倒せばいいのね?
男の子は、茂みに隠れた。
「お……俺を、捕まえられるものなら捕まえてみろ! この身体は、絶対に返さないぞ」
ん? この声? 寒太の声とはちょっと……いや、かなり違うような……
「あんた、何をやっているのよ?」
樒は、ずかずかと茂みに近づいていく。
「ひいい! 来るな!」
茂みの反対側から男の子が飛び出した。
と、同時に野球帽がポロッと落ちる。
野球帽に無理矢理押し込んでいた髪が飛び出し、おかっぱ頭が露わになった。
タンハーが変装していたのか。
「やっぱり、タンハーね。それはいったいなんのつもりよ?」
「なんのつもりだと? 見て分からぬか? 寒太のふりをしておまえ達の気を引きつけている間に、本物の寒太を逃がすつもりじゃ」
いや、それは見て分かっていたけど……
「いや、私が聞きたいのは、それで寒太に変装しているつもりなのかという事なのだけど……」
「なに? わらわの完璧な変装を見破っていたというのか!」
完璧なつもりだったんだ。
「恐ろしい奴らじゃ!」
いや、そんな事で恐れられても困るのだが……
「だが、おまえらの気を引きつける事には成功したようじゃな。すでに寒太は逃げた後じゃ」
は! しまった! タンハーに気を取られている間に、寒太に逃げられる。
マンションの方をふり向いた。
そこには誰もいない。
ただ、人はいないが、人が一人隠れるのにちょうどいい大きさのダンボール箱が、歩道の上に置いてあった。
そのダンボール箱は、光を放っている。
樒は、馬鹿にするような笑みをタンハーに向けた。
「タンハーちゃん。寒太君はまだ、逃げてはいないようだけど」
「何を言う。寒太は、とっくに逃げた後だぞ」
「いや、そこに隠れているじゃない」
「か……隠れてなどいない。ダンボール箱の下に、隠れてなんかいないぞ!」
あのなあ……
ミクちゃんが、つかつかとダンボール箱に歩み寄る。
ガバッとダンボール箱を持ち上げた。
「めっけ!」
「な……なぜ、俺がここにいると分かった!?」
「あのねえ、今の君は身体が光っているから、どこにも隠れられないのよ」
「なに!? この光って、ダンボールじゃ遮れないのか?」
気がついていなかったのか。
「くそ! 捕まってたまるか!」
寒太は踵を返して逃げ出した。
「待ちなさい!」
僕達は、寒太を追って駆け出す。
てか、寒太の奴、小学生のくせになんちゅう脚力。
さっぱり追いつけない。
いや、僕も樒も普段バイクで移動しているせいで脚力が衰えているのかな?
一方、日頃バイクなどに頼っていないミクちゃんは、猛ダッシュで寒太に追いついていく。
「そうはさせぬぞ」
タンハーが、ミクちゃんの前に両手を広げて立ち塞がった。
「どきなさい!」
「いやじゃ! ここは通さぬぞ! この胸なし!」
「む……胸は、あんたよりはあるわよ!」
「わらわは小学生じゃ。中学生になっても、まだその程度とは惨めじゃのう」
「むかー! いいからどきなさい」
「ここを通りたければ、わらわを倒してから行くんじゃな」
「倒せばいいのね?」
「え?」
新たな声の方へタンハーは顔を向ける。
そこでは、ようやく追いついた樒が、拳を握りしめて凶悪な笑みを浮かべていた。




