魔入さんのファン?
冬青さんが店の外へ出た後に残された魔入さんが呟くように言った。
「困ったものね。あの男の子、実はファンなのよ。本当は霊なんかどうでもよくて、直接会いたくて私の番組に霊的相談を持ちかけたらしいの」
なんだ、魔入さんのファンか。
「だったら、サインの一つでもしてあげればいいじゃないの?」
樒のセリフに魔入さんは首を横に振る。
「無理よ」
「なんで? サインぐらいいいじゃない。減るもんじゃないし」
「勘違いしているけど、彼は私のファンじゃないのよ」
「え?」「じゃあ、誰の?」
僕と樒の質問に、魔入さんは無言で僕を指差す。
「え? 僕?」
「そう。てっきり、私のファンかと思っていたら『あの可愛い霊能者に会わせてください』とか言うのよ」
ううう……『可愛い霊能者』って、女装した僕の事だな。そのうち、こういう事態が起こると危惧してはいたが……
「よっぽど『あれの正体は男の娘よ』と、事実を言いそうになったけど……」
「言わないでください!」
「言ったりしないわよ。私が霊能者協会との間で交わした契約書にも、番組に出演したことにより、霊能者の個人情報が漏れるような事があったりしたら、ペナルティがあるのよ」
「魔入さん。ちなみにどんなペナルティがあるの?」
樒の奴、なんで目を光らせてそんな事を聞くのだ?
「どんなって? 莫大な違約金よ」
う! いやな予感。
「莫大な違約金!」
いかん! 金の話を聞いて樒が興奮している。
「優樹! 次に魔入さんの番組に出たら、正体明かしちゃおう! 莫大な違約金がもらえるわ」
こらこらこら!
「神森さん。それはあくまでも、当方のミスだった場合。そちらが自発的に情報を漏らした場合は、違約金どころか逆に詐欺罪で告訴しますから」
「ううん……残念……」
「それと、今回は番組出演を依頼するつもりはないから」
「え? いいの?」
「ええ。今回は冬青さんの依頼を、そちらで引き受けていただければいいだけ。丸投げみたいで悪いけど、今回の物件は私の手に負えなかったのよ」
「手に負えないって、危険な霊が出たのですか?」
「逆よ。何も出ないから、困っているの」
「出ない?」
「そう。件の物件では、入居者が何人も霊を目撃していて、冬青さん本人も霊を見ているのに、私が行くと動物霊一つ出ないのよ」
ううむ……どうなっているのだ?
僕達よりも能力は劣るけど、魔入さんも霊能者。
一般人でも見える霊がいるのに、魔入さんに見えないというのは……
「とにかく、私はもうこの件からは手を引きたいので、後はそちらに任せていいかしら?」
「まあそういう事なら、通常の霊的依頼と変わらないし引き受けましょう。でも魔入さん」
ここは釘を刺しておこう。
「くれぐれも後になってから『やっぱり今回の件、番組に使わせてね』とか言わないでくださいね」
「わ……私が、そんな事を言うような女に見えるとでも言うの?」
「はい。見えます」
「私も見えるわね」
樒も僕に同調する。
「大丈夫よ。そういう事をするのは私じゃなくて、ディレクターだから。私はあくまでも、彼女の指示で動いているだけ」
「今回もそういう指示を、ディレクターさんから受けるんじゃないのですか?」
「大丈夫。ディレクターは今、仕事を休んでいるから。なんでも急に、引っ越しをしなくてはならなくなったとかで」
引っ越し? そういえば、うちのクラスの降真亜羅も、引っ越しで今日は学校を休んでいたな。
まあ偶然だろ。
冬青さんが席に戻ってきたのはその時だった。




