私を霊界に連れてって
有森さんは、思い詰めたような眼差しで僕を見つめてから口を開いた。
「ここで、寒太君を、生き返らせようとしていると聞いたのですが……」
「聞いたって? 誰から?」
「ええっと……本名は分からないけど……ハーちゃんって言っていました」
タンハーだな。
「それって……おかっぱ頭で、浅黒い肌の女の子かな?」
「そうです。その子です」
どうやらこの女の子、タンハーから何かを吹き込まれていたようだな。
「お願いです。寒太君を生き返らせるのなら……」
そこで有森さんは押し黙る。
「生き返らせるのを、やめて欲しいの?」
彼女は頷く。
「でも、やめては、くれないのですよね?」
そりゃあ、やめるわけにはいかないし……
「それなら……いっその事……私を霊界に連れて行って下さい」
えええええええええ!? いきなり何を?
「君……何を言ってるのか、分かっているの? 霊界へ行くって、死ぬ事だよ」
僕の問いかけに、有森さんは小さく頷く。
「分かっています」
「君は死にたいの?」
「死にたくは……ないです」
「じゃあなんで?」
「もう、嫌なのです。寒太君に、イジメられるのは……」
それから、彼女は事情を話し始めた。
「寒太君を踏切に残してきた翌日、私は最初学校を休みました。でも、友達からのメールで、寒太君が休んでいる事が分かったので、二限目から登校したのです」
友達って、たぶん柴田さんの事だな。
「そしたら、学校がとても楽しかったのです」
「楽しかったの?」
「寒太君が怖くて、いつもは学校では怯えていたのに、辛かったのに……寒太君がいないだけで、学校がすごく楽しくなったのです」
寒太の方を見ると、ひどくショックを受けていた。
「なんでだよ? なんで俺がいないと、楽しいんだよ?」
だから、霊感のない有森さんに、幽霊のおまえが話しかけたって聞こえないって……
「寒太君」
ミクちゃんが、顔をしかめて寒太に詰め寄る。
「あたし言ったよね。イジメられて喜ぶ女の子なんていないって。そんな事したら、女の子は君の事を大嫌いになるって」
「え……でも……」
「あたしの言った事は、嘘だとでも思っていたの?」
ミクちゃんは、有森さんの方を指さす。
「今この子の言った事が、現実なのよ」
「そ……そんな……俺、本当に有森に嫌われていたの?」
だから、そう言っているのに、なんでこいつは自覚できないんだ?
有森さんは、さらに話を続ける。
「翌日の土曜授業は、朝からずっと楽しかったのです。寒太君のいない学校が、こんなに良い場所だったなんて初めて知りました。だから、思いました。このまま寒太君が、帰って来なければいいと……でも……」




