悪霊を追い出せ
声は、瘴気地帯の方から聞こえてきた。
そっちを見ると、寒助さんを先頭に数人の黒服に黒眼鏡の男達がこっちへ向かって歩いてくる。
「寒太」
寒太は、僕に呼ばれて振り向く。
「寒太のママが言っていた『若い衆』って、あの人たち?」
「ん? そうだけど」
「まるでヤクザみたいだな」
「ヤクザだよ」
マジ!?
「でも、ママやパパは建設会社だと言ってるけど」
いわゆるフロント企業か。
ん? 若い衆の一人が、子供を脇に抱えている。
子供は、両足をこっちへ向けた状態で、バタバタと両足を振っていて顔は見えないが……
「あれって、おまえの身体じゃないのか?」
「え?」
寒太は僕の指さす先を見た。
「あれ? そうかも……」
ていうか、寒太の頭から伸びている魂の緒は、あの子供の方へ向かっている。
ジャミングのせいで、魂の緒は途中で途切れているのでまだ確定できないが……
「放せえ! 降ろせえ! 畜生!」
距離が近づいて来たからか、子供の叫び声が聞こえてきた。
「そうだ! この声は俺の声! あれは、俺の身体だよ!」
寒太は、自分の身体に向かって飛んでいく。
「待て! 寒太!」
僕が止めるのも聞かずに、寒太は自分の身体に頭から入ろうとするが……
「ギャン!」
身体に触れた途端、霊体の寒太は弾き返された。
「畜生! 俺の身体なのに、なんで入れないんだよう!?」
中に悪霊がいるからな。
「寒太! 大丈夫か?」
寒助さんが、霊体の寒太のもとへ駆け寄る。
「え? パパ。俺の姿が見えるの?」
「当たり前だ。俺もずっとこの辺りで、生き霊になって彷徨っていたんだからな。今でも霊は見えるんだよ」
「パパ」
「いいか、寒太。あれはおまえの身体だが、あの中には悪霊が入っている。身体から悪霊を追い出さないと、おまえは身体に戻れない」
「じゃあ、追い出してよ」
「俺には、悪霊を追い出す事はできない。悪霊を追い出せるのは……」
そう言って寒助さんは、樒を指さした。
「あの姉ちゃんだけだ。頼んだぞ、姉ちゃん!」
「まかせて。その前に、寒太の身体を私の方へ向けて」
「おお! 樫原、寒太をあのお嬢さんの方へ向けろ」
「へい! 社長」
寒太を捕まえていたのは、樫原だったのか。
おっと! 僕も準備しないと。
退魔銃のカートリッジを交換してから樒の方を見ると、樒は寒太の身体に向かって右手をすっと伸ばしていた。
「やめろう! やめてくれえ!」
樫原に押さえつけられた寒太は……というかそれに憑依している悪霊が必死に叫ぶが、樒はかまうことなく九字を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前!」
寒太の身体から、悪霊が弾き飛ばされた。




