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霊能者のお仕事  作者: 津嶋朋靖
嫌悪の魔神

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246/289

要注意事故物件

 頭に大きなタンコブをつけて路面に伸びているタンハーを残して、僕達は寒太を追いかけた。


「しかし、樒って……本当に容赦ないなあ」


 タンハーって、中身が魔神とは言え見た目は幼女だろ。


 よく、ポカリと殴れるものだな。


「なによ! タンハーが『わらわを倒してから行け』というから、そうしただけよ。なにか問題でも?」

「いえ……別に……」


 そうしている間に、寒太は一軒の家に逃げ込んだ。


 見たところ、築十数年ほどの木造モルタル二階建て住宅のようだが……


「まずいわね。優樹、このまま私達が追いかけて勝手にこの家に入ると、不法侵入になるかしら?」

「なるね。でも、それは寒太も同じだから、この家の人に寒太が追い出されるのを待っていれば……」


 不意にミクちゃんが、僕のセリフを遮る。


「家の中に、生きている人はいないわ」


 え? そうか、ミクちゃんの式神なら、法律の縛りなしに家に入れるな。


「人がいない代わりに、悪霊が住み着いているわよ。寒太君が、悪霊と何か話をしているわ」

「何を話しているのか、分かるかな?」

「優樹君。ちょっと待ってね……悪霊は寒太君に『出て行け』と言っているけど、寒太君に取り憑いている悪霊は『まあ、話を聞け』と宥めている感じね」


 そこでミクちゃんは、目を瞑って黙り込んだ。


 式神に意識を集中しているようだ。


 しばらくしてミクちゃんは、目を瞑ったまま口を開く。


「悪霊は言っている。『この身体を使ってみないか』って」


 それって、今憑依している寒太の身体を、別の霊に明け渡すという事か?


 しかし、なんのために?


「寒太君の身体から悪霊が離れた。別の悪霊が寒太君に入ってくる」

「離れた方の悪霊は、どうしているの?」

「まだ部屋の中にいる。『身体の使い心地はどうだ?』って聞いているよ。新しく入った霊は『悪くない』と」


 なんか車を売ったディーラーが、客に車の具合を聞いているみたいだな。

 

「優樹。ミクちゃん」


 樒が僕達に、スマホをかざして見せた。


 そこにあるのは、霊能者協会のホームページ。


「この家は、要注意事故物件に登録されているわ」


 なんだって?


「瘴気地帯の中にある上に、かなりやばい霊が付いているので、今まで除霊処置を見送っていた物件だそうよ」


 マジか!


「出てくる!」


 不意にミクちゃんが叫んだ。


「出てくるって、何が?」

「寒太君の身体が……でも、今身体に入っているのは、この家の悪霊よ」


 ミクちゃんが言い終わった時、玄関の扉が開いた。


 そこにいるのは寒太。


 しかし、その身体からは禍々しい邪気が放たれていた。


 樒が右手を突き出す。


「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前!」


 樒の九字切りを食らったが、寒太は顔を少ししかめただけだった。


 樒の九字切りが利かない!


 これはちょっと、ヤバいかも…… 

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