要注意事故物件
頭に大きなタンコブをつけて路面に伸びているタンハーを残して、僕達は寒太を追いかけた。
「しかし、樒って……本当に容赦ないなあ」
タンハーって、中身が魔神とは言え見た目は幼女だろ。
よく、ポカリと殴れるものだな。
「なによ! タンハーが『わらわを倒してから行け』というから、そうしただけよ。なにか問題でも?」
「いえ……別に……」
そうしている間に、寒太は一軒の家に逃げ込んだ。
見たところ、築十数年ほどの木造モルタル二階建て住宅のようだが……
「まずいわね。優樹、このまま私達が追いかけて勝手にこの家に入ると、不法侵入になるかしら?」
「なるね。でも、それは寒太も同じだから、この家の人に寒太が追い出されるのを待っていれば……」
不意にミクちゃんが、僕のセリフを遮る。
「家の中に、生きている人はいないわ」
え? そうか、ミクちゃんの式神なら、法律の縛りなしに家に入れるな。
「人がいない代わりに、悪霊が住み着いているわよ。寒太君が、悪霊と何か話をしているわ」
「何を話しているのか、分かるかな?」
「優樹君。ちょっと待ってね……悪霊は寒太君に『出て行け』と言っているけど、寒太君に取り憑いている悪霊は『まあ、話を聞け』と宥めている感じね」
そこでミクちゃんは、目を瞑って黙り込んだ。
式神に意識を集中しているようだ。
しばらくしてミクちゃんは、目を瞑ったまま口を開く。
「悪霊は言っている。『この身体を使ってみないか』って」
それって、今憑依している寒太の身体を、別の霊に明け渡すという事か?
しかし、なんのために?
「寒太君の身体から悪霊が離れた。別の悪霊が寒太君に入ってくる」
「離れた方の悪霊は、どうしているの?」
「まだ部屋の中にいる。『身体の使い心地はどうだ?』って聞いているよ。新しく入った霊は『悪くない』と」
なんか車を売ったディーラーが、客に車の具合を聞いているみたいだな。
「優樹。ミクちゃん」
樒が僕達に、スマホをかざして見せた。
そこにあるのは、霊能者協会のホームページ。
「この家は、要注意事故物件に登録されているわ」
なんだって?
「瘴気地帯の中にある上に、かなりやばい霊が付いているので、今まで除霊処置を見送っていた物件だそうよ」
マジか!
「出てくる!」
不意にミクちゃんが叫んだ。
「出てくるって、何が?」
「寒太君の身体が……でも、今身体に入っているのは、この家の悪霊よ」
ミクちゃんが言い終わった時、玄関の扉が開いた。
そこにいるのは寒太。
しかし、その身体からは禍々しい邪気が放たれていた。
樒が右手を突き出す。
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前!」
樒の九字切りを食らったが、寒太は顔を少ししかめただけだった。
樒の九字切りが利かない!
これはちょっと、ヤバいかも……




