有森さんの事情
土曜日の授業は、いつもより早く終わったように感じました。
それだけ、楽しかったからかもしれません。
「澄香ちゃん」
絵里香ちゃんに声をかけられて、私は振り向きます。
「そんなに急がなくても、大丈夫だよ。今日は、寒太君いないんだから」
「あっ! そうか」
私はいつも、学校が終わると大急ぎで帰っていたのです。
通学路で寒太君に捕まると、イジメられるので……
「寒太がいないと、本当に平和だね。このクラス」
私の横で、そんな事を言った男の子は榊君。
「あいつ、このまま帰ってこなきゃいいのに……」
「おいおい榊。そういう事は、言っちゃいけないな」
「そういう鈴木だって、うれしそうじゃん」
「やっぱし……」
クラスの誰もが、寒太君がいない事を喜んでいました。
普段は、寒太君と遊んでいる男の子達まで……
「そういえば昨日、寒太の親戚だという人から、行方を聞かれたな」
「あ! 俺も」「あたしも」
「親戚が探しているという事は、あいつマジで行方不明なんだな」
「明日になったら、ケロッとして帰ってきたりなんかしないだろうな?」
「よせよ、縁起でもない。今頃はどっかで野垂れ死んで、この辺りを彷徨っているんじゃね?」
「おまえの言ってる方が、よっぽど縁起悪い」
「やっぱし。そうだ柴田さん」
榊くんに呼ばれて、絵里香ちゃんが振り向きました。
「柴田さんって、霊が見えるんでしょ。寒太の幽霊、この辺りにいない?」
「う! それは……」
絵里香ちゃんの顔が引きつりました。
「あれ? マジでいたの?」
絵里香ちゃんは、こくりと頷きました。
「昨日……見たけど……」
教室に残っていた子達が、それを聞いて一斉にざわめきました。
「マジ?」「じゃあ……あいつ死んだのか?」
絵里香ちゃんは、慌てて否定しました。
「違うの! 私が見たのは、寒太君の生き霊なの!」
「なんだ生きてたのか」「ちちい、しぶとい奴だ」
その後、教室に残っていた子達と他愛のないおしゃべりをしてから、私は帰りました。
昇降口を出た時、私は気づいたのです。
放課後、教室に残ってみんなとお喋りしていた時間が、凄く楽しかったという事に……
こんな事が、ずっと続けばいいなと思いました。
でも、校門を出た時……
「楽しい時間は、続かないぞよ」
突然、小さな女の子が、私にそんな事を言ってきたのです。
「それ、どういう事?」
女の子は、ハーちゃんと名乗りました。どう見ても、私より年下なのに、なんか大人びた話し方をします。
「来週になれば、寒太は戻ってくるぞよ」
「ええ?」
それを聞いて、私は目の前が真っ暗になったような気分になりました。
寒太君が戻ってきたら、また地獄のような日々が戻ってくる。
「い……いや! そんなの……」
「だが、まだ戻ってくると、決まったわけではないぞよ」
「え?」
「寒太を、連れ戻そうとしている者達がおるぞよ。わらわはそれを阻止したいのじゃ。おぬしがそれを手伝ってくれるのなら……」
「手伝う! 何をすればいいの?」
そして私は……




