再びとんずら
深夜の住宅街を、台車を押して走る三姉妹の姿があった。
台車を押しながら長女の羅亜香が不満を漏らす。
「まったく、一ヶ月も経たないうちにまた引っ越しだなんて」
それを聞いて、次女の亜羅が済まなそうに答える。
「はいはい、今回は私が悪かったです。でもね、こうなったのは、悪霊の奴が馬鹿だったせいよ。『時間稼ぎに逃げ回ってこい』と命令したのに、まさか足止めのためだけに、群霊を動員するとは思わなかったわ」
それを聞いて、三女の葉子が首をひねる。
「なぜ、群霊を使ったらだめなのじゃ? 群霊なら、並の霊能者では勝てぬぞよ。実際は負けたけど、あいつらが死神アイテムさえ持っていなければ勝てたぞよ」
「ああ、そうよ。たぶん、悪霊の奴も群霊がまさかやられるとは思ってはいなかったのね。でもね、あの群霊は瘴気地帯の中核を担っていたの。それがやられちゃったら、瘴気地帯が消えちゃうでしょ」
「瘴気地帯が消える? それで何か、困ることでもあるぞよ?」
「ハーちゃんは知らなかったの? 瘴気地帯が消えちゃったら、私達のアジトが死神に見つかってしまうのよ。寒太の魂の緒を隠せたのも、瘴気地帯に寒太の肉体を置いていたからよ」
「なるほど、そうだったのか。勉強になったぞよ」
「しかし、今回の痛手も大きかったわ。寒太が悪霊化するどころか、手持ちの悪霊を二体も失うなんて。今一歩で寒太を悪霊化できたのに、あそこまで諦めが悪いとは」
「どっちにしても、寒太の悪霊化は無理だったのじゃないかしら?」
「ラー姉。どうして無理なんだ?」
「悪霊は魂の緒を切られても、現世に居続ける事ができるわ。ただし、死神に捕まらなければね。寒太の霊魂は死神がずっとマークしていたから、悪霊化してもすぐに捕まってしまうわ」
「でも、悪霊化しても魂の緒がつながっている限り、霊界には連れていけないはずでしょ? 死神は生き霊には手を出せないのだから」
「亜羅。閻魔大王の許可があれば、生き霊の魂の緒でも切れる事は知っているでしょ?」
「知っているけど、たいていの死神は書類仕事を嫌がって、悪霊化している生き霊を見つけても、見て見ぬふりしてスルーしていたわよ」
「あいつらは真面目だったのよ。悪霊を偵察に出して確認したけど、あの死神は面倒な申請書を書いて、閻魔大王に提出して許可証をもらってきていたわ」
「あちゃあ! じゃあ、どう転んでも失敗だったのか」
駐車場に着いたのはその時。
三姉妹は手分けして荷物を積み込み、車に乗り込んだ。
長女の羅亜香が、ステアリングを握って車を発進させる。
「ラー姉。次のアジトは、決めてあるのか?」
「大丈夫よ、亜羅。ここから五キロメートル先の瘴気地帯にあるアパートを、押さえてあるから」
「さすがラー姉。抜かりないな」
「逃げ道は、常に用意しておくのが私のやり方よ」
「それって、自慢にならないぞよ」
三女の冷静な突っ込みに、羅亜香は答えず黙って運転を続けた。




