒をただの一般人と思っているようだな。
「ええ、どんな悪霊だろうと簡単に祓えますよ。ですから、お嬢さん。このアパートに住むのでしたら、ここが我が社の所有になってからの方がお得ですよ」
「どうして?」
「ですから、先ほども説明した通り、ここのアパートには、こわ~い悪霊が取り憑いていまして。ここに住まわれた方は、大変怖い思いをされているのですよ」
さっきの立ち話で、樒にそんな事を言っていたのか。
「あのさあ、おじさん、勝手に勘違いしているけど、私は別にここへ住みに来たわけじゃないから」
「え? じゃあ、なんでこんなところで、アパートを見ていたのですか? あ! ひょっとして、心霊スポット巡りの方?」
どうやらこの男、先に来てアパートの敷地にいた樒の姿を見て、入居希望者が内覧に来たと勝手に勘違いしたようだな。
「最近では、このアパート。その手の人達の名所になっていましたからね。幽霊を見たいなら、深夜に来られると良いですよ。こわ~い悪霊と、記念写真が撮れるかもしれません」
悪霊なんかと記念写真なんか撮ってどないすんじゃ!
「SNSに上げればバズる事間違いなしです」
ていうか、そういう事を煽っていいのか?
この男、様子から見て不動産業者のようだけど、この手の業界の人達にとって心霊スポット巡りなんて迷惑以外の何者でもないだろう。
樒も辟易した顔で答える。
「心霊スポット巡りとか、そんな暇人と一緒にされても、困るのだけどなあ。冬青さん、この人に私の事を説明してあげてくれない」
樒に促されて、冬青さんは口を開いた。
「彼女は、霊能者協会から来ていただいた霊能者さんですよ」
「霊能者だって!?」
男は少し驚いたようだ。
「そういう事。だから、おじさんところの顧問霊能者の出番ならないわよ。このアパートの霊は、今夜中に私がパパラパーと祓っちゃうから」
「そ……そういう事でしたか。まあ、お手並み拝見とさせていただきましょう」
そこまで言ってから、男はわざとらしく時間を確認する。
「おお! もうこんな時間か。それでは私は、この辺で失礼させていただきます」
男は振り返ると、逃げるようにスタスタと歩き出した。
そして僕の近くを通るとき、チラッと僕を一瞥。
通り過ぎながら軽く舌打ちした後、ボソッと小声でつぶやくのが聞こえた。
「まあ、祓えるわけないけどな」
どういう事だ?




