生き返った寒太
ロックさんは、シーちゃんのところへ駆け寄った。
「よくやったぞ」
「ありがとうございます、先輩。ところで……」
シーちゃんは書類を差し出した。
「寒太さん、生き返っちゃいましたけど、これどうしましょう?」
「ああ……それは……いらなくなったから、閻魔様に返してきてくれ」
「ひどいですぅ」
シーちゃん、かわいそう。
「まあまあ、今回は悪霊を捕まえた事だし、閻魔様からは誉めてもらえるぞ」
「え? もしかして、この悪霊って、大物なのですか?」
「ああ。指名手配中の大物だ。こいつを霊界に連行したら、大手柄だな」
「わーい! じゃあさっそく、連れて帰りましょう」
「待て待て。挨拶が済んでからだ」
ロックさんとシーちゃんは、僕達のところへやってきた。
「樒ちゃん、優樹君、ミクちゃん、今回は協力してくれてありがとう。君達のおかげで、寒太の身体を取り返せただけでなく、悪霊も大量に捕縛できた。感謝する」
「いえいえ、僕達でお役に立てて良かったです」「あたしも、自分の能力が死神さんのお役に立てて嬉しかったです」
という具合に、僕とミクちゃんが優等生の答えをしている横で、樒がロックさんに対して揉み手をしていた。
「へへへ。ロックさん、悪霊を捕まえた事に対しての、特別報酬とかあったりしますか?」
ロックさんは、苦笑しながら答える。
「もちろんあるさ。霊能者協会の方にかけあって、三人に特別ボーナスを出すように言っておくよ」
「わーい!」
つくづくこいつは、金に弱いな。
ロックさんは真っ黒になった悪霊回収瓶を樒に見せた。
「樒ちゃん。この瓶はしばらく預からせてもらうよ。霊界に持ち帰って悪霊を抜いてから、樒ちゃんの家に返しに行くから」
「わっかりました」
「じゃあ、俺達はこれで」
ロックさんとシーちゃんは、時空の歪みへと消えていった。
さて、寒太の方はどうなったかな?
見ると、芝生の上で横になっている寒太を、寒助さんが心配そうに眺めていた。
「寒助さん。寒太は、まだ起きませんか?」
僕が声をかけると、寒助さんは振り向く。
「まだだ。だが、息はしている。もうすぐ目を覚ますだろう」
「それにしても、どうやって寒太君を捕まえたのですか?」
「最初は若い衆を連れて、マンションをしらみつぶしに探すつもりだったんだ。それで、入り口で管理人と交渉をしていたら、こいつがヒョコヒョコと帰って来たものだからとっ捕まえたんだよ」
なるほど。僕達の追跡を振り切ったと思って、安心して戻って来たんだな。
おや? 寒太が目を覚ましたようだ。
寒太は、芝生の上で半身を起こして目を擦っている。
「寒太。気がついたか?」
寒助さんが、寒太の顔を覗き込む。
「あれ? パパ。俺……ずっと夢を見ていたみたいなんだけど」
「夢じゃないぞ」
「え?」
寒太は、周囲を見回して、僕達に視線を固定した。
「夢じゃなかった」
寒太は、寒助さんの方を向き直る。
「パパ。あいつら非道いんだよ。あの大女は俺をポカポカ殴るし、あのチビはすぐ銃で俺を撃つし、あのぺチャパイは俺に『胸の大きいお姉様』と無理矢理言わせるし」
寒太の話を聞いているうちに、寒助さんの顔が厳しくなる。
「馬鹿もん! それはおまえが悪いことをしたからだ!」
「え? パパ」
「俺は今まで、おまえを甘やかし過ぎていた。だが、今日で心を入れ替えた」
そりゃあ、霊魂が入れ替わったのだから、心も入れ替わるだろうね。
「今日から、おまえには厳しくする」
「ええ! そんな……」
寒太の抗議に取り合わず、寒助さんは僕達を指差す。
「あの人達は、おまえの身体を取り戻すために尽力してくれたんだ。まずは礼を言いなさい」
寒太は寒助さんに押さえつけられ、僕達に向かって頭を下げさせられた。
「次はこの子だ」
寒助さんは、続いて有森さんに頭を下げさせる。
「お嬢さん。うちの馬鹿息子が、非道い事をしていたそうですね。申し訳ありませんでした」
「あ……あの……」
謝られて、有森さんは戸惑う。
「この馬鹿の事は、顔を見たくもないでしょう。こいつは転校させます。二度とお嬢さんの前には、姿を現しませんので許していただけないでしょうか?」
「は……はい。私はそれでいいです」
「ありがとうございます」
「パパ。俺、転校なんてやだよ」
「馬鹿もん! 転校で済むだけでもありがたいと思え! おまえがこのお嬢さんにやってきた事は犯罪だぞ!」
「え? そうなの?」
「本来なら指を詰……いやいや……」
この人、一瞬『指を詰める』と言いかけたな。やっぱりヤクザなんだ。
「逮捕されて、刑務所に入ってもおかしくない事だ」
いやいや、小学生を刑務所には入れられないから……ごく希に十二歳未満でも少年院に入るケースはあるらしいけど、普通は児相だから……
「では、私らはこれにて失礼いたします」
そのまま寒助さんは、寒太と黒服軍団を引き連れて帰っていった。




