他言無用
ん? スマホ画面を改めてみると、文章に続きがあるみたいだが……
指を画面に当てて、動かして見たら『ハーちゃんより』と書いてあった。
さらに画面を動かすと『追伸:なお、わらわから指示されたという事は他言無用』
おい……
僕が突っ込もうとしたが、その前に樒が口を開く。
「有森ちゃん。ここに追伸があるけど読んだ?」
「はい? 読みましたけど……」
「書いてある意味、分かった?」
「その……最初の方は分かったのだけど、最後に書いてある言葉の意味が分からなくて……『ほかことむよう』ってどういう意味ですか?」
樒は困ったような顔をした後、僕とミクちゃんを見比べてからミクちゃんの肩を叩く。
「ミクちゃん。説明お願い」
「はーい。あのねえ、有森さん」
ミクちゃんは、スマホ画面に表示されている『他言無用』を指さす。
「これは『ほかことむよう』じゃなくて『たごんむよう』と読むのよ」
「ああ、そうなのですか」
「それでえ、他言無用の意味は『誰にも言ってはいけないよ』という事」
これが小六と中一の学力差なのか? それともこの子が国語に弱いのか、ミクちゃんが陰陽師の教育を受けていたからなのか?
「そうだったのですか。え? 私……喋っちゃった」
「良いのよ、良いのよ、気にしなくて。小学生相手に、難しい言葉を使う方が悪いのだから」
「え……でも……」
「それに、最初の方に『誠意をこめてお願いするぞよ』って書いてあったじゃない。包み隠さずすべてを話さないと、誠意なんて無いわよ」
「はあ、そうですね。私も誠意をこめろと言われたから、隠し事はしちゃいけないのかなって」
「それでいいのよ。それでさあ、有森さんはまだ、寒太君を生き返らせるのはやめて欲しいのかな?」
有森さんは、しばしの間沈黙した。
少しして、絞り出すように言葉を紡ぐ。
「分からないのです」
分からない?
「最初は、寒太君なんて死んじゃえばいいと思っていました。でも……寒太君を、踏切に置き去りにしたあの日、私は凄く怖くなってしまったのです」
まあ、そうだろうな。いくら憎くても、自分が直接手を下したわけじゃなくても、人の死に関わってしまったら辛いだろう。
「寒太君が生きていると分かった時は、すごくほっとしました。でも、また寒太君が帰ってくると思うと怖くて……」
ハッ! うっかりしていたけど、寒太は大丈夫か?
有森さんの言っている事を聞いて、悪霊化していないだろうか?
え?
寒太の方を見ると、涙を流していた。
「寒太。泣いているのか?」
「俺……馬鹿だった。やっと分かったよ。俺……有森に、ヒドい事をしていたって……嫌われて当然だよな」
寒太……
「でもさ、俺が生き帰っても、また有森をイジメると思う」
「どうしてだよ? 分かったのなら、やめればいいだけだろ」
寒太は首を横に振る。
「無理だ。俺は、自分がどんな奴だか分かっている。俺は、誰かをイジメたいという気持ちが、抑えきれなくなるんだ。もし生き返って、有森をイジメるのをやめたとしても、今度は別の誰かをイジメると思う。俺はそういう奴なんだよ」
そのまま寒太はロックさんのところへ行った。
「死神のお兄さん。もう、良いよ。俺の魂の緒を切っちゃってくれ」
ロックさんは渋い顔をして答える。
「まあ、待て。まだ生き返れないわけじゃない」
「でも、生き返ったら俺……また悪い事をしそうだし……」
「おまえなあ、自分のやっていた事が悪い事と分かったのなら、生き返ってから、それを直していけばいいじゃないか」
「でも……」
「それにだな、閻魔様の許可が下りていないので、まだおまえの魂の緒を切る事はできないんだよ」
ん? 強い霊気が来る。
この霊気は?
霊気の流れてくる方向へ目を向けると、空間が歪んでいる。
その空間の歪みから、這い出してきたのは黒いワンピースを纏った女の子。
シーちゃん! 帰ってきちゃったか!




